第15話 バカはヒーローへ至る道をひた走る③

 なんだなんだなんだ??


 警察に警察犬があちらこちらを動き回ってて、酷く落ち着きがない。


「『恐らく爆発物を探しているのでしょう。』」


 側に寄ってきた遠野さんから耳打ちされ、「あーなるほど」と頷く。


 警察犬を連れて歩く警察官が俺たちの側を通りすぎて行く。俺たちには気が付かず。いや、まぁ誰も気が付けないだろうけど。


「『本当に見えないんですね。』」


 誰に話しかけているかわからないその言葉。そちらを見ると不思議そうに自分の体や手を見て、最後に被った見えないはずの布を見ていた。


「『今はやるべき事に集中しなさい。』」


 真面目モードの遠野さんに注意された男の護衛さんは困惑していた表情を引き締めて、『気を付け!』と背筋を伸ばした。


 そのやり取りが少しだけ可笑しくて小さく笑ってしまい俺まで遠野さんに睨まれてしまった。


「『善吉様。ただでさえ何時もより危険な行為をしているんです。もっと注意してください。』」


「『は、はい!』」


 小声での会話で迫力なんて無い筈なのに遠野さんからかけられた言葉には確かに迫力があって・・・・気が付いたら背筋を伸ばして返事をしていた。


「『でも、まさか本当に犬の鼻まで誤魔化せるとは思いませんでしたね。本当に善吉様の力は凄いとしか良いよう無い。』」


 誉めて?くれている名前も知らない護衛の人は何だか変な目で俺を見ながらポロリと溢すように呟いた。


「『今さらそんな話はどうでも良いでしょう?私たちは私たちが任された仕事をこなすだけです。善吉様。あまりのんびりする時間は無いかもしれません。早急に爆弾を見つけられますか?』」


 そもそも本当に爆弾なんだろうか?

 日本でも確かに物騒な事件はあった。それはここ半年のヒーロー活動でわかったけれど、『爆弾』なんて本当に?って感じがしている。


「『見付ける事が出来れば解決してそれで良し、見つからない、そもそも存在しないなら他の可能性を考えるか、情報を集め直すで良いでしょう?』」


 おぉ!確かにそうだね。見つかったらそれで良し、見つからなくてもそれで良し!って事だな!


 では早速。


【察知】のチート。その設定を爆弾に変更。


 おぉ~。マジである。


「『あった。こっち。』」


 二人を案内するように歩き始める。

 姿は透明になれるでっかい風呂敷を三人を丸々被せることで見えなくした。風呂敷を被っている俺たち『中の人』でも外の様子は問題なく見えたりする優れもの。更に更に、今回はこの風呂敷に音を遮断する力と臭いを失くす効果も付け足した何時もよりもスペシャルなバージョンである。


 この効果を説明されたときは理解するのに中々に困った。効果を付けるのは俺が『そう言うものだと』理解していてイメージすれば問題ないけれど、効果を説明するその言葉が難しくて最初は困ったよなー。

 仁さんと奥様があれやこれやとわかりやすい言葉で伝えてくれて、でも結局頭の悪さのせいか一回で成功!とはならずにご迷惑をお掛けしました。


「『ここです。』」


「『・・・・え?ここ?』」


 そうなんです。ここなんです。


【察知】が示したのは洋服店のマネキン。

 位置的にはこのフロアのほぼど真ん中。


 そんな場所にあるマネキンは周りにある他のマネキンと同じ様に服を着せられ、堂々とポージングしている。


「『え~っと。こん『中』ってこと?』」


 予想していなかったのか喋る口調が何時も俺と会話する関西弁になってしまっている遠野さん。


「『そこまではわからないけど、間違いなく『爆発物』はこれになります。』」


 さて、見付けたのは良いけど、ここからどうすれば良いのだろうか?


「『善吉様。このマネキンが爆発する条件を調べてください。』」


 あ、口調が戻った。って、え?そんなのどうやって???


 ―――――――――――――ほっほぅ!なるほど!!


 では早速。


【察知】の条件を『衝撃で爆発するもの』と『時間で爆発するもの』『遠隔操作で爆発するもの』の三種類を順番に設定していく。


【察知】に反応したのは『時間で』と『遠隔操作で』だった。

 つまり倒しても問題なし!


 とうりゃーー!!


 バタンッ!!!


「何だ!?誰かいるのか!?」


 遠野さんの提案でマネキンを倒し、その音で警察官たちを呼ぶ。成功です!


 これで爆発物を発見してくれれば問題解決!


 ――――――――――――――なんて、上手くはいかないよねー。


「マネキンが倒れただけ」「不自然ではあるがそれどころじゃない」ってな感じで気が付いてもらえなかった。泣きたい。


「『ぐぬぬぬぬぬ。どうしたら!?』」


 考えてもわからん!?俺バカだし!!


「『はぁ。仕方ありませんね。

 善吉様。この『爆発物入りのマネキン』を『ただのマネキン』に変えちゃって下さい。』」


 えっと、出きるけどそれでいいのでしょうか?


「『今は警察が居ますし、姿を現せません。明らかに私たちは『不審者』になるでしょうから。

 問題を。』」


 りょーかいでっす!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 いやー。よかったよかった。無事解決したよ!


