第19話 観覧車

そんなこんなで僕たちはカフェから出て彼女が行きたがった商店街が立ち並ぶ観光スポットに行った。

「わぁ!これ、可愛い!君は何も買わないの?」

彼女は店先で販売していたロゴ入りのTシャツを手に僕を見た。

「その服、豚が書いてあるの?」

彼女が欲しがっている服には豚なのかゴリラなのか分からないキャラクターが付いている。

「豚〜!?そんなわけないじゃん!これはここのご当地キャラクター、グルメン君だよぉ」

彼女は口を尖らせて怒ったような口調で言った。

どうやら豚ではなく、グルメンとか言うな名のウサギのキャラクターだったらしい。

グルコサミンみたい名前だな、と思ったが口には出さないでおいた。

その後も、色々な店を見て回った。

彼女が小さい頃から欲しかった、と言っていた色とりどりの宝石がついたアクセサリーが並ぶショップに入ったり、お互い、スマホケースがボロボロだったため、新しいスマホケースを買ったりもした。

ショッピングを満喫したらしい彼女は最後に観覧車に乗りたがった。

頂上で告白するとその人とは永遠に一緒にいられる、というどこの観覧車にも付き物の伝説があるらしい。

所々ペンキが剥げた跡がある赤い観覧車は僕たちを乗せてゆっくりとした動きで回っていた。

「高いー!人がゴミみたーい!」

「その例え方は良くないよ。人がゴミだなんて」

僕は少し苦笑しながら彼女に言うが彼女は外の景色に夢中で聞く素振りも見せない。

実際、この観覧車からは小さな街並み全体が見渡せるほどの位置にあり、夕焼けが差し込む赤い箱の中は彼女の頬をオレンジ色に染めていた。

「君は観覧車、一回も乗ったことないの?」

彼女の反応から何回も乗っているようには思えなかった。

「まっさかぁ。二回は乗ったことあるよー。まあ、でもそれも三歳の頃と四歳の頃の話だけど」

彼女はスカートのポケットからさっき買ったばかりのケースをはめたスマホを取り出し、何やら画面に文字を打ち込んでいた。

すると彼女はスマホの横側にある音量ボタンを「大」にしてある曲をかけた。

狭い観覧車にその曲が響き渡る。

「これは……?」

彼女は黙ってスマホの画面をこちらに向ける。

どうやら開いていたのは音楽アプリらしかった。

その画面に映っていたのは。

「観覧車」

彼女がぽつり、と呟く。

「小さい頃ね、この曲が好きで観覧車に乗る度にお父さんにかけてもらってたの。でも……」

彼女はごくん、と息を呑む。

物悲しげなメロディーが僕の耳に静かに届く。

突然彼女は目を擦り、鼻を啜り始めた。

「ど、どうしたの……?」

僕が不安になり、そう聞くと彼女はそれがきっかけにでもなったように泣き出した。

止め処もなく彼女の目の縁に涙が溜まっていき、焦茶色の床に落ちる。

彼女は泣いている顔を見られたくないのか両手で顔を覆った。

僕は彼女の手の隙間から溢れ、落ち、染みる涙をただ見つめていた。

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