第12話 再誕/殲滅

◇◇シア◇◇


 ここは、どこだろう……?

 全身が柔らかな温かさに包まれているような

 目を開ける。

 見知らぬ天井。

 ゆっくりと頭を右に傾ける。天井まで届いていない白い壁。パーティションで仕切られているのか、他には見えない。

 ゆっくりと頭を戻し、今度は左を見てみる。右と同じ光景。

 頭を戻して天井を見る。

 でも、それらの光景は、少しぼやけているように。まるで水の中にいるかのように。

 視界と同じように、私の意識もぼやけた感じがする。私の名前は……?

 ふと視界の端が陰る。目だけを動かしてそちらを見ると、誰かがこちらを覗き込んでいる。


「シア、気分はどう? 何処か痛かったりはしない?」


 突然耳元で聞こえた声に少しビクッとする。

 そうだ。私の名前はシア。シア・フジミヤ。アキラ・フジミヤの伴侶パートナー

 ぼやけていた意識が段々と明瞭になっていく。ここに私が横たわっている理由も思い出した。アキラと同じ身体になる為、リィエに頼んでRBSで精製して貰った。

 私は自分の手を見ようとして、腕を持ち上げようとした。でも、何かに押さえ付けられたかのように重い。


「あーあー待って待って。羊水を抜くまでは無理に手足を動かさないで。精製したばかりの筋肉と腱に負荷が掛かり過ぎるから。いいと言うまでそのままね」


 ゴボゴボゴボゴボ……


 羊水で充たされていたRBSの中に空気の入ってくる音が聞こえてきた。段々とRBS内の液面が下がってくる。波打つ水面を通して見る部屋の明かりが綺麗だと思った。

 やがてRBS内の羊水が全て排出されると、温かい風が流れ込んできて、私の身体を乾かしていく。全身を優しく撫でられているかのような感触が心地いい。


 ガコン! ガシュュュュ! ガコン!


 どのくらいそうしてたのだろうか? 大きな機械音と共に透明な蓋が開いていく。


「は~い、もう少しだけじっとしててね~。身体の状態を確認するからね~」


 紅いロングヘアーを後ろで縛って白衣を着ているリィエが私を覗き込み、頭から順に両手で触って確認していく。両脇を触られた時には、思わす身体がビクンッと動いてしまったけど。


「ふむふむ。骨格や筋肉に問題はないみたいね。感度も良さそうだしね~♪ うふふふふ♪ あいたっ!」


 指をワキワキと動かし不気味に笑いながら私の胸に触れようとするリィエの手をピシッ!と叩いて阻止する私。


「そういう事をしていいのはアキラだけです。やめて下さい」

「わ、わかったから睨まないの。それで、動きにも問題なさそうね。滑舌もよくなったみたしだし。どう? そこから降りられる?」


 私はゆっくりと身体を起こし、お尻を軸に横に回して、RBSに腰掛ける体勢になる。

 ペタッと足が床に着いた。


「あれ……?」


 違和感。背中に何かファサファサと触れる感覚。そして私の身長や足の長さではこの高さでは足は着かない筈なのに……

 自分の足元をしばらく見つめてからじっとリィエを見る。 


「あーそれについてはシャワールームで話すわ。とりあえず、立って歩ける?」


 リィエに言われてその場で立ち上がってみる。身体を精製したばかりだから何も身に着けていないが、リィエ以外に人はいないから問題ない。

 一歩二歩と歩いてみる。歩けなくはないけど、何か安定感がない。前はもっと重心が低かったように思う。


「大丈夫そうね。それじゃ案内するわ。こっちよ」


 リィエに手を引かれてゆっくりと医務室メディカルルームの奥へと移動し、リィエが開けた扉をくぐる。そこはシャワールームの脱衣室。もっとも、今の私は脱衣する必要がないのでそのまま浴室へと連れていかれる。


「さぁ、自分の目で見て。新たに生まれ変わった自分を」


 浴室の扉の正面奥の壁に設置されている大きな鏡。それに映る自分の姿に私はしばらく絶句した。


「……誰、これ?」


 何とか絞り出した一言。それをどう受け取ったのか、リィエは胸を張る。


「元の身体の設定年齢と体型から、アキラさん相当の年齢まで理想的に成長させた状態を量子AIにシミュレートさせて再精製したのよ! 女性でも惚れ惚れするプロポーションよね! 私、完・璧!」


 すらりと伸びた手足。無駄な肉の付いていない腰。形よく張り出した胸。小さくて整った顔。そして腰まである流れるような銀髪。

 絶世の美女という言葉がぴったりの容姿。背も高く、確かにこれならアキラの隣にいても何の遜色もない。きっと誰もがお似合いだと言ってくれるだろう。

 でも私は、膝から崩れ落ち、床に両手をついた。


「何て事を……してくれたんですか!!」

「ちょ、ちょっと!? どうしたの!?」

「アキラに怒られる!! アキラに嫌われる!!」


 目から溢れ落ちる滴。初めて流す涙は、嬉しさと喜びで満ち溢れている筈だったのに……


「そ、そんな訳ないじゃないの! こんなに美人なのよ!」

「私の身体は無駄に小さかった訳じゃない! アキラの理想だった! ただでさえアキラの言い付けを破っているのに、自分の理想を勝手に変えられて喜ぶ筈ない! 元に、元に戻して!!」


 自分の娘と言っていい私を妻として愛してくれたのは、私が私だったから。その私を他人に勝手に変えられて、アキラが喜んでくれる訳ない! だったらまだ、機械の身体の方がいい!