「ありがとう。助かったよ。遠野さん。」


「出来れば無茶はこれっきりにして下さい。今回はたまたま何事もなく済みましたけど、次からはどうなるかわかりませんから。」


 了解です!


「さて、ほな帰ろヴッ―――ヅァッ!!!」


 !?!?


「いやはや、まさか本当にこんなビックリ人間が居るなんて・・・・・驚きですね。」


 え?えぇ??ど、どうゆうことですか!?


「あ、あんた――――!!!」


「あぁ~。余り動かない方がいい。無茶すると早死にするぞ?急所は外しちゃいるが――――出血多量で、な?」


 な、なに?この人――――。ボディーガードじゃなかったの!?


「ど、どういう、事、よ?あんた、護衛、でしょ?」


 俺から少しだけ離れたところで脇腹を押さえて座り込む遠野さん。そのすぐ傍らにさっきまで俺らと行動していて爆弾も一緒に見付けた人。俺の護衛だった筈の男は片手に遠野さんの血が付いたナイフ。もう片手に多分本物の拳銃を遠野さんに向けている。


 状況は理解できるけど、理解できない。どうゆうことですか!?いや、それよりも!遠野さんの治療を―――「動くな!!!」っ!。


「いや、動かれては困るな?一歩でも動けばこの女の頭が吹き飛ぶ。それくらいバカでもわかるな?」


 ちょっとちょっとちょっと【豪運】さん!?仕事してませんよ!?!?


「全く。何故か色々と手間取りましたよ。どうしてか貴方に近づこうとすると色んなに見舞われてね。それも貴方の仕業ですかね? 」


 だ、誰ですか?


「申し遅れました。わたくし【田上】と言うものです。あ、勿論偽名ですけどね?」


 新たに現れたのは線が細く酷く華奢な男の人。

 荒事には無縁そうな優しい笑顔をしているけれど、その笑顔が今はとても怖い。


「だ、れよ。あん、た。」


「ですから、【田上】と自己紹介したじゃないですか?流石に所属までは言えませんよ?」


「何が望みですか?」


 苦しげに睨んでいる遠野さん。多分どうにか状況を良くしようとしている。それか逃げようとしているのか?でも、そんな事よりも。遠野さんの治療が優先です!早く用事を言って!!!


「望みは簡単。君ですよ。【澤田善吉】くん。」


 ニヤリ。と言うよりも『ニチャリ』と笑って田上と名乗った男の人は俺を見て、指を指してきた。


「人を指差しちゃいけない。って、知らないんですか?」


「―――――クフッ。これは失礼しました。」


 何が面白いんだ?この人――――!!!


 何だかモヤモヤ?チリチリ?――――あぁ。もしかして、これが『イライラ』?

 何気に初めてのような気がするな・・・・。


「良いですよ。用事があるなら聞きます。――――でも、遠野さんの治療が先です。」


「急所は外してます。と、言った筈。大人しく君が付いてきてくれれば普通に助かる筈です。」


?それじゃあ困ります。助かる。それ以外俺は認めません。」


「―――――はぁ。仕方ありませんね。ゴンタ。そちらの女性をエスコートしてあげてください。連れていきます。」


「田上さん。俺はそんな名前じゃ「早く!!」――――。」


 あんたの名前なんてどうでもいい!


「クフッ。こちらです。」


 気持ち悪い笑いがまた、俺の心を不愉快にさせる。だけど、我慢。今は兎に角遠野さんの治療を!


「善、吉さ、ま。私の、事は、いい、です。から、逃げ、て。貴方、一人、なら――――」


 そんな事出来るわけがない。

 その意見は完全無視です。


 ショッピングモールから少し離れた人通りの少ない所で風呂敷を取った時までは良かった筈なのに・・・・。『これでまだ1つのヒーロー活動達成』だと浮かれた自分が恨めしい!


「何処まで行くんですか?」


「すぐそこに車を用意してあります。そこでお嬢さんの方は拘束させていただき、拘束が完了した所で治療をしてもらいましょう。あ~勿論。ね?」


 治療出来ることを知ってる・・・・・。

 一体全体どうなってるんだ?仁さん・・・。


「ゴンタ。これでお嬢さんを拘束してください。」


 男の言う車はワゴン車で、そこに付いた途端に後ろの座席もない車内に詰め込まれた。


 優男が前のシートから投げ渡したのはただの縄なんかじゃなくて、映画やアニメ何かでしか見たことがない【拘束具】。腕を胴体部分でガッチリと拘束する革?で出来たもの。更に猿轡で口を封じ、手錠で足を拘束。膝も曲げれないようにだろうか?初めて見る鉄で出来た筒?を嵌められてしまった。


 ごめんなさい。遠野さん。

 俺がもっと注意してれば・・・・。


 いつの間にか気絶してしまった遠野さんを見つめる。治療はまだダメなのか?


「さて、では拘束も出来ました。治療してくれて構いませんよ?」


 俺自身には拘束する物はなにも無し。まぁ、あったところで俺には流石に効果はない。すぐに無効化してやれるくらいには俺だって出来る。


 さっさと遠野さんに近づいて治療を開始。

 我慢させちゃってごめんなさい。


「ふむ。―――――実に興味深いですね。」


 ぶつぶつと喋る優男は無視して、治療に集中。


 傷が塞がって、気を失っていた遠野さんの呼吸が落ち着いて、ホッと胸を撫で下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る