好きになったドSの妹の彼氏は日曜日の夕方6時半だった。

結芽

第1話 介護士の女が25歳にして恋の風を初めて感じた日。

まず初めに。一言物申す。

『我輩は下ネタが大好きである。』以上。


『お疲れ様でーす。』私の名前は安部美桜(あべみお)。歳は25歳。介護士になって2年目のまだひよっこ。『おっす。美桜、お疲れ様!』職場で知り合った千葉良介(ちばりょうすけ)とは、友達からの発展で、喫煙所仲間。ある日突然良介から『付き合ってください。』と告白され、『うん、いいよ。で、今何て言ったの?』という会話で付き合ってしまった彼氏。


・・・本当に聞こえなかったんですぅ。


まぁ、良介とは同じ歳で、とても明るくて誰にでも優しい思いやりのある人。あたしも嫌いでは無かったし、これから恋を育めばいいと、最低な女は現在進行中で良介と交際をしている。


いつもヘラヘラ下ネタ話して爆笑してるあたしとは大違い。


そして、どうやら職員の間であたしは、下ネタ以外の話は興味ないらしい。


話は戻って、良介とは付き合ってまだ4ヶ月だが、職場の仲間には内緒。噂好きの多いこの施設は、煙すら立ってない所から突然爆発する勢いの噂が登場する程、まぁ酷い。でも、そのお陰なのかは知らんけど、何故か職場同士の恋愛や結婚が多い。

まぁ、あたしもその中の1人ではあるが、実は最近、あたしの中で気になるゲーム仲間がいた。


『おはようございまーす。何か変わりありますか?』佐野煌太(さのこうた)29歳。この施設で働いて9年にもなるケアマネージャー。背が高くて髪もサラサラのストレートで、声もあたし好みの低い声。毎朝8時半になると、各フロアに顔をだし、利用者の様子を聞いて歩く上司だ。


『佐野さん、お疲れ様です!』あたしは勇気を振り絞って話しかける。『昨日の対戦、何あれ。寝ながらやった?下手くそ。ちゃんとやれ。』・・・そう、あたしと佐野さんは、とあるゲーム仲間なのだ。佐野さんとの唯一の繋がりはそのゲーム話だけ。


『だって、相手強いんだもん。』『おめーが下手くそなんだよ。』とにかく口が悪い。そして、紛れもなくドS級の男として有名。でも、あたしと同じ様に佐野さんに憧れを抱いている人が結構いる情報をあたしは噂好きのおばさんから聞いていた。

・・・そして、佐野さんには5年も付き合っている彼女がいる事も。


どうやら佐野さんの彼女は、他の介護施設のケアマネージャーらしく、大学生時代に知り合い、そこから、少しずつ恋に発展して行ったらしい。まぁ、これも噂好きのおばさん情報。あたしは良介がいながらも、佐野さんへの憧れが日々増して行く事に気がついていた。でも、あくまでも『憧れ』であり、『恋』ではない。

そう言い聞かせながら、今日も1日体力勝負である仕事をこなしていた。


利用者の入浴介助が終わり、時間はお昼。『休憩頂きまーす。』あたしは休憩室でそそくさとパンをむさぼり終えた後、タバコを吸うために一階の職員出入口にある喫煙所へと向かった。


『あー、疲れた。』椅子に座り、タバコに火をつけたあたしは垣間見える空をボーッと眺めた。季節は3月半ば。まだまだ寒い。自動販売機で買ったブラックコーヒーを飲みながら、携帯を取り出したあたしはゲームの世界へしばしの間入り込む事にした。


『・・・あ、佐野さん対戦してる。破壊率98%だって、やば。』週に2回あるこの対戦。佐野さんはゲームのリーダーであり、レベルもあたしより遥かに上。『あたしもやんなきゃ。』ゲームの対戦すら緊張して吐き気を起こしてしまうあたし。『あ。ミスった。25%だって、ウケる(笑)』いつもの如く、あたしはゲームがど下手過ぎてすぐに対戦終了の負け試合。


『ま、いっか。寒いから手が上手く動かなかったし。』下手な奴がよく言う台詞を言い、自分を慰める。

そんな時だった。


『下手くそ(笑)』佐野さんがタバコを片手に喫煙所へと顔を出しに来た。『佐野さん、見てたんですか?』『たまたまね。しかし下手すぎてウケる。』こんなやり取りでも心が踊ってしまう。

『じゃぁ、佐野さん少しアドバイス下さいよ!』『やだよ、めんどくせー。』『少しでいいから教えて下さい!』押してダメでも押してみる。だって、せっかくの2人きりなんだもの。byあいだ美桜を


タバコをふかしていた佐野さんが、あたしの隣に移動し・・・『ほら、画面開けよ。』佐野さんのサラサラな髪があたしの額に触れた。


・・・あたしよりいい匂いではないか。シャンプー何使ってんだ?


その瞬間。『ドックン。』と、心臓が口から出そうになり、3月にしては爽やかで心地よい風がブワッとあたしの顔面に吹いた。

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