第2話

「聴こえない……」


 娘がそう言った時、身体中に不安が押し寄せ、さっきまで娘が起きたのに嬉しくなって舞い上がっていた熱が、スッと引いていくのを感じた。

 顔が青ざめているのを鏡を見ずともわかる。


 これからどうしたら良いの?

 私は……何ができるの?


 自問自答では意味がないと分かっているのに、せずにはいられなかった。




 耳に障害を持ってしまった娘はその日以来元気がない。

 今まで当然に聴こえていた耳が急に聴こえなくなっては、ショックなのは当たり前で、元気付けてあげたいけれどかけられる言葉はなくて、もし有ったとしても、この子には届かない。

 原因は内耳振盪症ないじしんとうしょうで、医者の先生方が何とかして耳を治そうと奮闘してくださってはいるが、治ることはまずないだろうと言われてしまった。


 心が折れそうだ


 これ程にももどかしく、心痛んだことが今迄にあっただろうか。

 何も出来ない、何もしてあげられないこの悲しさが毎日私を襲った。

 親だというのに、なんて無力なのだろう。

 夫とも話をした。

 あの子のために何が出来るか、何がしてあげられるのかを。




 筆談で話したことだが、娘は女の子を助けたことに後悔はしていないらしい。

 むしろ死ぬことを覚悟で飛び込んだそうで、そのことは私の中で誇りになっていて嬉しくなった。

 しかしこれは胸の内に閉まっておく話で、あの子に伝えることは出来ない、私の声はあの子に、届かないから。

 それに、そんなことより出来るのなら言葉を交わし会える様になってほしい。

 それが私の唯一の望みだから。

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