第3話 バカはヒーローになりたい

 チートの使い方はこれでバッチリだろ。

 イメージと気持ち。この2つが大事なんだ。


 ただ【治癒】だけは発動方法が曖昧で、発動するときと、しないときがある。発動するときは翳した手からライトみたいな光が出て、治してくれる。


 だけど、傷がないときなんかは発動しないし、発動しても途中で止まったりする。バカな俺にはこの『途中で止まる』の原因がわからない。

 でも、一応発動はするのだから大丈夫。


 もっといっぱい練習したいけど、キズらしいキズもなくなって、出来物もなくなってしまった。

 自分で傷を作れば良いんだろうけど、勇気が出ず、諦めた。


【察知】は察知したいものの設定に気を付けないと、あっちこっちからの反応で頭は痛くなるし、気持ち悪くなる。

 使うときは気を付けて使う。・・・・気を付けてても仕事中、散々失敗してきた俺。本当に大丈夫なのかは気にしない。被害は俺だけだから、大丈夫。


【変幻自在】は馴れれば『他の物や人を自由に出来る』と大男さんは言っていたが、何故か普通に他の物にも出来た。まだ、とは言えないはずなのに不思議だ。


 手を石に変えたり、固さだけ変えたりした。元に戻すのも『元に戻す』とイメージして、使ったら特に問題なく元に戻った。

 他にも、テーブルを石のテーブルに変えたり、鉄のテーブルに変えたりも出来た。元にも戻せた。


 うん。大丈夫。問題ない!


 じゃあ、いよいよ人助けだ!そして、俺はヒーローになるんだ!


 先ずは【察知】で何処に助けを求める人が居るか?なのだが、さっきみたいにいっぱい反応されても困る。把握も出来ないし、頭の痛みと気持ち悪さで動けない。


 だから、もっと詳しく条件を付けて【察知】を発動する。


 今回は『半径5㎞に居る助けを求めている人』だ。


 早速発動!


 反応は8。

 少ない気もするけどこの辺は大分田舎だし、住んでいる人も少ないから、そんなものなのかな?


 取り敢えずこの中で気になるのはほぼ変わらない方向にある3つ反応。そこに向かって進む。まだ、夜の8時だから上手くいけば今日早速困った人を助けられるかもしれない!


 じゃあ出発!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「おかしい」


 さっきから同じところをグルグル回ってる。行きたい方向に道がない。有るのは大きなお屋敷?みたいな家だけだ。


 まさかこの中に住んでいる人が困っている人なのだろうか?

 3人も?こんな立派な家に住んでいるのに?


「おい!そこのお前!」

「え?」


 お屋敷の門?みたいな入り口を5回くらい通りすぎたら後ろから声をかけられた。


「お前は何をしている?」

「え?え~っと」


 スーツ姿のイケメンなおじさん。イケメンだけどちょっと顔付きとか体付きが厳つい。そんな人が眉を寄せて俺を睨んでいる。


 正直怖い。


「目的はなんだ?さっきからこの辺りをグルグルと・・・・・何かやろうとしてるのか?」


 何か・・・・?


「えっと、人助けをしたいと思ってます!」

「・・・・はぁ?」


 正直に答えたら、より一層眉を寄せられた。何故?


「何故人助けをするのにグルグルとこの辺りを徘徊している?」


「えっと、たぶんこのお屋敷?に困ってる人が居るみたいで・・・・たぶん3人。その人たちを助けられないかな?っと思ってます。」


「・・・・明らかに怪しすぎるんだが・・・・わざとか?」


「あ、あやしい・・・・」


 ショックだった。


「え~っと。このお屋敷の人ですよね?何かお困りの人に心当たりはないですか?」


「今俺は猛烈に困ってるが?」


 あ、本当だ。反応がおじ様の方向に1つ増えた。・・・・何故。


「うむむ。困りました。困らせるのではなく、困ってる人を助けたいのですが・・・・」


「クソッ。埒があかねぇ。」


「そうですねぇ」


「お前が言うな!?」


 ご、ごめんなさい?