「む、無理よ! 経験により自己進化した量子AIに精神を書き戻すなんて! 精神の書き込みは再精製したまっさらな脳だから出来る事で、記憶の残滓や身体の制御用スクリプトが残っている量子AIにそんな事したら、制御用スクリプトが上書きで消えて身体が全く動かせなくなるわ!」

「だったらもう一度再精製して下さい!」

「そんな事で3回しか行えない身体の乗り換えの1回を無駄にするなんて!」

「私とアキラにとっては"そんな事"じゃ済まないんです! 元に戻せないならやって下さい!! 貴女がやってくれないのならコウさんに言ってやってもらいます!!」


 ミウの前世の人格だから信用も信頼もしていたのだけど、こんな事されるなんて……ミウの言う事の方が正しかった!!


「分かった! 分かったから! じゃあこうしましょう! 私がアキラさんを説得して、受け入れて貰えるようにするから! それでも駄目だったら、もう一度再精製リファインするって約束する! だから、ね? コウには……」

「そんな約束をする必要はないな」


 脱衣室の入り口から声が掛かった。男の人の声。この船で今、男の人は1人しかいない。


「コウ!? こ、これはその!!」

「言い訳はいい。メンテから復帰したドゥーベから2人の反応がないと連絡を受けて戻ってみれば、とんでもない事をしてくれたな」

「わ、私がアキラさんを説得するから!」

「無理だな。アキラ君は、シアさんが肉体になったらその成長を見守るのが楽しみだと言っていた。それを他人にこんな勝手をされて許してくれる訳ないだろ」

「そんな……どうしたら……」

「身体を元のサイズで再精製リファインし直して、無駄に減らしてしまった乗り換え回数の事を謝るしかないだろうが、アキラ君に確認してからにすべきだな。これ以上勝手な事をすると、下手したらこの船撃沈されるぞ。アキラ君のアンタレスの攻撃力は俺のユーレイナスを超える。本気でキレた彼を止めるのは至難だ」

「「……」」


 コウさんの言葉に絶句するリィエ。そして私。

 ここにきて後悔する。コウさんやミウの言う事を聞いて我慢しておけば良かった……


「アキラ君は俺が決死の覚悟で説得するとして、リーエロッテ、お前は自室にて謹慎。権限もゲストに降格し、GENECICEジェネシスLuciferルシファーも封印する。"コマンド・リリースシール・ルシファー"。よし、フェグダ、メグレス、リィエを自室へ連れていけ」

「「了解しました、マスター」」

「それとリィエ、お前達を受け入れた時の約束を忘れたとは言わせない。エンデルシアに着いたら覚悟しておく事だ」

「…………。」


 コウさんの言葉に項垂れて、リィエは膝から落ちるようにしゃがみ込んだ。そのリィエを両脇から抱えて2人の自律自動人形オートマタが立ち上がらせ、リィエを連行していく。


「約束? 受け入れた? それは……?」


 リィエへの言葉に違和感を持ち、私は思わず問いを返した。


「俺は彼女達のコウ・フジイじゃない。多元存在ドッペルゲンガーだ。彼女達のコウは、ミウが感情で突っ走った果てに死なせてしまっている」

「!! そんな……」

「その事を苦にしたミウは昏睡状態に陥り、そのまま死を待つばかりだった。その時たまたま同じ世界に立ち寄った俺に、リィエは彼女達のコウの代わりになるよう要請してきた。俺はリィエの要請に応える代わりにある約束をしたんだ。『俺の指示に背いた場合は関係を解消する』と」


 まさかミウがそんな事になってたなんて……

 だからあの変わりようだったんだ。

 どうしよう……私がミウを力ずくで気絶させたせいで、自分の幸せどころかミウの幸せまで台無しにしてしまった。


「君も、感情で突っ走って周りへの影響を省みない行動は大切なものを失うと身に染みて分かった筈だ。後は、俺がアキラ君を無事説得出来る事を祈ってもらうしかない。取り敢えず、シャワーを浴びて、着替えて、君も謹慎していてくれ」

「はい……」

「それと、アキラ君が来るまで、何があってもこの船から出る事を禁止する。こうなってしまっては、最悪の未来を回避するにはそれしかない。大切な未来を永遠に失いたくないなら指示に従ってくれ。いいな?」

