第9話 さばくちほー

 目が覚める。この感覚…やはり懐かしまずにはいられないな。


 筋肉痛の調子はどうだろうか、恐る恐る体を動かしてみる。


 痛くない、たった1日であの痛みがなくなっていた。どうしてだ?俺が来た時に負った痛みもほんの数日で治った。たしか昔ミライさんがフレンズは動物がサンドスターの影響を受けて人の姿になったものだって言ってたな。


 フレンズは怪我をしても空気中のサンドスターのおかげですぐに治ってしまうらしい。そして俺の怪我はすぐに治っている。でもサンドスターは人には影響しないと言っていたし…。


 やっぱり俺はフレンズなのか?


 この疑問はしんりんちほーの時にも浮かんだが答えは結局導き出せなかったんだ。導き出せるはずがない。俺は何も知らないのだから、自分の名も、自分の過去も。


 俺って学ばないな。昨日自分のことを考えるのはやめようって決めたばっかりじゃないか。どうせ考えたって行きつく先は「ミライさんに聞く」なんだから。


 とりあえず筋肉痛が治ったのを喜ぼう。


 胸に乗ったアオの腕を優しく降ろしてから体を起こして辺りを見渡した。あの頃の寝起きの光景に似ている。


 アオはまだ寝ているみたいだ。俺の胸に腕が残っていたからな、当然だろう。起きるまで隣にいてあげようかな?


 また体を寝かせてアオと向かい合う。梯子の穴から入ってくる光のおかげでアオの顔がすこし見えるがあいかわらずかわいい。


 こうしてみているとアオが笑った時のことを思い出すな。あの笑顔はおそらく死ぬまで忘れないだろう。


 アオと向き合っているとなんだか安心する。いろいろと助けてもらっているからだろうか?


 ところでこの耳っていったいどうなってるんだろうか?