「どうしたんですか?」


「あ、じんさん!申し訳ない。この青年がちょっと訳のわからないことを言ってまして・・・・」


 あれ?この人・・・・。


「あのすいません。・・・・お兄さん?おじさん?は何か困っている事がありませんか?」


「ん?」


 凄く若く見えるし、でも雰囲気は凄く落ち着いていておじさんっぽくも感じる不思議な人。

 着物みたいな・・・・和服?って言うのか?着物とは違うけど、着物に似た服を着ていて、それも凄く落ち着いた年上の人を感じさせる。でも、顔を見ると凄く若い。まだ、20代後半くらい?


「ん~。確かに私は幾つか困り事を抱えているが・・・・君は何故そんなことを私に聞くんだい?」


「そ、それがですね。『人助けをしたい』と言ってまして、この家に3人困っている人が居る、と。」


「ほぉ」


 説明しようとしたけど、スーツのおじ様が説明してくれた。


 ありがとうございます。


「確かに困ってる。それも3人と言ったらあの事が頭に浮かぶが・・・・・。何故それを知っている?」


「っ!?」


 え!?なに!?急に怖い人になった!!目力が!?


「え、えっと、その」


さかきくん。この子を中へ」


「は、はい?いいんですか?」


「勿論見張っててください。何か怪しい動きをした場合は拘束をお願いします」


「承知しました」


 物腰や物言いは凄く丁寧だけど、俺を見る眼と雰囲気は凄く怖い。

 なにこの人・・・・。






「さて、どうやってこの家の事を知ったのか。話してもらいましょうか?」


 場所をお屋敷の中に変えて、テーブルが1つだけある部屋に案内された。応接間?かな、たぶん。

 お茶も用意していただいて、ありがとうございます。凄く美味しかったです。


 掛け軸とか壺とか置いてある。凄く高そうで、自然と体が震えてくる。

 もう、お金持ち間違いなし!って感じの雰囲気があちらこちらから漂ってきている。


 美味しいお茶でホッと一息つけたけど、すぐにやって来た和服姿の若いおじ様?からの圧がスゴい・・・・・。


「こ、このお家の事はな、な、何も知りません!ただ、俺、じゃなくて、僕、の力でここに困った人が居るのを知っただけ、です。」


 正直に話すが、さっきのスーツを着たおじ様と同様の反応。


「君のね。それはどんな力だい?」


「え、えっと【察知】って言います。察知したい事を察知出来る力で、それを使ってここまで来ました!それで別の力も持ってて、それで困ってる人を助けようと思ってます!」


 あ、あれ?また眉が・・・・・。


「君は、何か良くない薬でも飲んでいるのかい?」


「く、薬?い、いえ、体だけは丈夫なので飲んでいませんが?」


 突然薬の話になったのは何で?

 そんな病気の話なんて・・・・あっ!


「もしかして誰かが病気になっててそれで困ってるんですか?」


「何故そうなる?」


 あ、あれ?何だかさっきから話が全く噛み合わない。


「君は正常であるにも関わらず、そんな現実には存在しないような力がある。と、そう言うことでいいんだね?」


「?はい。そうです。」


 むむむ。

 頭でも痛いのか?額を押さえてる・・・。


「そんな不思議な力が本当にあるのなら是非助けてほしいものなんだが・・・・ハァ。」


「はい!是非協力させてください!」


 あ、あれ?今度は両手で頭を抱えてしまった。だ、大丈夫ですか?


「あ~。その前に何かその『力』の証拠を見せてくれないか?」


「えっと・・・・じゃあ何か要らない物ってありますか?」


「ん?ん~。あぁ。その湯飲みで良いよ。それで何が出来るんだい?」


「えっと、何が良いですかね?何か欲しいものとかありますか?」


 このお家の物を使うのなら、何か欲しいものにしてプレゼントすれば喜んで協力させてもらえるかも?


「欲しい、物・・・・常識。っと言っても仕方ないでしょうし・・・・・その湯飲みを何かに変えて見せる・・・?・・・宝石などがあれば多少は嬉しいでしょうね。」


「宝石・・・・」


 しゅ、種類を知らない!

 だ、ダイヤモンドで良いかな?


