【3章】ダンジョン探索

1 旅は道連れダンジョンの供は情け

ピンポーン


ダンジョン業務再開の日、身支度をしているとチャイムが鳴る。


『おはようございます~。 探索サポート課の西原で~す』

「あ、はい直ぐ開けます!」


ドアクラッシャーこと西原さんが参られたので、ドアに被害を与える前に玄関にいく。

いま扉を壊されたらまた一つ騒動が起きてしまい、ユウ達の心労が増えてしまう。

普通チャイムが鳴って扉の心配をする事ないはずなんだけどね……



「おはようございま~す」

「おはようございます」

「あの~、私って~今日何のために~呼ばれたんですか~?」

「平課長から聞いてませんか?」

「課長からは~、取り合えず行けってだけ~言われてます~」

「簡単に言うとダンジョン体験です!」

「はい~?」

「初めてのダンジョン体験です!!」


どうも聞こえなかったようなので繰り返す。


事前に平課長に話に聞くだけでなく実際に体験する事が共通認識を持つために重要だと説得していた。

その為担当者の体験活動を訴えたら、あっさりと許可は下りた。

まあ、実際に平課長は冒険者カードまで取ってるからね。


西原さんが詳細を知らないのは、事前に知っておくと面倒なことになると判断したのだろう。

前に一緒に来た時も正常にコミュニケーション取れているように感じなかったし。


「あの~、私ニートになった覚え~ないんですけど~?」

「……業務指示が出たからしょうがないんじゃないでしょうか?」


貼り付けたような笑みになったので、発端が俺だというのは伏せ、さも上司の発案だと思わせる。

この前の感じから上司には手を上げないだろう…………タブン


「またまた~ごじょうだんを~」

「信じられないようだったら平課長に連絡取ってもらってもいいですよ?」


いつぞやと逆の立場のやりとりをする。

騙されてダンジョンに連れていかれてはたまらないと思ったのか上司に確認を取る西原さん。


「それなら手当出るんですよね!? 手当!! 私達が直接ダンジョンに行くのは業務外の事ですよね!? 危険手当とか現場手当とかでるのが当然じゃないですか!? ……いや制度的な問題なら課長のポケットからくれててもいいんですよ!?」


先日と同様に間延びするしゃべり方がなくなってきたので、やっぱり本気で怒る時は消えるんだなと確信する。


しかし、手当か……いいなぁ。

知ってる? 俺ってダンジョンで活躍しようがしまいがお金って貰えないんだよ……?


お金の交渉をできる立場の人を目の当たりにすると嘆かずにはいられない。




しばらくして色々と話がついたのか諦めたような顔をしだす。


「そうそれ! それが俺がこの前受け……グハッ」


つい自分の気持ちが口を突いて出たら蹴られました。

自分の時は蹴るってなんか理不尽じゃないか?

俺の時って「黙れニート」って言ってたよね?


取り合えずダンジョンに行くために駐車場の方に促す。


「あの~……車ってどこですか?」


ある方向には視線をやらずに探す仕草をする西原さん。

いや、すぐそこにあるんだけどなぁ。


「あ、アッキー! おはよ~」

「「「「おはようございます」」」」


と元気に手を振ってくるタマwithポリスメン。

なんかこの光景見慣れたなぁ……


俺が乗る車はその奥にある……わけではなくタマの愛車である。

免許持ってるから車通勤しようと心に決めたわけだけど、そもそもの問題として車が無い!!


無職に車の維持費が払えるわけもなく、外出回数が多くない。

そもそも特にアチコチ行きたくなる性質ではないので、そういう時はトレーニング兼ねて走ればいいかという結論になっていた。


なので、ユウ(パトロン)に車をお願いしてみたのだけどその結果が陸自からのタクシー(タマ)手配だった!

何で改善しようと思ったら振出しに戻る!?


ダンジョンでの事をまだ根に持ってるかと思ったけれど、そもそもユウはタマの運転を知らないのでただの負担軽減のつもりだったんだろう。



その事を西原さんに説明したら

「和田さんを~捕まえに来たとか~監視してるとか~じゃないんですね~?」

との言葉をいただいた。


いやなんで!?

