第7話「今試される残念過ぎる姉弟二人の絆」


 とにかく目の前の爆乳、じゃなくて義姉を無傷で倒す方法を考えなくてはいけない……そこで快利はこう言う状況での頼みの綱である知識の魔法の無限書庫ウィキを使用した。


(何かいい方法は? 『無限書庫ウィキ』で奨励の方法は?)


『奨励パターン1、分子分解した後に分子から回復魔法と同時に治療魔術の使用し、対象から外れた隙にスキル対象外に設定する事を奨励します』


(それって俺が昼やった……ってダメだ!! あれ使ったら人格が色々変わっちゃったじゃないか!!)


 ある意味この方法で人格をリフレッシュした方が快利にとっても絵梨花にとっても良かったのだが昼の教師への緊急オペの影響を見て本気で姉の心配をしてしまう元勇者であった。こう言う人の良さが有るので姉二人や瑠理香が調子に乗る原因なのだが彼は気付かない、勇者は戦闘以外では成長が無いのだ。


『推奨パターン2、対象の悪意を消滅させる。具体的には悪意を別なものに変換する方法、異性の場合は性的な好意に変換する事を推奨』


(具体的に何をすれば良いんだよ!! 俺の好感度なんてマイナス振り切ってるんだぞ!! どうやって好意に変換すんだよ!!)


 実は好感度はプラス方向に振り切っていて違う意味で驚異認定されているのだが、そんな事は快利は知らない。知ったら知ったで絶望しそうだがスキルはそんなとこまで面倒は見てくれない。何事も万能などあり得ないのだ。


『推奨パターン3、対象の勇者カイリに対する驚異認定を外す。具体的には勇者が対象を懐柔し対象の脅威認定を下げる方法、異性の場合は魅了、又は性的接触を推奨』


(だぁかぁらっ!! このままじゃ接触って言っても触ったり揉んだりしたら姉さんが分子分解されちゃうんだよ!!)


 すでに自分でもだいぶ欲望が漏れかかっている快利だが混乱して気付いてはいない。しかしここで昔の快利なら潤滑油精神が溢れて逃げに徹していたのだが、今は逃げずに姉を救おうとするのは異世界での成長が見られる。さすが腐っても元勇者だと言わざるを得ない。


(勇者に対する脅威認定を外す? 待てよ……俺がエリ姉さんを驚異だと思わなければそもそも驚異認定されないんじゃ?)


『肯定です勇者カイリ。あなたは本能的に目の前の対象を脅威と考えています』


 やはり異世界での病的なまで女性へのトラウマは消えて無いのは何となく分かっていたが、改めて言われるとショックだった。何が家族だから安全で信頼も出来る女性だ。口煩くても少しウザいと思っていても、どこかで大事な家族だと思っていた。いや、思い込もうとしていた。


(でも実際は自分が一番信頼しないで相手を避けているんじゃないか。これじゃ信頼して家族で唯一さらしの事を話してくれたエリ姉さんに申し訳ないじゃないか。元勇者が聞いて呆れる)


(快利……急に黙ってどうした? そうか!! 最後の我慢をしているんだな。エライぞ。その倫理観を教え込んだのも私だからな……だがもう我慢は必要無い。何故なら私はいつでもウェルカムだからっ!! さあ早く襲って来い!!)


 快利が珍しく真面目に悩んでいるのにこの姉ときたら色々と手遅れだった。彼は今必死に姉への贖罪と信頼との間で戦っているのに対し絵梨花の方は既に煩悩に完全敗北し欲望を抑え切れていなかったのだ。


(つまり驚異的な存在とは違う名目で姉さんを認識さえ出来れば……それは……俺にとって姉さんは……俺はエリ姉さんを……)


(そろそろ限界なんだろう? お? 今また私の胸をチラっと見たな? お前の女の好みはベッドの下の本で把握済みだ。快利……もうお前は私を……)


 認識を変えるとは言うが、当然ながら負の方面では悪意に繋がるのでNGだ。つまり絵梨花を好意的な対象として見る必要が有る……この時点で快利の選択肢はかなり狭められた。そしてこの時、悲しいかな血の繋がりは無い義理の姉弟であり、さらに今の心境は真逆なはずの両者の見解は見事に一致してしまった。


『『エロい目で見るしかないっ!!』』


 この結論に至ったのは絵梨花の方は語るべくも無いが快利の名誉のために言わせてもらいたい。彼は必死に考えた。それこそ小三の時に姉たちのパンツを褒めた時と同じくらいに考えた。まさか義理の姉を恋愛対象には出来ないのでそれは論外だ。

 そして家族として信頼していたはずなのに聖なる防壁からのターゲットから外れないと言う事実から導き出される結論は一つ。より強い対象、性欲の対象として見るしかない。ちょうど目の前にオッパイはあるのだ!今こそ行け勇者よ!!多くの大事なものを踏み越えて!