「無理ですか?」


「あ、いえ!ダイヤモンド・・・でも良いですか?」


「ほぅ。ダイヤモンド、ですか。えぇ。それで構いませんよ。本当に出来るのなら、ね」


 ん?最後の方が聞き取れなかったけど、良いって言ってるからちゃちゃっとやってしまおう!


「っ!?どうなっ、て!?」


 一気にスパッとは変化しないんだよね。少しづつしか変わっていかない。集中を無くすと途端に変化も止まっちゃうから注意して・・・・。ヨシッ!出来た!


「これでどうでしょう?あっ、ご、ごめんなさい!形そのままでした!」


 宝石なら宝石らしい形にしないと!


「まっ、待ってくれ!」


 ん?


「そ、そのまま。そのまま渡してくれないか?」


「え?えっと、じゃあ、はいどうぞ」


 恐る恐る?俺が初めてパチンコ屋に入る時に似ている気がする。

 妙に記憶に残っている、あの時俺を変人のように見ていたお客さん。あの人の気持ちが少しわかった気がする。


「こ、これは形も変えれるのかい?」


「あ、はい!すいません。やっぱり変えないと変ですよね。変えます。」


「い、いやいや、大丈夫だよ。このままで。」



 そうなのか?お金持ちが考えることは良くわからない。湯飲みの形をしたダイヤモンドなんて必要なのだろうか?


「君に不思議な力があるのは良くわかった。うん。間違いなくわかった。これは夢?」


 一通りの観察は終わりですか?スゴく大事そうにダイヤモンド湯飲みを扱ってるけど、よっぽど気に入ったのだろうか?なんならもう1つ作りましょうか?


「好きなものを作れる。そう考えて良いのかな?」


「えっと。ちょっと違います。作るって訳じゃなくて、ただだけです。」


「変える?」


 聞き返されたので頷く。一応声でも返事を返して、自分の右手の掌だけを石に変える。


「こんな感じで元々あるものを何か別の物に変化させる力です。【変幻自在】って言います。」


「!?それは、大丈夫なのかい?右手は。」


「問題ないです。普通に動かせますし、感覚もあります。何故かはわかりませんけど。それに・・・・こうやって元にも戻せますので。」


 石に変えていた右手を元に戻してから、ヒラヒラと問題ないことを見せる。


「た、例えばだけど、その手の色を変えたり出来るのかい?」


 声を震わせながら聞いてくる事を不思議に思いながら返事を返して、言われた通りに右手を黒く、左手を真っ白く変える。うわっ!気持ち悪いっ!?


「どんなものも、あらゆるものに変えることが、できる・・・!?」


「一応は、はい。そうです。でも、俺、じゃなかった、僕が想像できるものじゃないとダメです。」


「・・・・・・・例えば、性別を変えたりも?」


「えっと、やったことは無いですけど、出来るらしいです」


 そんな事をあの大男さんは言ってた・・・・言ってたよね?たしか。・・・・・記憶が曖昧だ。何でこの頭はすぐに忘れていくんだろうか?


「ほ、本当か!?!?」


 うぉ!?ビックリした~。


「す、すぐに出来るか!?」


 な、何か知らないけどスゴく興奮してらっしゃる?口調もちょっと粗っぽい気がする。

 よっぽど大事な事なのだろうか?性別を変えることが?・・・・・謎だ。


「すぐはちょっと自信がないです。力を使うときイメージが大事なんです。でも俺、じゃない、僕は頭がちょっと、と言うかかなりバカなので、性別を変えるって言うのが想像できなくて・・・・。それにまだ、上手く力も使えていないのも関係あるかも?しれないです。」


「そう、か。そうなのか・・・・。いや、そうだな。私もいきなり性別を変える想像をしろと言われても出来ないな。色々と知識が足りない。

 ・・・・・・だけど、私たちが抱えていた問題は、君の協力があれば解決しそうだ。是非私たちを助けてくれないか?」


「おぉ~!勿論です!よろしくお願いします!」


 頭を下げ、ちゃんと感謝する。

 これで俺はヒーローに一歩近づいた!


「頭を下げるのはこちらの方なんだけど、ね。」


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