「分かりました……」

「それじゃ……ん? どうした?」


 言葉が途切れる。何か急な連絡でもあったみたいだ。コウさんの顔が険しくなる。そしてチラリと私を見た。言い知れない不安が私の中に膨れ上がる。


「分かった。今から船橋ブリッジに行って指示を出す。ブレティラとアルストロメリアに回線を繋いでおいてくれ。シアさん、トラブルが起こったようだ。君は……」

「アキラに何かあったんですか!?」


 私の問い掛けに、少し考える素振りをしてからコウさんは口を開いた。


「アキラ君からの信号ビーコンを受信した。種別タイプ非常事態エマージェンシー。Cリアクターを休ませる為に寄った世界で"アイツ"に出くわしたのかもしれない」

「行かなきゃ!! あっ!」


 まだ服も着ていないのに駆け出そうとしてバランスを崩し壁に手をつく。


再精製リファインされたばかりでまともに動けず、その身体では登録認証も通らずスターラスターもジェネシスも使えない。そんな状態で向かっても何も出来ないな。さっき言った事をもう忘れたのか? 心配しなくてもウィスタリアⅢで救援に向かう。君は俺の指示に従って自室で謹慎していろ」

「……。はい……」


 コウさんの言う事の方が全くもって正しい。私は自分の馬鹿さ加減と不甲斐なさに項垂れるしかなかった。

 私は用意されていた下着と衣服を身に付け、医務室メディカルルームを後にする。

 廊下に出て自室に向かう途中、医務室メディカルルームの隣にある整備室メンテナンスルームの扉が目に入る。ここには私の

ジェネシス、GENECICEジェネシスAldebaranアルデバランがアンダーアーマーの状態で預けてある。

 私はその部屋に入った。アルデバランを見に行ったところで身に付ける事すら出来ないけれど、それでもアキラが私専用に作ってくれたそれを見る事で心を落ち着けられるのではないかと思ったからだ。


「これは……」


 果たして、アルデバランのアンダーアーマーは大きく様変わりしていた。

 恐らくはリィエの仕業。再精製リファイン後の私の身体に合わせて調整してくれたのだろうけど、あちらこちらの意匠まで弄り込まれている。これではアキラでもパッと見ただけではアルデバランと分からないかもしれない。


「こっちまで……はぁ…………」


 深く深くため息をつく。つくづく余計な事をしてくれる女性ひとだ。あんなのと一緒になっているミウが気の毒になる。

 ふと、ある事に気が付いた。もしかしたら、このアルデバランなら今の私でも使用出来るかもしれない。

 私は整備台ハンガーに立ち、装着コマンドを唱えた。


「"エクィップメント・アルデバラン"」


MISSION "身体を手に入れろ" COMPLETED? or FAILED?

MISSION UPDATE "アキラの元へ" START


◆◆アキラ◆◆


 満月の下、雲一つない夜空を、音を置き去りにして翔ぶ。

 アイのスノウと出会ったあの夜の観測で、天の極があるのは確認出来たから、この場所は自転する球体の上、惑星上であると考えられる。

 もしかすると、大地は平坦で、天球が回っている可能性もなきにしもあらずだが。

 明るい内にそれなりの高さまで上がって地平線か水平線を確認するか、高度数百kmまで上がればすぐ分かるが、まぁ、大した問題でもないので後回しだ。

 取り敢えず、アビットの街から西に向かって50km程飛んで周囲の生体反応をセンサーで確認してみる。

 比較的多数の反応が固まっている場所がアビットから直線距離で凡そ60kmの辺りにある。あれが隣の街だな。

 そして、街と街の間を大体三等分する位置にある2つ生体反応が固まっている場所、あれが村か。村の反応は街から10~20km程度の距離に幾つか点在しているな。村に至る道の整備状態にも因るだろうが、徒歩で一往復丸一日掛かる位の距離感だろう。

 アビットと隣街の南側、つまりアビットの南西側は海又は湖になっている。アビットの東も30km位で陸地の反応はなくなっていたから、アビットは半島の根元か大きな湖の沿岸に位置しているのだろう。

 さて、さっさと終わらせてしまおうか。

 登録したゴブリンの生体反応パターンを元にゴブリンと人間を識別、ゴブリンの巣に光子魚雷PTを撃ち込んで、巣ごとゴブリンを消滅させる。光子魚雷が炸裂する際にどうしても閃光を発してしまうが、1つの弾頭を小さめにして数を撃ち込めば、巣は主に森の中だから然程目立たずに済むだろう。