 そう疑問に抱くと何を思ったか俺はアオを撫でるように耳に触れていた。


 おぉ、この何とも言えない感触…癖になりそうだな。


「私の撫で心地はどうだい?」


 この言葉を言われて俺はアオが頬を赤くしながら俺を睨んでいることに気が付いた。俺は即座に手を離す。


「おはようアオ、起こしちゃったかな?」

「寝ている女の子を撫でるとはなかなかやるじゃないか?」

「ごめんなさい…」

「まあ、悪い気はしなかったからいいさ。」


 怒っているわけではないみたいでとりあえず安心だ。それに悪い気はしないといっていたが狼だから撫でられるのは心地が良いのだろうか。


 いや、仮にそうだったとしてももう撫でるのはやめよう。というかなんで撫でようと思ったんだ?フレンズとはいえど中身は女の子と変わらないのだ。軽はずみな行動は慎もう。


 アオが体を起こしたので俺も体を起こす。


「今日は本来の目的地であるさばくちほーに向かうんだろう?ここからならそう遠くはないしみんなで朝ご飯を食べてから出発しないかい?見た感じ体も治ってるみたいだし。」


 そうだな、ビーバーさんとプレーリードッグさんとはまともに話せていなかったしちょうどいい。


「そうしようか。」


 返事をすると俺はベッドから降りて梯子を登る。後ろにアオも続く。登りきる前に顔を出してみてみるとまだ眠っている3人がいた。


 そして俺とアオが登りきるとアミメキリンちゃんが目を覚ました。


「おはようグン、もう体は大丈夫なの?」


 アミメキリンちゃん耳良くない?結構静かに登ったはずなんだけどなぁ…。


「おはよう、見ての通りすっかり治ったよ。昨日はいろいろとごめんね。」

「あれくらいどうってことないわ!それよりもう出発するの?」


 俺とアオが2人で来ればそう思うのも当然だろう。だが違う。


「出発はみんなで朝ごはん食べてからにしようかなと思ってね。」


 と思っていたのだがビーバーさんとプレーリードッグさんはまだ寝てるのか。


「先に食べてしまわないかい?2人が起きてきたときにひとこと言って出発しようよ。」


 それがいいだろう。まだ日は顔を出して間もない、2人が起きてくるのが昼ごろの可能性だってあるからな。


「そうしよっか、じゃあいただきます。」


 すると今までの話を聞いていたかのようにプレーリードッグさんが目を覚まして言ってきた。


「朝ご飯を食べるでありますか?ではビーバー殿を起こすであります!」


 プレーリードッグさんがビーバーさんに寄って行き、体を揺さぶりだした。すると間もなくしてビーバーさんが起きる。


「う~ん…もう朝っすか?」


 この2人の朝はいつもこうなのだろうか?なんだか慣れてる感じがする。


「日課の挨拶をするであります!!」


 その瞬間、目を疑わざる負えない光景が目に飛び込んでくる。


 そう、2人は唇を重ねていた。所謂キスというやつである。


 これがプレーリードッグさんの挨拶なのか。アオがプレーリードッグさんが俺に挨拶をしようとしたときにかたくなに止めた理由が分かった。


 アオは俺が男だと知っている。きっとアオは俺が女の子にキスをされるのが耐えられないと思ったから止めたのだろう。


 それに俺のファーストキスは記憶があるうちはまだなのである。それを守ってくれたアオにはあとでこっそりお礼をしておこう。


「ぷは、まだ慣れないっすねぇ。」

「3人も挨拶するであります!」


 お、そうくるか。昨日止められたので折れたんじゃなかったのか?日付が変わったからいいだろうという事か?


 というかアオとアミメキリンちゃんはこの2人と会ったことあるんだよな?てことは2人ともファーストキスはプレーリードッグさんに取られてるってこと?


 女の子しかいなかったジャパリパークでこんなことを考える必要などなかったから2人はこんなこと気にしたことなかったのだろう。


 なにしろこれは断る必要がある。ファーストキスは思い人にすると決めているのだ。


「ごめんねプレーリードッグさん。挨拶は訳ありでできないから挨拶だけにしておくよ。おはようプレーリードッグさん。」


 そう言うとプレーリードッグさんは不思議そうな顔をして言葉の挨拶を返してくれた。


「ビーバーさんもおはよう。」

「グンさんおはようっす。ジャパリマンを持ってるってことは今から朝ごはんっすか?」

「そうだよ、一緒に食べようと思って。はいジャパリマン。」


 ビーバーさんとプレーリードッグさんにジャパリマンを渡す。


 それからみんなで雑談をしながらジャパリマンを食べる。


 そろそろ食べ終わるという頃合いだろう。俺はこれまであったフレンズにもしてきた質問を2人に投げかけた。


「ねえ2人とも、かばんさんってどんな人だった?」

「かばんさんは聡明だったっす。おれっちたちがコンビになったのもかばんさんが提案したことっす!」


 ふむ、そうなのか。みんなから見た俺って頭が良いと思われてるのかな…。


「私たちが別々に家を作っていた時に『2人で作ってはどうでしょうか。』と提案してくれたであります!」


 その結果出来上がったのはこのコンビとこの立派な家なのか。


「プレーリードッグさんはどんどん作業を進めれてすごいっす。」

「ビーバー殿だって、その知識と計画性がすごいであります!おかげで私は作業に集中できるであります!」


 計画のビーバーさん、製作のプレーリードッグさんか。これなら昨日一瞬でベッドを作り上げられたのも分かる。なにより2人の絆がさらに作業を早くしているようにも見えた。


 尤も2人が出会ったばかりの時の作業は見たことがないが、何となく伝わってくるものがある。


 今まで聞いてきた話によれば初めてのことをそつなくこなすわ状況から何が最適かを見出すわ、かばんさんは天才か何かだろうか?


 会ってみたい。ミライさんなら何か知ってるだろうか?


「ありがとう2人とも。じゃあそろそろ出発する?」


 話しているうちにみんな食べ終わったみたいなので俺はアミメキリンちゃんとアオに問いかける。


「そうだね、グンの体もばっちり治ったみたいだしね。」

「でもずっと歩きっていうのも疲れてきたわ。なにか乗り物があればいいんだけど…。」


 それは確かにそうだが…この辺に3人が乗れる乗り物なんてあるだろうか?


