満月の夜に 【王子視点】
「恐らく、彼女、エラは……平民だろう……。しかもかなり貧しい」
「………そう思う根拠は?」
初めて、彼女に触れた直ぐ後。ウィリアムにそう呟いた。
暫く雨が降り続いた期間、やっと会えたがかなり痩せていた。数ヵ月で頬が痩けてしまうほど十分に栄養が摂れていないのか。
次に会ったときは頬もふっくら戻っていて、安心からか思わず触れてしまった。その時もしきりに謝っていたな。可愛いと、素直に出てきた言葉なのに。
見た目に反して、自分のことを随分と卑下している。
それ以前に所作や言葉遣いからして、位があるものでは無いと分かる。
「……貴方の、エリックの地位を知って近付いている、とは考えられませんか?」
「いや、それは無いだろう。名乗ったが一国の王子かもと気付く様子もなかった。ただ……ただ単に、貴族様と、そう思っている」
「それも、演技、とは?」
真剣な目でウィルは私を見る。
「流石に……瞳までは嘘をつけない。そうだ。二度目に会ったとき彼女は捕まることを覚悟していたな。あの泉が聖なる泉とも理解していないようだし」
「まぁ……、エリーは女を見る目だけは確かですからね……」
「どういう意味だよっ……!」
「どういう意味もこういう意味もありません。だから貴方は未だに婚約者を選ばないのでしょう?」
さすが幼馴染み。その言葉に「ふんっ」とあしらうように鼻を鳴らすことしか出来なかった。
「私のようにそういう生き物だと割りきって遊べば良いんですよ」
「馬鹿言え! そもそもお前は女遊びが激しすぎるんだよ!」
「そうですか? 周りの
「それじゃあいざというときに信じてもらえんだろうが……」
「その時はその時ですね」
「全く……どうしてこうも正反対なんだか……」
「全くですね。私は真面目に仕事をしてます」
「………うるさい」
そう言えばあの舞踏会が開かれた日から、父上は「早く婚約しろ!」と煩くなくなったな。手応えが無さすぎてやっと諦めたか?
それとも、エラのことが既に知られている?
いいや。この際どちらでも良い。私にとっては都合が良いことだ。エラが周りの人間にどう思われるかは置いといて、だが。
「そうだ。今度エラに贈り物でもしようかと思うんだ。ウィルは何が良いと思う?」
「そうですねぇ。普通の御令嬢なら簡単に思い付くのですが……。またお会いしたときに然り気無く聞いてからでも宜しいのでは」
「そうだな! そうしよう!」
「ふっ、随分と楽しそうですね」
「ああ楽しいな! こんな気持ちは初めてだ」
まるで心踊るよう。世界が光に満ち溢れるように。
早く会いたいと、毎日想う。
君も、そう思ってくれているだろうか。
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