『えっ!? あそこに見えるの、もしかしてアマヒームの街!?』

『アキラがアビットを出てから2分くらいよね!? なんて速さなの!?』

『アキラ、かっこいい! はね、さわりたい!』


 マイズを通して俺の様子を窺っているポメラニアン3匹……もとい、ギャラリー3人が口々に感想を洩らしている。

 最初はサクッと行ってサクッと片付けるつもりだったが、俺が戦う姿を見たいとワンコ3匹に強請ねだられたので、自分の後方からドローンで中継して3人に映像を送っている。


「あー、翼触ると指が切り落とされるからやめとけな」


 ジェネシス・アンタレスの12枚の翼は重力子制御を精密に行う為に付いているが、小さい方の6枚には更に別の機能が備わっている。

 まぁ、今は使う事もないだろうから説明は後回しだ。


「それじゃ、最初の巣だけ見やすく攻撃してやる。俺もさっさと終わらせて帰りたいから、その後は飛びながらボンボン潰していくぞ」

『『『は~い!!』』』


 最初の巣は、アイがアマヒームと言っていた街寄りの村から北に20km位の場所にある。ゴブの数は20匹程度。小さい巣だな。

 夜だからか、何匹かは外に出ていっているな。なら、巣をまず潰して、その時の閃光で出ているヤツを誘き寄せるか。


背部バック汎用マルチランチャー、オープン。弾体種別mPT。弾数16。7-6-3で時間差着弾。発射シュート


 翼と翼の間から真後ろに放たれた光が鋭角にその軌道を変え、眼下へと降り注ぐ。

 それはまるで流星雨のよう。


『『『っ!』』』


 3人の息を飲むのが聞こえる。

 そして大きく咲く光の華。その華の中では、大地も、草木も、そしてゴブリンも、その高エネルギーに曝され、等しくその姿を消す。後に残るのは、深く抉れた大地のみ。

 その光に照らされて佇むアンタレスは、もしそれを見る者がいたらどう見えるのか。

 光もたらす天使か。それとも全てを消し去る悪魔か。


『あはっ! あははははっ! 凄い! 凄いわ! この力があれば!!』


 アイの興奮した声が俺の耳朶を打つ。その悪役にしか思えない笑い方、碌でもない事考えてるな? アイは要注意だ。


『凄い……けどこれは滅びの光よね……全てを消し去る終末の……』


 ラッパでも吹こうか? 死告天使アズライールじゃないんだが……まぁ、ゴブ共にとっては死告天使アズライールか。


『きれい……だけとこわい……』


 この光景を見て恐れを感じているスノウとシアは大丈夫だな。強大な力など持たないで済むのならその方がいい。ほんの少し使い方を誤れば悲劇を呼ぶのだから。


「ジェネシスの力は俺の敵を倒す時か守るべきモノを守る時にしか使わない。特に人間ひと同士のつまらん争いにはな。そこの高笑いしてるヤツ! 肝に命じておけよ?」

『あははははっ! って、ええっ?! そんなぁ!!』


 人同士の争いにジェネシスの力はオーバーキル過ぎる。勿論、その争いが自分や自分が守ると定めた者に被害を及ぼすものなら容赦はしないが、そうでないならジェネシスの力での介入はしない。


「今回はお前さんの言う事にも一理あったから協力しているだけだ。おいそれと俺の力を使ってもらえると思うなよ? 基本的には自力でやれ。俺は人を甘やかすのは嫌いだ。シア以外はな」

『えへへ♪ アキラ大好き♡』

『『ちょっ! それズルくない!?』』

「ズルくない。お前達は冒険者で食っていけてるだろうが。シアはそういう訳にはいかないんだぞ? せめて生きていける目処がつくまでは手助けしてやるつもりだ。さて、残りもさっさと片付けるぞ」


 Rライフルを左手に実体化させて眼下へと向ける。


 ドンドンドンドンドンドン!!


 自分達の巣の方向で発せられた光に、外に出ていたヤツら慌てて帰ってきて、巣が地面ごとなくなっているその光景に立ち尽くしているところをヘッドショットしていく。ものの数秒で残りも片付いた。


「ここは終了だ。次の目標へと向かう」


 そして次々とゴブリンの巣を殲滅して、残りは後2つ。1つは70匹程のそこそこ大きい巣、もう1つは残しておく予定の150匹の巣だ。

 70匹の巣はアビットの街の北東側約8kmの場所。ここはそう、アイとスノウを追っていたゴブ共の巣だ。

 近付いていくと、ある事に気付いた。


「これは……近くの村を襲撃に向かってるな。留守番もいないとなると、襲った村に拠点を移す気か」


 ここから南東に約8km、アビットから見て真東に約11kmのところにある村の反応。その村とこことの中間辺りにゴブ集団の反応がある。ギルドのケア程度では満足に至らず暴走したようだ。


『大変!! 早くギルドに知らせないと!!』

「どうやって知らせる気だ? 『知り合いが周辺のゴブリン殲滅して回っていたら、襲撃に向かうゴブ集団を見つけました!』って報告するのか?」

『う……』

「それにこの距離ではどの道救援は間に合わないぞ?」

『でも、何とかしないと!!』

「心配しなくても何とかするさ。俺だって見殺しは寝覚めが悪い。だが、この距離だと光子魚雷は光が目立ち過ぎるし、銃は音が響くから使えない。どうするか……お?」

『どうしたの? アキラ』

「こんな時間なのに村の屋外に人の反応があるな。もしかしたら冒険者か? 全部で6人だ」

『そうかも! 今までもちょこちょこ被害が出てたんなら、ギルドに依頼を出しててもおかしくないもの!』


 なら、やりようはあるか。

 俺は降下して街道に沿って低空で飛ぶと、時速60km程度まで減速してからアンタレス・ユニットを量子化し着地。そのままの速度で地を駆ける。そして走りながら左手にミスリルのショートスピア、背中にバックパックを装備して村に向かう。