 ないという判断が好ましいだろう。


「う~ん、確かにあればうれしいけど無いからあるくしかないよ。それじゃあ出発しようか。泊めてくれてありがとう、ビーバーさん、プレーリードッグさん。」

「なにか作ってほしかったら言ってほしいっす!」

「困ったことがあれば私も力になるでありますよ!いつでも来るであります!」


 こうして俺たち3人は、手を振ってくれる2人に手を振り返すとさばくちほーに向かうためにこはんを後にした。


_____


 暑い…。さばくちほーという名だけある。寒いところに強いがこの暑さにはアオもぐったりしている。もとはサバンナに住んでいたアミメキリンちゃんにもこれは堪えているみたいだ。


 そういえばジャパリパークはなんでこんなに気候がはっきり分かれてるんだろうか。ま、どうせサンドスターが云々なんだろうけど。


「いい顔…頂き…♪そのつらそうな顔、守ってあげたくなるね。」

「こんな時に何言ってんのさ、アオだって辛そうじゃないか。」

「ねえ2人とも…あれ見て…」


 アミメキリンちゃんが震えた声で言うので何事かと思って彼女がが指をさす方を見る。


「砂嵐…?」


 彼女が指をさした先には砂嵐が起きているのが確認できた。それにかなり大きい。しかもこっちに来ているように見える。


「なあ、あれこっちに来てないか?どこかに隠れれそうなところはないか探さないと!」

「それならあそこがいいんじゃない?」


 アオが小さな洞窟に指をさす。あそこなら砂嵐をしのげそうだ。


 俺たち3人は暑さに耐えながらも迫ってくる砂嵐を後目にその洞窟に急いだ。


 なんとか砂嵐に追いつかれる前に洞窟にたどり着くことができた…のだがなんだかここは誰かがいたような形跡がある。それに奥の方に何やら穴が開いてるし。触れないようにしておこう。


「ここならしのげそうだね。」

「そうだね、しばらくここで休んでいこうか。」


 そんな休息も束の間、俺がついさっき触れないでおこうと決めたものにアミメキリンちゃんが触れだす。やめてくれよ。


「ねえ、ここ誰かが住んでる感じしない?それにこの穴も気になるわ、中に入ってみない?」


 何か理由をつけてここにとどまるように誘導するか。


 そんなことを考えつつ穴を覗く。真っ暗だ、穴から入った光の範囲しか見ることができない。これはとどまる理由になるな。


「真っ暗じゃないか、こんなところ入ったら帰れなくなるかもしれない。やめておこうよ。」


 俺がそう提案するのだが、アオはそれを遠回しに否定するかのような質問をしてくる。


「グン、その腰のポーチって何が入ってるんだい?」


 いままでそんなこと考えたこともなかった。こんなのただの服装の一部としか思っていなかった。


 俺は言われた通り腰のポーチをあけ、何が入っているのかという好奇心とともに光を発するものは入っていないでほしいという感情のもと中を探った。


 結果から言おう。あった。ポーチの中にはばっちり懐中電灯が入っていた。ほかにもいろいろ入っていたが、なんでこんなものまで入っているんだ?


 ナイフと拳銃だ。


 これは絶対にフレンズには見せてはいけない。これは隠し通さないといけない。何があってもだ。万が一使う場面があるとすればそれは2人の命が危ない時だ。


 あとで一応メンテナンスをしておこう。使う場面が来る可能性もあるかもしれない。みんながいないところでこっそり済ませるとするか。


 とりあえず見つけてしまった懐中電灯を取り出し、2人に見せる。


「あったよ、懐中電灯だ。」


 光をつけると2人は感嘆したような表情で懐中電灯を見ている。


 というかなんでそこまでしてこの中に入りたがるんだよ…。


「じゃあ行こうか、私は夜目が利くから後ろからついていくよ。」

「じゃあ私が先頭になるわ!グン!その懐中電灯ってやつ貸して!」


 強引に奪われてしまった。しかし人である俺はどうしようもできない。守ってもらわないといけないのが悔しい。


 アミメキリンちゃんが穴の中に入り、辺りを照らす。


「これは…道?」


 果てしなく長いトンネルのようなところだった。右と左に分かれている。


「どっちに進む?」

「左に行きましょ!困ったときは左に進めば何とかなるはずよ!!」


 えぇ…その理論大丈夫なの?


 まあ後ろからアオも見守ってくれているし大丈夫だろう。


「じゃあそうしようか。」


 こうして俺たちは穴から左方向に歩き出す。


 しばらく歩いていくと何かの施設があるのが目に入った。こんなところにあるということは知られてはならない何かなのだろうか?


「先生!あれ!中入ってみませんか?」


 おや、名探偵アミメキリンさんはどうやら興味津々みたいだな。看板を見た感じ迷路か何かだろうか?


