6 選んだ道

「「なんで、そっちなんだ?」」


正面にある二つの道を前に、俺たちはお互いが行きたい方向を指さすことにした。

その結果見事に分かれた。


「なんでそっちの道を選ぶんだ? さっきので疲れただろ?」

「他んやつと同じ道に行ってもしょうがねぇだろ」


俺が再度茶楽に問いかけるとまともな回答が返ってくる。

とは言ってもその先には蟻がうじゃうじゃいるかと思うと俺は気が乗らない。

もう一方の道に別PTが先行していると考えると、さっきの道で遭遇した蟻は茶楽が行こうとしている道から流れてきただろうし……


ちなみに茶楽が指さした右に先行しているPTがいないと分かるのは、逆の左の道付近に鉄製のカードが指してあるからだ。

内部にLEDが入っていて発光するようになっていて、分かれ道を行くときにはどこかに挿し戻ってくるときには抜く運用となっているらしい。


なので左の道には先行PTが行っていると判断できた。

ついでにこの話は選ぶ前に茶楽から聞いただけで、陸自からは全く言われなかった。

陸自からは期待されてるような話しぶりで言われてるんだけど、伝達されてない事多くない?



「いや、時間的な制約もあって全部調べられるわけもないんだから安全に行くべきだろ」

「……安全? 安全ねぇ……」

「何か言いたいのか?」

「明彦の選択肢は、安全っていうのか?」


そう言って茶楽は鉄製のカードが挿さっている左の道ではなく、俺が選択した別の道を指さしながら問いかける。

何故か若干こめかみを引く付かせてもいるけど。


俺が選んだのは前方に見える二つの道ではなく、俺の持っているスキル【隠し通路発見】の恩恵か新たに


「安全っていうかヘタレだろ! ってどうなんだ!?」


見つかった道ではなく、お家に帰る道です。

数十匹蟻倒して、鉱石もちょっと回収したからもう誰も文句言わないだろ。

帰って俺たちの仕事したいわ!


という言葉は隠して俺は建前で対応する事にする。

なんか今回のコイツ妙にやる気あるんだよなぁ……

本当に地がこんな感じだと今後も戦闘以外の面では大変そうで、ちょっと不安になる。


「茶楽、お前も結構危険な状況になったんだし、別に時間的なノルマがあるわけじゃない。 なら自分達の安全を考えて今日の所は帰るべきだろ!」

「いや、できる限り探索すべきだろ! 明日になったらまた変わるんだぞ?」

「だからこそ、無理する必要ないと思うんだけど……」


何度かやりとりしても平行線で会話が進まない。

茶楽がそこまで進めたい理由が掴めないのでどうやって説得したものかと考える。


ピィーーーー!


思案を巡らせていると甲高い笛の音が聞こえてくる。

思わず茶楽と顔を見合わすと、茶楽も驚いたような顔をしている。


「これって、あれだよな緊急時に鳴らすように言われてた笛の音だよな」

「ああ、でもって今ここにいんのは俺たちと先にいったやつらの2PTだけだ」

「さすがにこれは行き先決まったな」


そう俺が言うと俺たちは意を決してに走り出す。


「明彦! ちょっと待て!!」

「ん?」

「なんで戻んだ? 助けにいくとこだろここは!」

「いや、陸自にヘルプを要請するのがいいだろう」

「最大戦力が何言ってやがる! 俺らが行って誰かを伝令にやればいいだろうが! 奴らだけに任したら全滅すっぞ!?」


そう言われると返す言葉が無い。

しぶしぶ俺は方向転換して茶楽の向かう方向に走る。


茶楽の言う事は正論だけど、茶楽に言われるとなんか屈辱なのはなぜだろう……




「茶楽、一応言っておくが俺たちもさっきの戦闘から見て無双できるわけじゃない! 量にもよるが殲滅より撤退を優先するべきだ」

「分かってる!!」


俺は念のために走りながら自分のMPをチェックすると残り2/3といった所か。

万が一の事を考えて1/3は下回らないように気を付けよう。


少し長めの通路を通り抜けるとそこにはさっきまでとは比較にならない程の蟻の群れができている。

物量としてさっきと比較にならない程の量で、どんなに少なく見積もっても100を超えている。


目標を探していると周囲から頭一つ抜けている集団が見えるので、アレがそうだろう。


「おめぇら、こっちへ道を繋げろ!!」


背中は壁に面して安全を確保しているが、他の全方位を蟻にたかられて身動きできていないので、茶楽が行動指針を示す。


「「「「「「ベアキラー!!!!!!」」」」」」

「「呼んでるぞ明彦 (茶楽)」」


取り合えず、名称の押し付け合いをしたが戦闘行動をすぐ開始する。

ぶっちゃけ放置して帰りたくなったけど、さすがにこの状況を見ていくら俺でもそれはできない。


まあ、後で全員シバク程度にしておこう。

生き延びてたら……


「明彦、俺の横に出ろ! さっきと違ってスペース取れんから俺は回避ができる! 援護は少なくていい!」

「分かった!」


さっきの戦闘とはスタイルを変えて前衛二人での戦闘になる。

蟻はまだこっちに気づいていないのでまずは奇襲で一気に数を減らしにかかる。


背中から手刀で一突きで簡単に致命傷を与えられるので、クマと比べるべきでもない程蟻の防御力は低い。

試しに殴ったら衝撃で吹っ飛んで行ったし、腕を掴んで引っ張ると簡単に引きちぎる事ができた。


「やっぱ、明彦とタメ張ろうとか狂人の思考だな……」


隣からおかしな感想が聞こえてくるが今は突っ込んでいる余裕がない。

茶楽も人の事は言えない感じで巧みにナイフを使って確実に蟻の数を減らしている。

さっきまで同種のモンスターと戦闘をしていたから倒し方が慣れたというのもあるが、やっぱり一般人とは違う安心感を感じる。


単体では圧倒できる俺たちでも、最大の問題は蟻の量だ。

倒すには一匹ずつ相手にするしかなく、数を出せるマジックボルトは命中精度の前に威力に難がある。

マシンガンのように面制圧できるような方法があれば対処が容易になるのだが、俺たちにはその手段がない。



流石に何匹も屠っていると蟻たちも俺たちの存在を意識してくるので、攻撃意外に回避行動も必要になってくる。


茶楽は両手にナイフを構えてさっきの戦闘よりも大きく体を動かして相手の攻撃を躱して攻撃を叩き込んで相手を確実に潰している。


「キリがねぇな……」


茶楽がボヤくが、不満というよりも危機感の表れだと思う。

さっきの戦闘からも体力的な問題が出てくるのは明白だ。

自分の消耗具合と残りの量を考えて、言葉が思わず漏れてしまったのだろう。


まだ他PTとの距離が入り口から1/5も進んでいないのに、そんな言葉が出るのはまずい兆候だ。



病み上がり一発目の探索でこんなにハードな状況になるとは思ってなかったが、二日目を迎える為にも何か手を考えないといけない。


俺たちには直接攻撃意外のカードが少なすぎるのが今回の問題に繋がっている。

せめて他PTの特性を頭に入れてくればよかった、という後悔が頭に浮かんでくるが今更どうする事も出来ない。


少しでも殲滅速度を上げるか、体力の温存ができるような手はないのだろうか。

目の前の事には反射的に対処し、頭では現状の打開の手を考え続ける。

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