『どうするの?』

「冒険者として情報を届けにきた振りをする。先ずは避難を促してみて、それが難しいなら迎撃する」

『ちょ、ちょっと! 銃も光の剣もさっきのも使わないのよね?! 7人で70匹なんて無茶よ!』


 このくらいの数のゴブなんて素手でも余裕だぞ? こちらの方が身体能力は桁違いに高いんだから。

 あ~でも、普通の人間なら、数がこちらの3倍を超えたら確かに危険だな。単純に、数は力だ。


「別に主な装備が使えなくても、ゴブリンならホブだのロードだのキングだのが混じっていても、もう一桁増えたって1人で余裕だけどな」

『うそ!? ホントに!?』

『スノウ、アキラもああ言ってる事だし、お手並みを拝見させてもらいましょうよ』

『あんたよく平気でいられるわよね……まぁ、アキラが大丈夫って言うんなら大丈夫なんでしょうけど……』

『アキラ、うで、だいじょうぶ?』

「大丈夫だ。問題ない。だからそんな不安そうな声出すな、シア」

『うん……』


 3人と通信している内に、目的地の村へとたどり着いた。まぁ、当たり前と言えば当たり前だが、夜だから門はガッチリ閉められていて、門番もいない。さて、どうやって中の冒険者達と接触するか……あ、アイが前に使っていたヤツ使わせてもらうか。


「アイ、ちょっと借りるな。……【スタンボム】」


 バァンッ!


 前にアイがゴブの気を引く為に使っていたあれだ。


「もう1発、……【スタンボム】」


 バァンッ!

 間隔を少し空けて2発射ってみる。冒険者とおぼしき反応6つが、小走りくらいの速度でこちらに向かってきた。

 それにしても、やっぱり魔法は使い辛い。1秒も集中とか、"アイツ"の前だとあっさり死ねるな。


『ちょっと! 今、無詠唱じゃなかった!? ねぇ!!』

「俺にしてみれば、戦闘に使う技術で時間食うとかの方が信じられないけどな」

「おい! そこに誰かいるのか?!」


 門の向こうから誰何の声が掛かる。さて、小芝居の始まりだ。


「夜分に騒ぎ立てて済まない。アビットから来た冒険者のアキラだ。急を要する連絡で来た。出来れば入れてもらいたい」

「一人か?」

「そうだ」


 門の向こうでごにょごにょと言っているのが聞こえる。普通の人間ならそれだけだから、パーティーで対応の相談でもしているのだろうと思うだろうが、俺の強化された聴力なら何を言っているのか詳細に分かる。魔術の詠唱をしているな。


「アイ、ちょっと聞きたいんだが、【センスライフ】って、俺のセンサーと同じような魔術だな?」

『そうよ。まぁ、精度はマイズの方が全然上だけど』

「感知範囲は?」

『魔力の込め方で変わるけど、大抵は100mくらいね。これで魔力使い果たしていたら意味ないし』

「そりゃそうだ。だからアイは街に戻る途中にこいつを使わなかったんだな。100mならスノウが気配感知出来るものな」

『そういう事♪ それに、それ以上に高い精度で感知出来るアキラが居たんだもの、魔力の無駄でしょ?』

「いい判断だ。頭を使ってこその人間。そういうクレバーな奴は好みだぞ」

『っしっ!』


 今ガッツポーズしたな?


『ア、アキラ! アタシもあの!』

「そんなに慌てなくても、スノウがクレバーなのは最初の夜で分かってるさ。あ、シアにはそういう考え方もしっかり教えてやるからな。生きる上でとても大切だから」

『うん!』


 3人と通信している内に、向こうの相談は終わったようだ。当然、相談の声も聞こえている。このパーティーのリーダーはドライドという名前のようだ。ちなみに、この相談の会話から集音マイクの感度を上げて3人にも聞こえるようにしておいた。


『アタシ達より1つ上のDランクパーティーよ。ドライドのパーティーなら信用出来るわ。リーダーのドライドもそうだけど、みんな曲がった事が大嫌いな人達だから、ギルドの件を伝えて協力を仰げばきっと力を貸してくれるわ』

「そうか。なら話の流れを見てそっちに話を持っていく。でもまずはゴブ襲撃の話だ」


 村のメインの門ではなく、そのすぐ横の通用門の扉が開いた。


「通用門を開けたから、そこから入ってくれ」

「分かった」


 ランクが1つ上なだけはある。慎重だし機転も利いてるな。通用門は人ひとりが通れる大きさだから、もし何かで姿を隠している仲間がいたとしても、一度に門を抜けられるのは1人。その向こうには準備を整えた6人がいる訳だ。

 俺は誤解を招かないよう、左手の槍を逆手に持ち替える。穂先を友好的な相手に向けるのは無礼だし、槍がすぐ使えない状態で門を潜れば敵意のない事を示せる。

 じゃあ、穂先に鞘を付けて荷物に括っておけばいいと思うかもしれないが、それは逆に不信感を抱かれる。こちらはまだ門の外。村の近くとはいえ安全な場所ではない。そこで武器を使えない状態で持ち歩くのは不自然だからだ。