「おぉ、面白そうなところだね。探索していこうか。」


 絶対どんなところか分かってて言ってるでしょ…。うわあほんとに入ろうとしてるし。アオまで乗り出したら俺には止められないし黙ってついていくことにしよう。


 入口のようなトンネルを潜り抜け奥へ進むと少しだけ空いた扉があった。


 2人がどんどん進んでいくので置いて行かれないか心配になるな…。まあアオがをちらちらと確認してくれているから大丈夫だろうけど。


 カラン…。


 やべっなんか蹴っちゃった。ドアの前にそんなもの置いとくのが悪いんだよね、俺悪くないよね?


 というか前の2人は引っかからずに通れたのか…。


 ゴゴゴ…バタン。


 あれ?俺そうとうなことやらかしたんじゃ…。


「先生…扉が閉まってしまいました…私たちここに閉じ込められたんじゃ…。」

「アミメキリンちゃん、ちょっと懐中電灯貸して。」

「え?いいわよ、はい。」


 懐中電灯を受け取り俺は入ってきた扉があるほうを照らす。


 やっぱりか…どうやら俺は扉が閉まらないように置いてあった支えを蹴り飛ばしてしまったらしい。そのおかげで俺たちはこうなってしまった。


「ごめんね2人とも。」


 懐中電灯を渡すとともに謝る。その時だった。


「ひえ!?何が起きてるの?」


 カチカチという音を連続で立てながら通路の明かりがともされていく。どうなっているんだ?


 そして俺たちが立っているこの場所まで明るくなった。そのとき何やらアナウンスがかかった。


「ようこそ地下迷宮へ、君は出口まで辿り…ける…な?うふふふふ。」


 この声はミライさんか?でも確実に本人ではない。録音された音声かなにかだろうか。しかもところどころ途切れているということは相当前に録音された音声なのだろうか。


 にしても地下迷宮って…、やっぱり俺が思った通りだ。


「地下迷宮ですって?この名探偵アミメキリンの名に懸けて絶対に脱出して見せるわ!!」


 なんでそうなるかなぁ…、アオもなぜかノリノリだし。しょうがねえな…ここまで来たらとことん付き合ってやるよ!!!こうなったの俺のせいだけどな!!!!!!


「とりあえず奥に進もう。」


 俺たちが通路を歩きだして間もなかった。


「やっぱりな…なんで閉めるんだよ。ん?タイリクオオカミとアイメキリンか、こんなところに何の用だ?」


 一人のフレンズとばったり会う。この子は何のフレンズだ?フードをかぶってるしその色合いからしてヘビの類だろうか。


「面白そうな施設があったからつい入ってきちゃったんだ。」


 アオがそう答える。とりあえずこの子に自己紹介しておくか。


 俺はアオとアミメキリンちゃんの後ろから体を見せて自己紹介をする。


「初めまして、俺はグンって言います、よろしく。」

「うぉあはぁ!?」


 えっ何その驚き方、独特だな…。


「お前、初めて見る顔だな、何のフレンズだ?」

「人だよ。パークの外から来たんだ。」

「なんだってぇ!?てことはお前、フレンズじゃなくて完全なヒトか?」


 人ってそんなに珍しいの?この子の反応を見てるとそう思わざる負えない。尤も俺が自分以外の人に会ったのはミライさんだけだが。


「そうだけど、それがどうかしたの?」

「パークの外はどんな感じなんだ?お前のほかに人はいるのか?」


 グイグイ来るなぁ、この子はいろんなものを知りたがるフレンズなのだろうか?


「あ、すまん…つい興奮してしまって…。オレはツチノコだ、よろしくな。お前ら出られなくて困ってるんだろ?オレについてこい、案内してやる。」


 ツチノコさんは俺たちが迷うことを見越して迎えに来てくれたのか。ありがたい限りだ。


 でもツチノコさんは俺にしか驚かなかった。ということはこの2人とは会ったことあるのか?もしそうだったとしても場所はここじゃないよな。2人ともここには始めてくるみたいだし。


「2人はツチノコさんと会ったことあるの?」

「あるよ、かばん見送りパーティの時にキョウシュウエリアのフレンズとは一回顔を合わせてるんだ。」


 だからこれまで「初めて見る顔」って言われるのは俺だけだったのか。


 そんなことを考えながらついていくとツチノコさんがふと立ち止まった。


 目の前には分かれ道がある。


「チッ、こっちにはセルリアンがいるのか、遠回りだがこっちから行くか。」


 え?見えてないのにどうやって分かったの?


