第21話 いい加減、認めよう


 目覚ましが鳴り…目を覚ますと、ベットの上にいた。


 あれから、どうやって帰ったのか覚えていない。


 (アルバイトに行かなくちゃ)


 重い体を、何とか動かし…顔を洗い、歯を磨き、着替えて外に出た。


 食欲は無かった為、お茶だけ買って…地下鉄に乗り、アルバイト先に着いた。


 「おはようございます」


 「おう、おはーーーどうした、その顔は?」


 「何がですか?」


 何を言ってるんだ?


 「何がって…お前今、酷い顔をしているぞ? クマも酷いし何があった?」


 そう言われ、自分の顔を両手で触るが…特に異常は見られなかった。


 「別に何でも」


 そう言うと…男性の社員は、片手で頭を掻き、ため息を吐いた。


 「言いたくないならそれでもいいが…代わりに、暫く休め。そんな顔で現場に入られたら他の人間の迷惑だ。

しっかり体調を治してから働け」


 「いや、俺…働けますよ?」


 「うるせぇ、帰れ」


 いつもの緩い態度と違い、交渉の余地もないような雰囲気で言い放つ社員に、俺は諦めて帰ることにした。


 「何か腹に入れないと…な」


 腹は空いていないが…何かを入れないと倒れるような気がする。


 幸い、昨日よりは、まだ体調はいい。


 俺はコンビニに行き、プリンと梅のおにぎりに、サラダを買って外に出た。


 そこから安曇は、地下鉄に乗り…無事に家に着くと、倒れるようにベットで眠りについた。



 **********



 「ん…暗」


 眼を覚ますと…外はすっかり暗くなっており、時計を見ると22時を回っていた。


 帰ってきたのが、13時頃だと考えると9時間は寝ていたことになる。


 それでも、食欲は湧かない。


 「サラダだけでいいか」


 電気を付ける事もなく…床に転がっていたサラダを拾い、蓋を開けて一緒に入っていた、フォークで口に入れた。


 「味がない」


 そうだ、ドレッシング…。


 サラダの蓋に張り付いていた、ドレッシングを剥がし…サラダに垂らした。


 「うん…うん」


 美味しくも、不味くもない。普通の味だ。


 サラダを食べ終わると、一緒に転がっていた梅おにぎりと、プリンを冷蔵庫に入れ…飲みかけのお茶を、一気に飲み干した。


 「ッゲホ! ゴホ!? …ハァ」


 お茶が気管に入り…自然と四つん這いなり、息を整えた。


 駄目だ…力が入らない。


 確かにこれじゃあ、社員からも帰れと言われるよな…納得。


 (寝よ…)


 俺は、歯磨きもせずに…ベットに入った。


 眼を閉じると、またあの光景を思い出す。


 初音の泣きそうな顔…それを思い出す度に、胸が苦しくなる。


 それでも…俺は、間違っていたとは思わない。


 なのに…苦しい。辛い。悲しい。寂しい。


 どうして! こんな…。


 安曇は無意識に、体に力が入り…強く握りしめていた、手の甲が濡れている事に気がついた。


 「え…?」


 俺は、ゆっくりと起き上がり、枕が濡れている事に気がつき…自然と右手が顔に向く。


 顔に触れると…濡れていることに気がつき、安曇はベットに体を戻し、眼を閉じた。


 (俺は…初音に惹かれていたんだな)


 いや、違うな。認めよう。


 俺は初音が好きだ。


 でも…だからこそ! 俺じゃ駄目なんだ…! 俺じゃあ幸せに出来ない!! どうして、何の取り柄もない俺が幸せにできようか!!


 だから…。


 だから…俺は間違ってない。

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