と思ったけど役所がそれぞれの経歴を細かく調査してると確かに疑問に思うか。


そんな事を考えていると俺に加えてもう一人ドライブに付き合ってくれるということでウキウキしているタマが乗車を勧めてくる。


「あ、一応シートベルトしておいた方がいいですよ」

「一般道だったら~後部座席シートベルト~しなくていいですよね~」

「し・て・お・い・た・ほ・う・が・い・い・で・す・よ」


真顔で一音一音を区切って言うと納得いかない顔をしつつも、従ってくれる。

その意味をすぐに思い知ることになるだろう。


なぜ、警察とタムロしていたのか?

なぜ、俺がダンジョンでなく俺の自宅に呼んだのか?

なぜ、俺がシートベルトを強く勧めたのか?


答: 車通勤がタマになった苦痛を誰かと分かち合う為



俺からすればもうダンジョン探索は始まっているようなのものだ!


そう思っていると車は発進し、すぐさまタイヤが苛烈な悲鳴を上げ始める。

少しすると後ろからサイレンの音が鳴り始めるという、この車の日常の光景となる。

当然ながら隣で運転しているタマは上機嫌である。


……あ、酔い止め飲んでもらうの忘れてた

バックミラーで後ろを確認すると、青い顔をしている女性が映っている。





ダンジョン前の駐屯地に到着後、西原さんは真っ先にトイレに向かう。

途中で吐かなかったのは女性としての矜持だろうか。


トイレの周囲で待っても気まずいだろうから、西原さんの事はタマに任せてタイチョーの部屋に向かう。

……前に誰か隊員(通訳)を探そう。




「だめだ」

「なぜ!? この前はユウと平課長も同行したじゃないですか!?」


事前に自衛隊側には話を通してなかったので、西原さんの件を話に来たのだが予想と異なり拒否されている。


「違う」


タイチョーのいつもの会話のように短文で帰ってくるので、途中で捕まえたタツに視線を向ける。


「冒険者カードを取りに行くのが目的でなく、アッキーに同行するのだろ? 以前とは違う」

「……それって何か違う?」

「……地下二階に職員を連れて行こうとしてるんだろ?」


呆れた顔をしながらタツが俺の本心に突っ込んでくる。

冒険者カードを取りに行くついでに地下二階に突っ込もうとしたが、俺の浅はかな考えは読まれていた。


「アッキーの言うように冒険者カード取りに行くくらいならいい……ですよね?」


タツがタイチョーに確認を取るとタイチョーも頷くが、俺の気持ちは違う!


「とは言っても後発の俺が最初に行った冒険者達の中に入れないよね? 多分パーティーとして形になってるだろうし」

「「ソロでよくない?」」

「検討すらしてもらってないのか!?」


いくらクマ倒したといっても俺が自分で動けないような状態で出てきたの忘れてしまったのか?


自衛隊に釈迦に説法だろうが、複数人であるメリットを力説する。

間にチョクチョク丁度組める人を連れてきたことを入れるのを忘れない。


「さすがに、完全な素人だと足を引っ張るだろう」

「……一応一人いる」

「タイチョーまさかアイツ!?」


タツは驚くが、この際誰でもいいかと思い始める。

地下二階はモンスターが生息しているのだから、警戒する範囲を減らせることができるだけでもメリットがある。


話の流れから陸自隊員の問題児なのだろうが、それならサバイバルは養っているだろうから助かるのでお願いする。


「食堂に行け」

「……後悔するなよ?」


どうやら食堂にいるらしいのだが、タツはあまり乗り気じゃない様子。

仲が悪い隊員なのだろうか?

とはいえ、顔が分からないのでタツと一緒に食堂に向かう。




食堂に到着すると端の方を指して

「アイツがアッキーのパーティーメンバーになる」

と言ったので目を向けると


「……ぇ?」

「……ん? おっ、ベアキラー久しぶり」


以前と違ってまともな声掛けをしてきたが、そこにいたのは自称ベアキラーだ。

そういえばコイツ入院してたんだっけ……

タツが渋ったわけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る