 今この場所は明るい、俺にも周りの状況は見える。そういえば懐中電灯返してもらってないな、あとで返してもらおう。


「なんでわかるの?セルリアンがいるって。」

「ピット器官ってやつのおかげでオレには赤外線が見えるんだ。」


 すごいな…ツチノコさんそんな能力持ってるんだ。そんな能力があればあらゆる方面で困らなさそうだな。


 しかしやけにすいすい進むじゃないか、この施設について詳しいのだろうか?


 でもなんでフレンズが?いや、ツチノコさんはこの施設について知りたくてここにいるに違いない。なら聞いてみるか、ここは何のために作られたのか。


「ねえツチノコさん、ここっていったい何なんだ?」

「ここは昔作られた遺跡だ。」

「何のために?」

「昔、ジャパリパークはたくさんの人が訪れる場所だったんだ。ジャパリパークに来た人々を楽しませるために作られた施設だとオレは思っている。」


 なるほど、入口のほうで聞いた声は確実にミライさんのものだったし、ミライさんに聞くとするか。


 ミライさんに聞きたいことがどんどん増えていくな…。


「ほら、着いたぞ。」

「これが出口なのか?」


 立ち止まった目の前にあったのはドアだった。とても出口には見えない。


「ここはオレが客人が来た時に案内しているところだ。とりあえず入れよ、バイパスをずっと歩いてきたんだろ?疲れてるだろ、ここで休んでいけ。」


 と、言ってツチノコさんがドアを開ける。


「うぉあはぁ!?」


 またですか…今度はいったい何があったというんですか。


「スナネコ!お前いつの間に来たんだ?」


 スナネコのフレンズさんがいるのか?


「とりあえず俺たち中入っていい?」

「あぁ悪い悪い、入ってくれ。」


 中に入るや否やスナネコさんに話しかけられる。


「おぉ~見たことない顔ですねぇ~あなたは何のフレンズさんですか?」


 なかなかにふわふわしている。何も考えてなさそうな雰囲気だな


「俺はグンって言うんだ、よろしくスナネコさん。」

「ヒトですか?」


 えっなんで分かったの?見た目だけで判断しちゃったけどなかなか頭が切れるのだろうか?


「そうだけど、なんで分かったの?」

「かばんと同じ匂いがしました。でもまぁ…騒ぐほどでもないか…」


 えぇ急に冷めるじゃん。


「ところでツチノコさん、なんで俺たちを出口じゃなくてここに?」


 そう聞くとツチノコさんがある方向に指をさす。その先には短い針が「8」を指した時計があった。


「えっもうこんな時間?」


 思えばあの道を歩き続けた時間はとても長い。そのうちにこんなに時間がたってしまったのか。トンネルの中で外の様子がわからなかったからこんなことになってしまったのだろう。


「砂漠の夜は氷点下まで寒くなることもある。ここならそこまで寒くないだろうから今日はここで休んでけ。」


 氷点下?あんなに暑かったのに夜は氷点下まで冷えることがあるのか。


「とりあえずジャパリマン食べますか?」


 スナネコさんがどこかから取り出したジャパリマンを俺たちに差し出してくれている。


「ありがとう、じゃあみんなで食べよっか。2人ともいいよね?」


 2人が頷くのを確認して俺たちはジャパリマンを食べ始めた。


 しばらくしてジャパリマンを食べ終わったとき素朴に疑問に思った。この部屋でどこで寝てるのか?


 この部屋にはソファー1つと机、その上に置いてあるコンピュータしかなかった。


「ツチノコさん、俺たちどこで寝ればいいの?」

「あーちょっと待ってろ、今布団敷いてやる。」


 こんなところに布団なんてあるのか?もともとここにいたフレンズか何かが使っていたのだろうか。


 ツチノコさんが布団を3つ敷いてくれた。


 ん?3つだけ?じゃあツチノコさんとスナネコさんはどこで寝るんだ?


「ツチノコさんとスナネコさんはどこで寝るの?」

「俺はソファーでいいさ、いつもそうしてるからな。」


 ツチノコさんはいいとしても、やっぱり布団が足りなくないか?


