第10話 VS強盗団

 ――ドォオオオオオオンッッ!!



 着くなり、俺の耳を支配したのはそんなバイオレンスな爆発音だった。


 エマの攻撃魔法である。なんか空中に魔法陣を浮かべてそこから炎出してました。



 エマが探り当てたのは郊外にある廃墟だった。大きさは俺たちが奪った屋敷と同じくらいだが、外見から考えても、ここは〝家〟って感じじゃない。多分、なにかの施設だったんだ。


 それを有事の際の隠れ家にしたのだろう。だって……。




「う、うわぁあああああっ!?」「な、なんだぁ!?」「まさか、『騎士団』の奴らに嗅ぎつけられたんじゃ……」




 強盗団の皆さんは慌てふためいていた。


 咳き込みながら外に出てきたとき、その顔はただ困惑しているだけだったが、俺たちの姿を視認したとき、すべてを察したように大声を上げた。



「お、お前らは昼間の……!!」


 と言うのは、盗賊団の頭っぽい奴。つーか、また〝ら〟って言ったな。ちゃっかり俺のことも覚えてやがる。



「お前ら、一体俺たちに何の恨みがあるってんだぁっ!?」


「別に恨みなんてありません」


「へぁ?」


 エマの言葉があまりに予想外だったのか、頭(仮)は素っ頓狂な声を出したが、



「ただ、あなた方の存在が、邪魔なだけです。……私とユウ様の、輝かしい未来にとって」


 前半の汚いものを吐き捨てるかのような響きに対し、後半はどこまでも甘美な響きがあった。



「ふ……ふざけんじゃねぇぞイカレ女ァ!!」


 頭(仮)はそれがお気に召さなかったらしい。


「てめーらぁ! この舐めたガキどもに、俺たちの怖さを思い知らせてやれぇっ!!」


 その言葉に従うように、半壊した建物の中から、武装した男たちが俺たちを取り囲む。



「あら……わらわらと、鬱陶しい連中……だこと」


 吐き捨てるように言うエマ。それがまた連中を煽る結果となり、一斉に襲い掛かってきた。


 だが、奴らは今度はちょっと頭を使ったらしい。


 何人かは、エマではなく俺に向かってきやがった。



 って、マジで!?


 ヤバイって! 俺には武術の心得はないし、殴りあうようなケンカだってしたことない!


 このままじゃまた殺される! また刺されて! 今度は男に! いや、女ならいいってわけでもないが……



「ユウ様っ!!」


 エマの叫び声が、俺を現実に引き戻す。


 男たちはもう目前まで迫っている。エマが何かしようとしてるみたいだが……ダメだ! 間に合わない!



 くそっ!


 俺は反射的に腕をクロスさせて顔を守ろうとする。そしてすぐにでも来るだろう激痛に目を瞑るが……


 いつまで経っても衝撃も痛みもない。



「……?」


 恐る恐る目を開けた俺の視界に飛び込んできたのは……


 驚いた顔で固まっている男だった。


 そして、俺も驚く。


 多分、男が驚いているのと同じ理由で。



 男が振り下ろした刀は俺の腕に当たり、真っ二つに折れていた。


 なのに、俺の腕は切り傷一つない。どころか、痛みすら感じない。



「ど、どうなって……てめぇ! 何しやがった!?」


「まあ! 流石はユウ様! そんなゴミムシの攻撃など、まったく意に返さないのですね!」


 男は焦燥、エマは歓喜、それぞれ違う反応を見せてるが、俺は動揺。


 ……ど、どうなってんだっ!?



「なに油断してんだバカ野郎!」


 俺が何かしたと思ったらしい。今度は別の男が俺に殴りかかってくる。


 完全に不意を突かれたので、拳は見事に俺の右頬に当たるが……



「あれ……?」


 全然痛くない。〝蚊に刺されたほども感じない〟なんて表現を見ることがあるが、まさにそんな感じだ。


 エマに吹っ飛ばされて壁にめり込んだときは失神したのに……


 いや、今はそんなことはいい。



「お、おい……どうなって……」


 男は完全に固まっている。これなら……


「っ!」


 試しに、一発殴ってみる。すると――



「あべしっ!?」


 聞いたことのある悲鳴を上げた男は、そのまま何メートルか吹っ飛び、廃墟の壁に激突して動かなくなった。



 ……………………



「ふっ!」


 今度は折れた刀を持ったまま固まっていた男をぶん殴ると、


「あべひろしっ!?」


 そいつもものすごい勢いで吹っ飛んでいき、塀に激突して白目をむいていた。


 しばらく自分の拳を見た後、盗賊団に目を向けると……



 ――ビクッッ!!



