22  遺伝子解読


性細胞が減数分裂するとき

一対の染色体はランダムに遺伝子を混ぜる

個人を規定していた両親の遺伝子の情報が

千差万別の組み合わせとなる


劣性遺伝が突然発現するチャンスだ

隔世遺伝と呼ばれたりして


血縁を眺めてみると

遺伝子発現状況は面白い


長く会わなかった叔母の名言

「お母さんによう似とるなあ、(もう一度じろじろ見て)

お父さんにもよう似とるなあ」

と真面目顔

思い出すたびLはにやつく


その叔母は美人に属していた

彼女の母親と祖母とが界隈の小町娘だった


結婚した男は無骨だった、に違いない

潜水艦乗りで、終戦間際に沈められてしまった

三人の子は母親に似ていないこと甚だしかった

しかし叔母には一層夫の形見と思われたことだろう


Lの四人の祖父母のうち三人は

色白というべきだった

たとえ日焼けして黒かったとしても


Lの父は色黒で、母は色白

Lは黄色でくせ毛、オトートは色白でウェーブつき


母方の祖母の縮れ毛は、あちこちで発現した

母方の祖父の頑固頭もそうだ、形のいびつさも含め


父方の祖父のみが色黒の遺伝子を発現させていた

眉が太く,まなこが大きい、どこにも破綻がない、といおうか


祖母は外見的には子孫に悪影響を及ぼしただろう

二人とも性格知能、余り問題はなかった


この系統のLの叔父のうち三人は外見知能共に及第点以下


一人の叔父のみがその父以上の外見的好条件を集めた

幼かったLにも余りにも明らかな、美しい顔立ちとして


Lの父親のみが性格の強さと知的要素を併せ持った

外見はその父親に少し劣る程度だ


外見と知能を併せ持っていたといわれた娘は早死にした

後二人の娘は残念組だった

 

明朗闊達、大雑把な姉妹の中で

Lの母親夕子のみが、父親の神経質を受け継いだ


人あしらいが下手で芸術家肌でもあった

しかし自分の完璧主義な面をむしろ誇りにしていただろう


Lにそれを強いた訳ではないが

自動的にLも夕子の行いを真似ることとなったはずだ


しかしLの性向は叔母たちに似た大ざっぱさが本性である


ある日、Lは突然それに気づいた

いい加減で楽天的な軽薄な娘となり

病弱から脱した


Lにとって夕子は上品な母であった

「あんたの顔は、どうもぱっとしない顔だよねえ」

「あんたはお化粧したら、こんなスターより美しくなるよ」

のちにこんな風に修正されても後の祭り


娘の外見についてLの父は辛口だった

「顎が尖っていかんな、それに眉も下がってる」

「あらそんなことありませんよ、立派な眉です,この子は」

日頃仲の良い両親が意見対立!

苦笑いしてLは去るしかない


父はさらに折々言った

「ホントに色気の無い娘だな」

「こんな手の形だと、身体の形も悪いそうだよ」

悪口ではなかったのだ


Lはそんな色々をたんたんと受け入れた

まったく傷つかなかった、そんな自分なのだと

客観的な判断を


そうじゃない、ひとつ傷ついたことがあった


子どもの遊びで、オトートを「大鼻赤男」と名付けた

得意になって何度も呼んだ


「自分じゃないの」

夕子の声が後ろでした

オトートを守ったのかもしれないが


傷ついたが、それも受け入れた


生きて来た各年代で

あらゆるへまをやりながら

当然の報いをうけながら

よくもここまで受け入れて来た


それこそが大雑把の性分の為す業か

自分の何を信頼しているのだろう


それすらもわからないほどなのに

盤石の石に座っている


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