「俺とアオとスナネコさんとアミメキリンちゃんの4人だよ?布団足りなくない?」

「すまん、布団は3つしかなかったんだ、誰かと誰かは同じ布団で寝てくれないか?」


 んな無茶な…どうするか3人で決めなければ。


「私がグンと一緒に寝るよ、いいでしょ?」


 うーんアオと寝るのはこれが初めてじゃないしそれでいっか。


「分かった、そうしよう。アミメキリンちゃんもいいよね?」

「先生がそうしたいなら私は止めませんよ。」


 誰がどの布団で寝るか決まったので俺たちは布団の中に入る。昨日に比べてアオとの距離が近い。それもそうだろう。これはもともと一人用のサイズなのだ。それに2人で入ればこうなるのは当然のことだろう。


「寝る準備はできたか?じゃあ電気消すぞ。」

「ありがとうツチノコさん、お休み。」


 こうして部屋は真っ暗になる。


_____


 もうみんな寝ただろうか?


 皆が眠っているのを確認して俺はアオを起こさないようにゆっくり布団から出る。真っ暗だ、ほとんど何も見えない。


 俺は感覚だけを頼りにドアを探す。


 あった、俺はゆっくりと音を立てないようにドアを開け、部屋の外に出る。


 ポーチを開けて俺は拳銃を取り出す。さっき返してもらった懐中電灯で照らしてみる。


 弾は入っていない、というかマガジンがない。これは使い物になりそうにないな。


 次はナイフだ。ポーチから取り出して鞘から刃を出す。刃は全体的に黒い色をしている。切れるか確かめてみるか。


 俺は刃を指に当てて軽くナイフを引く。


「いっ。」


 軽く当てていたはずなのに少し深くまで切れてしまった。切れ味抜群だな…。メンテナンスしようと思ったがこれなら必要なさそうだな。


 ガチャ…。


 その音を聞いた俺はとっさに右手に持ったナイフを背中に隠し、ドアのほうに目を向ける。


「何してるんだい?」


 アオだ、どう説明しようか…。ポーチに入っていた武器のメンテナンスとは間違っても言えない。なんとかしてごまかさなければ。


「考え事だよ。そろそろ戻ろうと思ってたんだ。」

「…ねえ、どうして右手だけ隠してるんだい?」


 そんなに極端だったのか?俺って隠し事がへたくそなのかな…。


「えっとこれは…」


 言い訳に迷っていると左手首をつかまれて切った指を見られてしまう。


「何か垂れてると思ったら血じゃないか!?ここで何をしてたの?そして右手には何を隠してるの?」


 これは言い逃れできそうにないな…でもこんなものを持ってると知られると嫌われるかもしれない。


 それは嫌だ。だから言えない。


「言えない…言えないんだ、嫌われたくないんだよ…」

「じゃあ約束しよう、何があっても私はグンを嫌いにならない。だから教えて?」


 アオが真剣な顔で答えた。


 どうしてこんなに俺に構ってくれるんだ?そんなこと言われたら言わないと申し訳なくなっちゃうじゃないか。でもナイフのことだけだ。使えないとはいえ拳銃は誤解を深くされかねない。


「絶対に誰にも言わない?」

「言わないさ。」


 その言葉を聞いて俺は右手に持っていたものを見せた。


「これは…ナイフ?なんでこんなもの。」

「俺にも分らない、ポーチに入っていたんだ。」


 俺は守るために使おうとしたんだけど、こんなシーンを見せてしまってはフレンズを傷つけるために使おうとしたのでは?と思われても無理はなかった。


「何に使うつもりだったの?」


 疑われているのかもしれない。守るためだなんて信じてもらえないかもしれない。


「2人が危険な目にあった時に少しでも助けになれるように使えるか確かめてたんだ。」


 こう答えるとアオがいつもの顔に戻った。


「それならいいんだ、グンならそう答えると分かってたよ。それにそのポーチに入ってるもう一個の物も私たちを助けるために使う予定だったんだろう?」


 こういわれてポーチを見ると外から拳銃が丸見えになっていることに気が付く。


 もうなんでもお見通しってわけか…頭が上がらないよ。


「そう考えてくれてること自体が私は嬉しいよ。さあ、今度こそ一緒に寝よう?」


 言われるがまま俺は部屋に戻って布団に入った。


 その布団はさっきより暖かくて、指の痛みすらかき消されるくらい心地よく感じられた。


 おかげですぐに眠りにつけそうだ。


「お休みグン」


 頭を撫でらているような感触と共に俺は眠りについた。


 

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