第39話

「逮捕って……どういうことだよっ!?」


「言葉通りの意味だ。貴様の身柄は、これより我々が拘束する。この屋敷も証拠品として押収する」


 有無を言わさぬ口調。


 女が軽く手を振ると、白服の男たちがドカドカ屋敷に踏み込んできた。



「うわっ!? な、何だコイツら!?」


 いきなり大挙して押しかけた白服連中を見て、だらけていたプロ助がビビッて起き上がった。


「エマ・リリーか?」


 威圧的な口調で問いかけられたプロ助は、若干ムッとしたような口調で答える。



「違う! 私はこの世界を創ったアプロ……」


「そいつはプロ助。ヒキニートだ」


「おい! 私は引きこもりでもニートでもないぞ! 昨日だって散歩に出た!」


 とぼけた会話をしているうちに、異変に気付いたらしいエマがエプロン姿でキッチンから出てきた。



「そいつがエマだ。私はこの世界を創ったアプ……」


「エマ・リリー。私は法務官のシュルツだ。君にも逮捕状が出ている。大人しくしてもらおう」


 やはり威圧的な女の言葉に、エマは不快気に眉を顰めた。



「随分と無礼な女ね。常識も教養もない女がユウ様に近付くなんて……汚らわしい……ッ!」


 エマの言葉に、女は眉をピクリと動かした。


「逮捕? 私が一体何をしたというんですか?」



 すると、女……シュルツは勝ち誇ったような顔になった。


 スーツの内ポケットから書類を取り出すと、得々と読み上げる。



「エマ・リリー。建造物侵入、強盗、器物損壊、禁呪の使用……」


 手広くやってんなー。ま、俺の前でも色々やってたしな。


 感心する俺。シュルツはどうしたわけか一度言葉を止め「そっ、それに……」と言った。


 気のせいか、震えた声で。



「貴女、私がドMだっていう秘密を知っているでしょうっ!?」



 震えた声で、とんでもないことを言い出した。



「はぁ? 何を言っているんですか貴女は。知りません。そもそも初対面です」


「とぼけないで!!」


 さっきまでの事務的な、どこか冷めた態度は消え、羞恥か怒りか、顔を真っ赤に染めている。


 どうも素が出てるみたいだな。



「貴女、私のことを忘れたの!? 前に私がホテルに泊まっていた時、私たちにおかしな魔法をかけて無理矢理追い出したじゃないっ!!」


 ……あ。あの時か。


 俺たちが……と言うよりエマが、強盗団から屋敷を奪う前。ホテルで寝泊まりしたとき……



「何を言っているんですか? あれは合意の上です。貴女が自発的に譲ってくれたんじゃないですか」


「そんなわけないでしょう!? せっかく彼女とSMプレイをしてたのに、貴女の所為で台無しよ!」


 コイツ今彼女って言ったか?


 何だよ。想像が膨らむ素敵な言葉じゃないか。



「あの、法務官……」


 騎士団の団員が恐る恐るといったように声をかけると、シュルツは我に返ったのかハッとした顔になった。


 コホンと咳払いし、



「加えて、貴女とユウ・アイザワには、国王陛下の暗殺未遂容疑もかけられているのよ」


 ここで、エマは初めて驚いたような顔をした。ただし、シュルツには気づかれないよう、表情には大きな変化はなかった。



 つーか、国王暗殺? エマは皇女なわけだから、国王っつーと父親だろ? いや、でもコイツはエマの正体を知らないのか……


 いやいやそれより……



「俺……俺たちが国王暗殺!? いやいや知らねぇぞそんなこと!」


「またとぼけるの?」


 シュルツは呆れたようにフンと鼻を鳴らしやがった。ムカつくなこの女。



「鉱山の魔物を倒すと見せかけて、国王陛下がお乗りになった馬車を攻撃するだなんて!! ちゃんと証言も取れているのよ!」


 国王の馬車を攻撃? コイツ何を言って……


 いや、待てよ。そういえば、リバドラは最後に爆散してそれがそこら中に散っていったよな。まさかあれが……



「いやいや、俺たちはそんなつもりじゃなかったってマジで!」


「そーだそーだ! 私たちは町を救ったんだぞ!」


 と、プロ助が俺の言葉に便乗してくる。



「ていうか、そもそも一番の功労者はこの私だ! お前たちが今暮らせているのも全部私のおかげなんだぞ!! 分かったらもっと感謝を……」


「国家反逆罪は死刑にもなりうる重罪だ。しかも今回は陛下を狙っている。見込みとしては……まず死刑だ」


「そういえば、言い出しっぺはユウだったな」


「は?」


「いざとなったらプロ助を囮にして俺たちだけ逃げるって言って、私を脅したんだ」


「言ってはねぇだろ!」


 思っただけで!



 プロ助は急にさめざめと泣き始めた。


「囮にするって脅したり、その後にも色々無理難題を押し付けて、私を魔物に向けてぶん投げたりして……うぅっ」


「なんて酷い……子供にそんなことをするなんて! 最低!! かわいそうに、もう大丈夫よ」


「ああ。ユウはどうなっても構わないから私だけは助けてくれ……」


 このクソ女神。


 人を生贄に自分だけ助かろうなんてそれでも女神か!



「エマ!!」


 使い物にならない女神はどうでもいい。


 だがエマなら……


 一縷の望みをかけて名前を呼ぶが、



「ユウ様と犯罪者……愛の逃避行……ふふっ、ふふふふふふふふふ……っ!!」


 駄目だ。


 こうなったエマはしばらく帰ってこない。


 そんなわけで、



「二人とも逮捕する。両手を後ろに回せ」


 俺とエマは逮捕されたのだった――

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