 通用門を潜ると、真正面からやや右に外れて少し離れた場所に6人が隊列を整えてこちらを見ていた。前衛2人、中衛2人、後衛2人のオーソドックスだがバランスの取れた堅実な隊列だ。みんな武器を構えてはいないが、前衛2人は盾を持っている。さっき扉を開けたのは中衛の1人だ。センサーで動きは確認出来ていた。

 俺は槍を地面に刺すと、通用門の扉を閉めて閂を掛けた。開けっ放しにして魔物呼び込んだら目も当てられない。

 そして槍の場所まで戻ってから懐からギルド証を取り出し、相手に見やすいように掲げた。

 少しの間があり、後衛の1人が前衛の1人に頷くと声が掛かる。


「確認した。槍を持ってこちらに来てくれ」


 言われた通りに槍を引き抜いてから6人のところに向かう。勿論、槍は逆手で持ち穂先は後ろ向きだ。


「手間を掛けさせて済まない。アキラだ。ランクはF。緊急の要件を伝えにアビットから来た」

「このパーティーのリーダー、ドライドだ。それで、緊急の要件とは?」


 俺の言葉に応えたのは前衛の戦士風の男。外見年齢は俺より多少上くらいか。なるほど、如何にも真面目なリーダーといった印象を受ける。

 それにしても前衛がリーダーか。それは少しマイナス点だな。前衛は全体を把握しにくい、指揮には向いていないポジションだ。それに真っ先に敵の攻撃に曝される場所でもある。指揮官がやられたら他のメンバーだって危険になるのだから、普通は中衛か後衛がやるべきだ。

 あぁでも、リーダーとは別に指揮官がいるなら構わないのか。このパーティーも指揮は中衛か後衛が取るのかもしれないし。

 取り敢えず要件は伝えてしまおう。


「今日の夕方、アビットの北東にあるゴブリンの巣の調査に行ったパーティーからの報告で、巣がもぬけの殻だったそうだ。それでギルドは近隣の村々に注意を促す為の緊急伝令クエストを発行したんだ。こっちは大丈夫だったか?」


 嘘八百だが、6人の様子が変わった。どうやら何かあったらしい。


「……夕方、ゴブリンと戦闘になった。数は8。君が伝えてくれた情報から考えると、斥候だったのかもしれない」

「……なるほど。ゴブ共の目的地がここである可能性が高い、と。可能なら村人を避難させたいところだが……難しいな」

「昼ならまだしも、夜ではアビットまでの移動もままならん。護衛も足りないしな。となると迎撃するしかないが……他に何か情報は? せめてゴブリン共の数とか」

「ギルドからの情報はない。だが、俺からのなら多少はある。実は一昨日の夕方、そいつらの巣の付近にいたんだが、ゴブリンに追われていた冒険者2人を保護した。名前はスノフラウとアイ。聞き覚えは?」


 ドライドは後ろにちらりと視線を送った。その視線を受けて、後衛の、如何にも魔術士といった格好の女性が頷き、ドライドの代わりに答える。

 もしかすると、彼女か戦闘指揮官か?


「確かロイド、アルベルトと組んでる2人ね。ランクはEになったところだった筈」


 俺はその答えに頷いてから話を続ける。


「その時も、追ってきていたのは8体だった。ゴブリンの性質から考えると、50は下らないと思う」


 その俺の言葉に、ドライドは納得したように頷いた。


「その推測はあながち間違ってはいないだろう。多く見積もって80といったところか。6人だと荷が重いか……?」


 ほほう。このリーダー、頭も回るし力量の把握も適切だ。それに、俺に戦力になれと無理強いしてこない。俺がランクFだからだろうが、他人に思い遣りもある。なるほど、いいパーティーだ。

 なら、俺も協力する事はやぶさかではない。


「俺のクエストは情報を届けるところまでだが、乗りかかった船だ、俺も手伝おう。一応、範囲攻撃魔術も使えるし、範囲索敵も出来るぞ。それに、こいつもな」


 槍の柄を軽く持ち上げてみせる。俺の言葉にパーティーの面々は驚いたように目を見開いた。


「凄いな、君は。それでどうしてFランクなんだ? 判定試験を受ければそれなりのランクになれただろうに」

「ランクなんてどれだけギルドに貢献出来るかの目安だろう? 俺は街の出入りが楽になればそれで良かったからな。ランクなんてどうでもいい。というか、ギルドなんかに貢献したくないな」


