第4話 ボイスレコーダーは大切


 黒髪ショートの女性を助けてから1週間。


 あれから変わったといえば、外にいる時にまるで誰かに見られているような感覚になる。


 まぁ、直ぐに自意識過剰だと判断した。


 そもそも、イケメンじゃない俺を見てどうする? 調子にのるな。と…自分に言い聞かせつつ、アルバイト先へと足を進める。


 「ねぇ〜ねぇ〜君ぃ〜ちょっといいかな?」


 それにしても腹減ったな…やっぱり朝ご飯食パン2枚じゃ足りなかったかな? 何か買うか…。


 「君ぃ〜君ぃ〜お〜い!」


 ん? 逆ナンか? よっぽど相手がイケメンなのか、必死に呼び止めているな。


 まぁ、俺には関係ないがな。とりあえず、近くのコンビニよって、何か買うか。


 「お〜い! お〜い! お〜いって言ってるでしょうがーー!!」


 「ぐはぁ!」


 後ろから急に衝撃を受け…転びそうになるが、片足で数歩跳んで持ち堪えた。


 何だいきなり!?


 混乱しながらも、振り向くと…黒髪ショートの女性を迎えに来た、赤髪のクール系な女性が腕をクロスさせたポーズでいた。


 状況から察するに、俺はこの女性に後ろからクロスさせた腕でぶつけてきたのだろう。


 だが、何故? 意味が分からない。


 「さっきから呼びかけているのに、全然止まらないんだから…君が悪いんだからねぇ〜」


 「いや、知らんがな」


 つい、変な口調になってしまったのは、仕方のない事だと思う。


 赤髪の女性は、そんな事も気にせずに、両手を握り…上目遣いで見てきた。


「ねぇ、ちょ〜とお姉さんに付き合ってくれないかな? 頼みたい事があるんだ〜」


 そう言われ、俺の中に2つの考えがよぎった。


 誘われるままついていくと、知らない男達に囲まれて暴行を受け…金を毟り取られる。


 そして、免罪。


 何にしても、明らかなハニートラップについていく理由もない。


 だから、答えも最初から決まっている。


 「いや、仕事があるんで無理です」


 「え!?」


 いや、そんな信じられない! みたいな顔をされてもな…。


 「んじゃ」


 これ以上絡まれないように、早歩きでその場から立ち去ろうとすると…抱きつかれ、腕を絡ませられてた。


 「は?」


 「待って」


 この女、いったいどうゆうーー「大人しくついてきてくれなければ、大声で痴漢と叫ぶよ?」


 …と、耳元で呟いた。


 …もう、同じ手口で嵌められないように、最新機種のボイスレコーダーを買うことを、心に刻んだ。


 「さぁ! 行こっか!!」


 俺は腕に抱きつかれたまま…連れて行かれた。


 …後でアルバイト先に連絡入れないとな。




 **********



 歩いて5分くらいだろうか? 赤髪の女性に、強制的に引っ張られ…ビルの中に入った。


 はぁ…もしかしたら、今日が俺の命日になるのかもしれないな。


 まぁ、人はいずれ死ぬんだ。それが早いか遅いかの違いだろう。


 「ここだよ。さぁ入った入ったー!」


 赤髪の女性は、俺がそんな事を考えているなど知らずに…4階の1部屋に、俺をぐいぐいと後ろから押し込み、よろけたが転びはしなかった。


 「はぁ、ここまで連れてきていったい何を…」


 そうぼやきながらゆっくりと、顔を上げると…中は木製の長テーブルが中央を開けるように並んでおり、1番離れたテーブルの上には1週間前に、変態3人に囲まれていた黒髪ショートの女性がそこにいた。

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