「エリ姉さん。今日は言いたい事が有るんだ……」


「聞こう、話してみるといい」(そうか告白か。段階を踏まえるのは姉として評価しよう。だが女としては、こうガバっ~と来ても良いんだぞ?)


「エリ姉さんって……いつもさらし付けてて辛くないの?」


 いきなり姉さんてエロいですね。なんて言える筈が無いので、さり気無くそっちの話題に持って行くしかないし、それとは別に気になっていた。部屋に入った瞬間にスキル『聖者の眼健康診断』で診たところ姉さんの骨の形や姿勢には明らかな異常と出ていた。無理をしているのではないかと思ったのだ。


「ん? まあ確かに少し胸は苦しくなってはいたがな、問題無い。男どもの下卑た視線に晒されるよりはマシだ」


「あ、うん。そっか……体とか大丈夫なの? その、エリ姉さんって大きいから抑えつけてたら色々苦しいだろうし」


「問題無いぞ。そんなに気になるなら触ってみるか?」


 触る訳には行かないんですエリ姉さん。だって消し飛ばしちゃうから。それにしても何か姉さんの様子が変だな。いつもなら『婦女子の胸をジロジロ見るな』とかくらいは言うのに……。何か今日は距離感が近い気がする。


「エリ姉さんもしかして今日体調悪いの?」


「そんな事は無いが……何度も言うのもアレだが言いたい事はハッキリ言え!」


「うん。じゃあ言うけどさ。いつもの姉さんなら絶対に冗談でもそんな事は言わないはずだ。まるで今のエリ姉さんは欲情し切って襲い掛かってる色情魔だよ」


 実際その通りなのだが快利は転移前も転移後も厳しく凛々しい絵梨花しか知らない。まさかその陰で小学生の頃から狙われていたなんて事は当然気付いていない。なので姉の突然の行動が体調不良か何か別の意図があるようにしか思えなかったのだ。


「言うじゃないか快利。私にそこまで言うのなら覚悟は出来ているのだろうな?」


『脅威度が更に増大、脅威度レッドです』


「そ、そんな。俺は姉さんが心配だから言っただけで……」(嘘だろ俺、どうして逆に煽ってんだよ。このままじゃ本当に姉さんが分子分解コースだよ。どうすれば良いんだ……)


(面倒だな。もう押し倒すか……サクッとやってしまう方が良いかもしれない)


 あの目は明らかに俺を狙っている。このまま攻撃をしてくればエリ姉さんはおしまいだ。ま、良いか。このまま姉さんが分子分解されたって俺の魔法と魔術で治してあげれば……だけど……。快利は思い出していた姉たちにコキ使われていたけど悪い事ばかりじゃ……いや悪い事ばっかだったかも……しれない。それでも、感謝している事はあった。異世界で騎士や兵士たちにボコボコにされて心が折れそうになっていた時の事を思い出していた。



――――異世界生活三ヵ月目当時――――



「はぁ、はぁ……魔力が、もう無い……」


「お覚悟!! 勇者殿、王には事故死と報告しておく!!」


「ぐっ!! うわっ!?」


 竹刀や木刀よりも重い本当の剣、刀ならまだ使えたかもしれないのにと当時の快利は思った。その時は手元にはロングソードしか得物は無かった。既に辺りには二〇〇人近くの兵士が倒れ、最後は眼前の百騎長一人だけだ。しかしここまで魔法と剣技を合わせて戦い、全ての魔力が消耗させられ満身創痍となっていた。


「何とか防いだようだが、次で終わりだ!! この世界を救うのは貴様のような異世界人の、ましてや未熟な子供などでは断じて無いっ!! この世界の人間が、我らが救うのだっ!!」


「ぐっ、俺は……こんな所でっ!?」


 なんとか相手の重い一撃を防ぐと肩で息をする。どうすれば勝てる?目の前の騎士は兵士と違って動きは早く、我流ながら強者の剣を持っていた。魔法が無くなった俺の付け焼き刃の剣じゃ……すっかり弱気になっていた俺の脳裏には走馬燈が流れていた。その中で中学時代にエリ姉さんのある技の実験台にされていた思い出トラウマ?が流れて来た。


