第13話 その正体は…


 「う〜ん、ちょっと汚いんだけど」


 勝手に部屋に入ってきたのにも、関わらず…そんな事を言ってくる、黒髪ショートに呆れが出た。


 「連絡も無しに、急に家にやってきて何を言ってるんだ? 事前に来ると分かっていれば掃除だってしてたさ」


 「事前に連絡したら、琴音が絶対に逃げるよ! って言ってたんだけど?」


 「………」


 数回しか会ってないのに、そこまで分かるのか…。


 「無言は肯定と相場は決まってるんだけど? 本当に琴音の言った通りなのね…」


 いや、何でお前はちょっと悔しそうなんだよ…、正直赤髪の女性アイツは他にも裏で嗅ぎ回ってそうで怖えな…。


 「あ〜ス◯ブラだ!! 一緒にやろう!!」


 「いや、お前自由だな!」


 ああ。もう。ペースを乱される。


 普通、仲が対していいわけでもない、相手の家に警戒心0で、こうも自由にいられないだろ!!


 「ほらほら、もう帰れ。こっちは忙しいんだ」


 「何でよ! アンタさっき、今日は休日だって言ってたじゃない!! それに…この前の電話を聞かれた以上、意地でもここを動かないんだから!!」


 ヤベェ…眼がマジ本気だ。


 壁にしがみついている、黒髪ショートの女性を見て、少なくとも直ぐには帰らない! と…強い意志が感じられた。


 「はぁ…分かったよ」


 「分かればいいのよ」


 どちらにせよ俺は詰んでいる。


 もし、仮にコイツが悲鳴をあげれば…間違いなく冤罪で俺は捕まるし、無理やり追い出す為には触れる必要があり…警察に触られたと言えば、捕まる。


 家に入れてしまった時点で、俺は負けたのだ


 敗者は大人しく、勝者の言う事を可能な限り聞こうじゃないか。


 「じゃあほら! ス◯ブラやるわよ! この前オンラインで酷い目にあったから、ここで恨みを晴らすわ!」


 「完全な八つ当たりじゃねぇか…」


 てか、この話方…どこかで聞いたことあるような? どこだっけな?


 俺は安定の◯カチュウを選び…黒髪ショートは、緑の恐竜◯ッシーを選んだ。


 嫌われても構わないから、手を抜く必要もないな。


 3


 2


 1


 GOー!!


 「ギャー! ちょっと! ちょっと! 離しなさいよ!!」


 「いや、これは勝負だから。手を抜いたら逆に失礼だろ?」


 空Nループからの掴み…雷。


 空Nループからの掴み…雷。


 空Nループからの、掴み、後ろに投げての…フェイクを入れてのメテオ。


 完璧。


 満足した俺は、コントローラーを床に置いて、麦茶で喉を潤した。


 しかし、ボコボコにしたのにも関わらず…ずっと無言だな。


 不審に思った俺は、横眼でチラリと見ると…歯ぎしりをしているのが眼に入り、直ぐに視線を画面に戻した。


 「ねぇ…アンタ、1週間くらい前にVtuberが作った専門部屋に入ってきたでしょ」


 「ん? まぁ、そうだな」


 特に何も考えずに、答えてしまい…後に気づいた。


 どうしてそれを知っているのか…。そして、聞いたことがあるその声で黒髪ショートの女性の正体を察した。


 「マジか」


 「ふん、気づいたようね」


 そう言うやいなや…すくっと立ち上がり、自分の胸に手を置いた。


 「私の名前は初音はつね優衣。そして、もう1つの名前はVtuberで活躍してる梅1.00ホーチュンスよ!!」


 それを聞いて、俺はますます、嫌われるように接する事を心に決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る