 ここでゴブへの生け贄の件を匂わす。但し、匂わすだけだ。6人の中に内通者がいないとも限らない。証拠を見せるのは、この後の彼らの反応を見てからだ。


「どうしてだ?」

「噂で聞いた事くらいはあるだろう? ギルドが運営を維持する為に、ゴブへ生け贄を渡しているとか。そんな胡散臭いギルドに貢献したくはないさ」

「噂は噂でしかないだろう?」

「だといいんだがな」


 センサーで心拍数や顔の血流量を確認していたが、特におかしな様子はない。このパーティーはシロだな。


「俺のランクの事は置いといて、それより迎撃の手筈の相談をしたいんだが? 大して時間もないだろうし」

「……そうだな。それで、君はどうする? 臨時で俺達のパーティーに入るか?」

「その申し出はありがたいが、魔術攻撃のタイミング合わせならともかく、近接攻撃の連携を即席で合わせるのは難しいだろう? 近い位置で魔術攻撃した後は、俺は俺の判断で遊撃に回ろうと思う。そちらはそちらでいつも通りやってくれ。俺がもし相手集団に突入していても、魔術攻撃は普通通りにやってくれて構わない。巻き込まれて怪我する程俺も鈍くないつもりだ。村の防衛を最優先してくれ」

「そうか……そうだな。互いを気にし過ぎて、優先すべき目的を忘れては意味がない。それでいこう。それにしても、さっきの言葉が吐ける君は大した奴だな。どうだ? 事が終わったらウチのパーティーに来ないか?」


 大した事言ってるつもりはないんだがな……まぁ、好意的に受け止められているなら構わないか。


「ありがたい話だが、さっき話した2人にもう1人加えて、4人で既にパーティー組んでるんだ。済まないが辞退させてくれ」

「えっ? アイとスノウと? あの2人、ロイド達と別れたって事?」


 さっきアイ達の事を話した女魔術士が驚きの声を上げた。確かに、敵を討とうと思うくらいには仲が良かったのだろうから、2人の知り合いからしてみれば驚くのも無理ないだろう。


「さっきのギルドの話で色々あったんだよ。それより、早く作戦会議しないか?」

「あぁ、済まない。話の腰を折ってしまったな。まずは可能な範囲でいいから君の能力を教えて貰いたい」

「君、じゃなくてアキラでいい。戦闘中に『君! 君!』とか呼ばれても困る。魔術は【フレイムスプレッド】や【ブリザード】クラスなら6発はいける。その上だと頑張って2発だ」


 フレイムスプレッドやブリザードより上の魔術はまだアイに聞いていないから適当に濁しておく。この距離でアイと通信すると、ドライド達に俺がぼそぼそ言ってるのが聞こえてしまう。


『【フレアストーム】に【フリージングストーム】よ。ていうか、本当に使えるの?』


 ナイス注釈だ、アイ。今は褒めてやれないが、後でたっぷり褒めてやろう。


「【ストーム】系が使えるの!? 杖もなしで!?」

「使えるぞ。だって、ほれ」


 女魔術士に槍を渡してやる。


「え? 何? って、軽っ!? それにこの感触……もしかして真銀ミスリル!?」


 女魔術士のその声に、他のパーティーメンバーが、ばっ!と一斉に槍を抱えた女魔術士を見る。


「それが杖の代わりもする。当然、槍としても使える。近接戦闘は、素手でもゴブリンくらいは楽勝だが、それ使うなら上位種でも傷を負う理由がないな」

「……アキラ、君は一体……」

「今日登録したばかりのFランク冒険者さ。それは間違いない。で、作戦だが、俺が提案しても構わないか? 時間ないし」


 こっちはさっさとゴブを殲滅して帰りたいんだがな。まぁ、半分は俺のせいでもあるが。


「あ、あぁ、度々すまんな。提案があるなら聞こう」


 俺は女魔術士にちょいちょいっと手招きして、左手を差し出して槍を返せとアピールすると、女魔術士は名残惜しそうな顔で槍を渡してきた。


「ゴブ共の巣が向こうだから、現れるとすればあそこの牧草地の向こう側だ。だから、あの柵を防衛ラインとする。近接戦闘が苦手な中衛、後衛は柵のこちら側、俺も含めて残りは向こう側だ。柵から森の縁まてはおよそ20mだから、魔術は充分に届くだろう。森に多少の被害が出るのは仕方ないが、火事にする訳にはいかないから、使うのは火系以外の魔術、【ブリザード】あたりでいいだろう。それを森の縁に沿って撃ち込んでいけば、木々を遮蔽に使って攻撃してくるであろう、メイジやアーチャー、シャーマンも範囲魔術の効果範囲に巻き込める。もし、ゴブ共が思ったより散開していたら、俺が森ごと大きいの2発で削るから、残りを任せたい。こんなところでどうだ?」


 俺はガリガリと槍の石束いしづきで地面に図を書いて説明していく。ドライドパーティーの皆が「ああ……ミスリルスピアがもったいない……」みたいな顔で見ているが、ミスリルが地面ごときで削れたりしないからな?