『快利!! これは有名な剣豪の佐々木小次郎が使った技『燕返し』のやり方が書いてある本だっ!! 顧問に借りて来た!! 凄いだろ!?』


『えっ? うん凄いね。それで何で俺に木刀向けてるの?』


『今からお前に燕返しを見せてやる!! ついでに私の燕返しを受けてみろっ!!』


 そしてエリ姉さんは燕返しのモーションに入った。まず木刀を上段に構えそれを一気に振り下ろした。鼻先のギリギリまで掠ってビュンと風の音が鳴り剣圧が俺の顔に叩きつけられる。


『せいっ!! はぁっ!!』


『す、凄い……揺れてる……』


 しかし俺は姉さんの燕返しよりも、その時既にバストサイズ九〇越えの姉さんの胸の方に釘付けだった。その時の姉さんは体操着と、動きやすいからと言う理由で母さんの学生時代のブルマを履いてた。そして俺は姉さんの胸をしっかり見ていたせいで下から来る本命の一撃を胸から顎にかけて直撃させられ気を失ってしまった。しかし直前まで覚えていた。上げた瞬間も凄い揺れていた……と。


「終わりだっ!! 勇者!!」


 そして偶然にも相手の騎士は上段から斬りかかり、その剣筋は鼻先に掠った。その瞬間相手の騎士がニヤリと笑った。それを見て俺はすぐに悟った。外したんじゃないと、これはエリ姉さんが見せてくれた技と同じだと、だから俺はすぐに間合いを詰めて相手の振り下ろした剣先を逃がさずその場で踏んづけて地面にめり込ませ二段目を打たせないようにした。


「なっ、なにぃ!? この上下二段切りが読まれていた!?」


「そうだっ!! その技を俺は知っているっ!! それになぁっ!! お前なんかの剣よりも……エリ姉さんのオッパイの方がもっと速く動いてたんだよっ!!」


 俺は剣を踏んづけたまま相手の懐に入り込むように走り抜けて交差した瞬間に相手の剣を持つ手首を打つと続けて相手の胴の鎧の隙間の部分を横薙ぎに斬り払った。


「み、見事……だ。勇者ど……の」


「エリ姉さん……やったよ。俺、姉さんのお陰で勝てたよ……」


 これが異世界での地獄の鬼ごっこのラストバトルだった。この後に俺は本格的に魔王討伐の旅に出たんだ。そうだ、俺はあの頃から……。



――――現在、絵梨花の部屋――――



「あの頃から……姉さんのオッパイが大好きだったんだ!!」


「なっ、ななな、いきなり何を言い出す快利っ!!」(さすがにストレート過ぎるじゃないか……そう来るなんて……私も嬉しい……ぞ)


『勇者の対象に対する脅威度の消失を確認。パターン3の成立を確認』


 快利は勇者時代の思い出のお陰で絵梨花に対する過去のトラウマを色んな意味で克服してしまった。特効薬はまさかの姉の胸だった。コイツ散々否定していたが実はかなりのシスコンだったのだ。そら周りからシスコン呼ばわりもされても仕方ない。


「私の事が……大好き……そうか。そうだったのか……」(女子以外からの告白など生まれて初めてだ。こんなに嬉しいものなのだな)


 ちなみにこの残念な姉は姉で肝心な部分が聞こえていなかった。都合の良いとこだけが聞こえる部分的難聴系な姉だった。しかし自分の体の一部分が大好きと告白されたのだから拡大解釈すれば間違いでは無いのだが……なんか色々と釈然としないものがある。


「あ、いきなりこんな事言ってゴメン。色々と思い出しちゃって……」


「そ、そうか。こんな事なかなか言えない……からな。そうか、実は私も……」


 その瞬間、絵梨花の邪念つまり無理やり関係を結ぼうとする悪意が『聖なる防壁』の判断する悪意レベル以下に下がり切った。悪意では無く好意に純粋な恋愛感情に切り替わった瞬間だった。先ほどまでの性欲に任せた感情から目の前の義弟を一人の異性として恋してしまったのだ。


『悪意レベル低下――――パターン2の条件付き成立を確認しました。現在、聖なる防壁は発動しません』


 頭に響いたガイド音声よりも快利は目の前の姉がベッドから降りて自分の隣に座ったのを見てドギマギしていた。そして体に触れても防壁が発動しない事に安堵した。だけど次の姉の一言で固まった。


「私の事が(一人の女として)大好きなのだろう? 好きにして良いぞ?」


「へ? エリ姉さんのこと(家族として)好きだけど……それにさっきは姉さん(のオッパイ)のことが大好きだとは言ったけど……」


「ふふっ。照れなくていい。私もお前と同じ気持ちだ」


 どうしよう触っていいのだろうか、防壁も外れてるし少しくらいは……だって昔から気になってたし……いやいやでも本人が良いと言っても流石さすがにダメだろ。俺はサッと立ち上がると同時に姉さんから距離を取って姉さんが座っていたベッドの方に逃げていた。


「今さら逃げるのか? まったく恥ずかしがり屋さんめ。こう言う時は男らしくハッキリしないといけないぞ?」


 そう言うとエリ姉さんは無駄に強い力で俺をベッドの方に倒した。そして自分も馬乗りになって完全に押し倒して来た。お互いの息が当たる距離だ。凄いドキドキする……って、このままじゃマズくない!?


