9 冒険者カード報告

ダンジョンから悲しいサプライズを受けた俺は悔しいので、称号がついたもう一人の冒険者カードに目を向ける。


************************************

【称号】

土下座の開拓者

************************************


「は?」


俺に向かってニヤ付いていた面々も俺が平課長のカードを見ているのに気づいたのか、平課長の称号を確認してざわつく。


土下座は納得できるけど、開拓者……

スゴイと思うのと同時に、ジャンピング土下座が脳裏に蘇り称号に納得してしまっている自分もいる。


平課長は自分の称号を見ていなかったようで、落ち込んでいる。

いや俺に突っ込む前に自分の見ようよ。

俺の称号に一体何を期待していたのだろうか。


普通称号っていうと落ち込むようなものではないはずだ。

それが二人揃ってダメージを受けるような内容だと、カードを通してこちらの反応を監視して、楽しんでいる存在がいるのではないかという懸念が生まれる。

ネット小説とかで現実だった世界が実はゲーム世界だったとかもあるし。


「ただ冒険者カードを取りに来ただけなのに、謎が増えたな……」

「アッキーがいると何かが起こるとか?」

「名探偵の周りでは事件が見たいなものか」

「「「……」」」

「誰か反論してくれない!?」


ひとしきり確認する事も終わったので、帰路につく。

あんまり詳細に確認しすぎても傷が広がる一方な気がするし。


思っていた展開と違う冒険者カード取得になり、行きの高揚感と違い帰りはモヤモヤした気持ちを引きずりながら歩を進める。


広間に来たくらいで試してない事を思い出したので、今のうちにやってみることにする。

そうまだ俺は魔法を試していなかった!

外に出れば使えなくなるので、試すなら今しかない!


とはいえ魔法はスキル欄に出たけれども、実際の使い方は不明だ。

取り合えず【マジックボルト】を使おうと考えてみる。


すると、使い方や魔力をどうやって操作すればいいのかが頭に浮かんでくる。

なるほど、魔法の使い方を説明できないわけだ……

「なんか使えるようになった」としか言いようがないな。

例えるなら自転車の乗り方を他人に説明するようなものだ。


頭に浮かんだとおりに体全体の魔力の流れを操作し指先に魔法の礫を生成する。

先頭を歩いているので振り向き考えていた人物に向けて放つ!


「マジックボルト!!」

「うわっ」


ある程度ならおふざけとして許されると思う親友に向けて放った。

一応即死の可能性のある頭と心臓はいかないように意識したが、礫はユウの左半身に向かった。

とっさにユウが体を捻って躱そうとしたが、腕にかすってしまった。


「……アッキーさすがに洒落にならないと思わないか?」


ひきつった顔をしながら低い声を発声するユウ。

あれ? おふざけとして受け取ってくれてない気がする……


「いや~、そういえば試し忘れてたし~」

「壁に向けて撃てよ!」

「テストは実際に近い形のが……」

「あ?」


その後の俺の釈明も虚しく、3か月分の減俸という形で落ち着いた。

まだ会社が立ち上がってすらないのに、いきなり減俸とかそうそうない出来事だ。

冒険者カードに「人に向けて撃ってはいけません」と書かれていなくても試しちゃだめだね。



いや、ちょっと待て。

その手の話しなかったが、俺って給料はそもそもあるのか?

流石に今は聞ける雰囲気じゃないけど、不安になってきた。




キャンプ地に戻ってきて軽くタイチョーに報告する。

それぞれの職業について話し出すと頭を抱え出す。


「まずアッキーに渡そう」


隊員通訳によると、再クラスチェンジできるようなアイテムが見つかった際には俺にまずくれると言っているらしい。

俺の選択した職業全否定だ。

職業選択の自由はどこいった!


ていうか、自衛隊内の会話って言葉使ってなかったりしない?

どうしてあの言葉からそこまで読み取れるのか不思議でならない。


称号の時の話をするとタイチョーは電話を取り各所にベアキラーで圧力をかけたのを謝罪して回っている。

いや、そこはわざわざ撤回しないでも……


一体どこの世界に冒険者カードを取りに行ったら、精神的ダメージを受ける出来事が用意されているだろうか……



タイチョーが電話している途中でユウの携帯が鳴り、会社への呼び出しがかかった。

どうも退職に関して雲行きが怪しくなってきたらしく、すでに月夜がこちらに向かっていた。


タイチョーの電話が終わるころに月夜が到着してユウは会社に急行する。

状況が気になるが、俺が行くと確実に話がこじれるので自粛して見送る。


「それじゃ、アッキーも帰りましょうか」


にこやかな声で声をかけてくる暴走ガール。

断るような理由が特にないので、俺の帰宅は暴走車となる。


再び警察に追われながらのドライブになるのだが、今度の目的地は俺の家。

つまり、警察がたむろするのは俺の家の前になる。

世間体的にかなりよろしくない。


これからの送迎を避ける為に、ダンジョン通いは車通勤しよう……

さすがに正当な理由があればタマも悲しまずに納得してくれるはず。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る