「うむ……問題なさそう、というか、それ以外の手はなさそうだな。皆はどうだ?」

「賛成よ。後衛の私たちの安全も担保してくれているのはありがたいわ。落ち着いて魔術を行使出来るし戦況も読みやすい。アキラ、だったかしら? 大した立案能力ね」

「褒めて貰えるのは嬉しいが、実際に成功してからで頼む」

「うふふ。油断しないところも評価出来るわ。私はフィーア。よろしくね」

「アキラだ。よろしく頼む」


 フィーアと握手を交わす。どうやら彼女がこのパーティーの作戦参謀のようだ。


『『『ぶーぶーぶー!』』』


 ポメラニアン改めブタが何処かで鳴いているようだがスルーだ。握手くらいでぶーぶー言ってんじゃねーよ。

 フィーアとの挨拶を皮切りに、他のメンバーとも挨拶を交わす。彼らのパーティーの構成はこんな感じだ。


 前衛① ドライド 重戦士ヘビィアーム 男

 前衛② アハト  重戦士ヘビィアーム 男

 中衛① ジーヴェ 斥候スカウト  女

 中衛② ゼクス  弓士アーチャー  男

 後衛① フィーア 魔術士メイジ 女

 後衛② フュフ  治癒術士マギヒーラー 女


 盾役2人は堅実な構成だな。斥候のジーヴェも短弓を持っているようだから、遠近共にバランスはいいが、逆にバランスが良すぎて突破力があまり高くなさそうだ。まぁ、今回は防衛だからその方がいいだろう。


「ドライド、ゴブリンの大量襲撃の件とその迎撃で森に損害が出る事を村の人間に伝えて来てくれ。先に言っておいた方が無用なトラブルを避けられる」

「確かに。フュフ、一緒に来てくれ。君が一番村人に受けがいい」

「分かりましたわ。皆さま、いってまいります」

「フィーア、俺達は戦闘場所の確認をしていこう。特に移動する場所の足下は注意して確認だ。戦闘中に石や穴で転倒して骨折とかしたら洒落にならんし」

「なるほど、納得だわ。じゃあ、私とゼクスは柵の内側、貴方とアハトとジーヴェが柵の外側を確認しましょう」

「了解だ」


 俺達は迎撃準備を進めていく。俺としては少し面倒だが、優秀なパーティーが数日後の俺達の作戦に手を貸してくれるなら助かる。ギルド側の人数もそれなりにいるだろうから、こちらも人手を揃えておけば不足の事態も起こりにくくなる。

 さて、センサーで捉えているから分かっているが、そろそろゴブの斥候がやってくるな。準備運動といくか。


「フィーア! 索敵に反応! 数10! 恐らく斥候だ!」

「!! 皆、戦闘態勢を……」

「いや、10なら俺だけで問題ない。あんた達は温存しておきたいから、全員柵の中に退いてくれ。俺の腕を見るいい機会だろ?」

「……分かった。言った以上はやってもらうわよ?」

「了解だ。ほら、アハトもジーヴェも上がった上がった」


 こちら側にいた2人も柵の向こうに追いやって、俺は森の方へと振り返った。特に槍を構えたりしない。腕をだらりと下げ、自然体で立つ。

 そして、ドライドパーティーの面々に聞こえない程度の声で、アビットで待つ3人に告げる。


「今から1対多数の近接戦闘を見せる。俺は片手でこの槍を使うが、各々自分の武器でどうやって動くのかを想像しながら見ていてくれ。基本は昼のスノウの訓練をそのままやる感じだ。分かったな?」

『『『はい!』』』


 返事はよろしい。


◇◇??◇◇


――記憶メモリー領域にデータの欠損を確認。

――予備バックアップ領域からシャットダウン前の記憶メモリー書き戻しロード

――身体動作ムーバブルスクリプト、チェック……チェック完了。

――各種感覚器センサー、チェック……チェック完了。

――|身体制御ボディコントロールシステム、再起動リブート……再起動リブート完了。

――各種感覚器センサー再起動リブート……再起動リブート完了。

――視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、各種センサー、オンライン。


 目を開く。シャットダウン前の記憶から、ここがRBSの中なのは分かった。手で探って非常開放スイッチを押す。透明な蓋が開いた。身を起こし状態を確認する。身体の動作、各種センサーの動作に問題ない。


 ドォォォン!!

 ヴィーッ!ヴィーッ!ヴィーッ!ヴィーッ!


 何処からか振動が伝わり、直後に警報が鳴り響く。

 私はRBSを降りると医務室メディカルルームの出口へと向かいながら、この船のシステムへとアクセスする。この船は私の知る物から発展・改装しているとはいえ、システムの中身はアキラが協力していたものとさして変わっていない。アキラが仕込んだ裏口バックドアも健在だった。

 システムに侵入して自分の存在を隠蔽する。それは予備バックアップ領域に予め残されていた命令。私はその命令に従い行動を起こす。

 医務室メディカルルームを出ると格納庫へと向かう。途中、北斗七星セプテントリオンの何人かとすれ違うが、あちらが私を認識する事はない。

 私は1番ハンガーに格納されていたシネラリアへと乗り込み、その格納ハンガールームへと向かった。そこにはⅠ~Ⅻの番号が振られた蓋つきの整備台ハンガーが並んでいた。その内、ⅡとⅧは既に開いていて、中には何もなかった。

 私はⅥの前に立つと蓋を開けるスイッチを押す。その中には蒼白き輝きを宿すアンダーアーマーがあった。

 私はその整備台ハンガーに乗ると装着コマンドを呟いた。


「"エクィップメント・スピカ"」


MISSION "アキラの元へ" START

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