第2話 秘密

どんどん過ぎていく月日。

気がつけばセミが出てくる時期—、夏になっていた。

夏は僕が一番嫌いな季節だ。毎日殺人的な暑さが続くのはやっていられない。

夏の日差しが道路を照り付けていく中、僕は毎日学校に通った。

条件はクラスメイト皆一緒なのだが。

僕は心の中で文句を言いながら、学校へ向かった。


そして花火大会の日がやってきた。

僕は適当に服に着替え、待ち合わせ場所の近くの公園に向かった。

すると早く来ていたのか浴衣姿の彼女が公園の外で待っていた。

「もう遅いよー五分遅刻だけどーすっぽかされたと思ったじゃんー」

「はぁ」

五分も遅刻していたのか。僕はここは素直に謝った方が良さそうだと思い、まだぶつぶつ小言を言っている彼女に謝った。

「ごめん」

すると急に彼女は押し黙り、真顔をこちらに向けた。

「えーなんか君らしくないーそんな怒ってないからいいよー」

彼女は晴れやかな顔に変わり、もう前を歩き出していた。

花火にはまだ時間があるので僕たちは屋台を歩き回った。

流石に人も多い。屋台の周りは見渡す限りの人で埋め尽くされていた。

僕は気が遠くなりそうなのを我慢して彼女の後について歩いた。

「君はりんご飴どうするー?」

彼女がりんご飴の香りが漂う店頭で僕の方を振り返りながら、言った。

「僕はチョコバナナの方が好きなんだ」

「え?チョコバナナ?りんご飴嫌いなの?」

店主にお金を払いながら彼女は不思議そうな顔で言った。

「嫌いではないけど、砂糖で溶かしたみたいなものは苦手」

「ふーん。チョコバナナも十分砂糖入ってるよね?」

「砂糖が入ってる、入ってないの問題じゃないんだ。砂糖でコーティングされているりんご飴は嫌いなんだ」

「あぁ、コーティングね。もっと分かりやすい言葉で言ってくれないとー」

そんなこと言われても、と思いながら隣の屋台でチョコバナナを買う。

「次どこ行く?鯛焼きとか食べたいー」

「僕は焼きとうもろこしの方が断然良い」

「本当に合わないねー」

彼女が笑いながらりんご飴を食べ進める。

僕たちはその後も焼きそばや綿飴、唐揚げやイカ焼きなど色々な食べ物を満喫した。

「もうすぐ花火の時間だからさ、そろそろ席取りに行こう」

「席なんかあったっけ?」

「違うよ。席=見る場所ってことー」

焼きそばのソースを口につけながら彼女は笑った。

僕たちは人混みの中を抜け、高台へ向かった。

もう人がだいぶ集まっていて特等席部分は後三人も入れそうがないくらいだった。

彼女は人混みの中をすり抜け、その場所を確保してくれた。

彼女が手すりに頬杖をつきながら真っ暗な夜の空を見上げた。

「星が綺麗だねー」

彼女は星に手を伸ばしてそう言った。

「星に手が届きそうー」

彼女は持っていたシェイクのカップを手すりにバランスよく置き、僕の方を向いた。

二人の間に沈黙が流れる。

すると大きな音と共に色鮮やかな花火の一発目が上がった。

その一発目の音を聞いた瞬間、彼女は「この花火見られるの後何回なんだろ」と呟いた。

僕はびっくりして隣を見た。彼女は花火を見続けていた。

「え……?どういうこと……?」

彼女は花火を見据えたまま、「言ってなかったけど……」

「私、もうすぐ死ぬの」と何の躊躇もなく、さらりと言ってのけた。

僕は黙るしかなかった—。

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