「エリ姉さん。マズいよ……さすがにいくら家族でもこれ以上は近すぎるよ……」


「心配するな。私に任せろ、それともまさかお前……さっきは本当は私の事は好きでは無くてテキトーな事を言ったのでは無いだろうな?」


『対象の悪意度が再び上昇。このままでは再度『聖なる防壁』の対象になります』


 え?また上がるとかどうしてだ?と、快利は疑問に思っているが単純に快利の煮え切らない態度に再び絵梨花がこの体勢ならこのまま致してしまおうと考えてしまったのでスキルによる悪意認定も再開してしまったのだ。


「お前の部屋の隠していた本の中身で、お前の趣味は確認済みだ!! 好きなのだろ? どの本の女も今の私より小さいがなっ!! それが今なら触り放題だぞ?」


『勇者カイリに提言します。対象の言に従って下さい。そして指示通りに動いて頂く事を推奨します』


(そんなっ!? それってエリ姉さんの胸をモミまくれって!? やりたいけどやったらダメだよ!! 俺まだ捕まりたく無いよ!!)


 モミたい事はしっかりと自白する、ある意味男らしい快利さすがは元勇者である。しかし今はそんな事を言っている場合ではない。混乱する快利にガイド音声の説明はまだ続いていた。


『対象の精神を安定させるには要求に従うべきと判断します。分子分解がお望みならこの提案は却下します』


 このままじゃ……姉さんが分子分解されてしまうっ!!こうなったらやるしかない!!今こそ姉さんの胸を揉むしか……それしか姉さんを救えないんだっ!!そして俺はついにエリ姉さんの双丘に触れてしまった。ムニュ……温かい、柔らかい……。しかし次の瞬間に感慨にひたる間もなくガイド音声が最大音量で脳内に響き渡る。


『今ですっ!! 状態異常系魔法最下位の『刹那の子守歌すぐにおやすみ』を使用してください!!』


「そうかっ!! 了解!! 『刹那の子守歌すぐにおやすみ』!!」


 ここでガイド音声の狙いを快利は初めて理解した。そして両手に力を込めて魔法を解き放つ。その際に思いっきり揉んでしまっているが快利本人は気付いていない。そして刹那の子守歌の発動により絵梨花の意識は飛んで力は抜け、快利の上に覆いかぶさるように眠ってしまった。この時の胸の感触を快利はしばらく忘れる事が出来なかったそうだ。ちなみにこの魔法なのだが、これは睡眠の魔法では無く意識を刈り取る魔法なので正確には気絶の魔法に分類されるものだ。


「あっ……ひゃん……クー、クー……」


「ふふっ、エリ姉さんって気絶する時は意外と可愛い声出すんだな……」


『勇者カイリに提言します。急いで下さい。今のうちに『聖なる防壁』の設定の変更を行ってください。この対象は覚醒が比較的早いと判断されます。恐らく三〇分もしたら目を覚ますでしょう』


 そう言われて絵梨花の下から這い出ると彼女の衣服をちゃんと整えた後にベッドに寝かせて布団を掛け直し、変なところが無いか確認する。そして彼は宣言した。


「スキル『聖なる防壁』及び勇者系スキル全ての効果設定を変更、以後発動禁止対象者に秋山絵梨花、秋山由梨花……それと風美瑠理香を対象に指定!!」


『確認しました。初期二名に今の三名を追加しました。ご苦労様でしたマスター』


 これで一安心だ。何とか姉さん達と、ついでに風美がまた絡んで来た場合に間違えて消してしまわないように設定の変更をした。すると、ここで肉体的にも精神的にも緊張の連続だった快利も体力の限界で、ドッと力が抜けて座り込んだ。


「ああ、今回は全然ヌルゲーじゃなかった……ほんと厄介な相手だったよ……エリ姉さんは……」


 そして、すぐに立ち上がって絵梨花の眠っている顔を見ると彼女は幸せそうにニヤけて眠っていた。だから気付かなかったのだ。彼の背後で静かにドアが閉まる音に、この現場をもう一人の姉である由梨花に見られていた事に快利はこの夜、最後まで気付けなかったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る