 一様にビクつく盗賊団。


 これは……イケる!!


 俺は強盗団めがけて駆け出す。心なしか、足もいつもより早くなっているような気がした。そして――



 右ストレートでぶっ飛ばす右ストレートでぶっ飛ばす右ストレートでぶっ飛ばす右ストレートでぶっ飛ばす右スト(ry




「な、なんなんだコイツ!?」「ただのひょろっちぃ優男かと思ったら強ぇぞ!?」「お、俺はもう逃げる! こんな奴らと関わってたら命がいくつあっても足りねぇよ!!」「お、おい待てよ!」




「愚かな連中。逃げられると思ってるのかしら」


 男たちの大声をかき消すのは、エマの冷めた低い声。


「ユウ様! こちらへ!」


 言われて、というか、身の危険を感じて俺はエマの元へと戻る。 



「ひょろっちぃ優男? ユウ様に向かってなんて下品で無礼な言葉遣い……許しません」


 エマの口元が小さく動く。すると、連中を囲むようにして、複雑な模様を描いた巨大な魔法陣が浮かび上がる。




「こ、こんどはなんだっ!?」「お、お頭ぁ! こ、これマズいんじゃねぇですかい!?」「ば、バカ野郎!! 狼狽えんじゃねぇ!」「んなこと言ったってぇえええええええええ!!」「ひっ、ひぃいいいいいいいいっ!!」




 男たちは阿鼻叫喚の嵐。つーか、あの筋肉男、マジで頭だったのか。が――


 それもすぐに聞こえなくなった。魔法陣の中が光に包まれたかと思うと、十秒ほどで消える。


 そこには、先ほどまで悲鳴を上げていた男たちが、全員糸の切れた操り人形のように倒れていた。正直同情する。 



 ……つーか、俺来た意味あったか? もうエマ一人でいいんじゃないか?


 と思っていると、



「うっ……」


 うめき声を上げた奴がいた。



「頭! 生きてたのか!」


 同情した手前、思わずそう叫んでしまう。


「う、うるせぇ! お前が頭って言うんじゃねぇよ!」



 怒られた。せっかく心配してやったのに。これだから男は!


 頭は周りに倒れた部下たちを見て、顔を赤くする。



「てめぇら、ふざけやがって……俺を敵に回してただで済むと」


「黙りなさいっ!!」


 怒りに満ちた頭の言葉は、エマの怒号にかき消される。



「よくも……よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも!! よくもユウ様を!!」


「は……?」


「ユウ様を狙うだなんて……万死に値します!! 覚悟は、できてますよねぇ……」


「いや、そいつ狙ったの俺じゃ……」


「鈍いゴミムシだこと。貴方はわざと殺さなかったんです。部下の教育もできないゴミムシには、お仕置きが必要ですから……」


「いや、ちょ……」


「さあ、覚悟はいいですね?」


「ちょ待てよ」


 ガッ! ゴッ! ドッ! バゴッ!!


 エマは魔法を使っていた。魔法(物理)である。具体的には、杖で頭の顔面を殴打していた。



「この! この! このっ! このぉっ!! ゴミムシ! ゾウリムシ! ワラジムシ!! ミトコンドリアっ!!! 壊れろ壊れろ壊れろ壊れる壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ!!!!」


「もっ……やめっ……」


 しばらく(物理)魔法を続けたエマは、肩で息をしながら攻撃を中断する。


 攻撃が終わったと思ったらしい頭は、ホッとしたように息を吐いたが……



「なに勘違いしてるんですか?」


「ひょ?」


 キョトンとしている頭にエマは言う。



「まだ私のお仕置きは終わっていませんよ……頭?」


「だから……お前らが頭って……よ……ぶ……な……」


 その言葉を最後に、頭は動かなくなった。

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