第7話憂鬱生活スタート~憂鬱なのは怜琳《れいりん》だけじゃない?~

~7日前~


「どういうことだ?」


俺は秋唐国しゅうとうこくの使者に対して、冷たく言い放った。

今日は約束の日。やっと彼女に会えると思っていただけに怒りが湧き上がる。

だが相手はそんなことお構いなしにこう告げてきた。


「先程もお伝えしたとおりです。いきなりの訪問で国王様をお迎えする準備ができておりません」


「それについては、こちらも申し訳無いと思っている。だがあと5日も待てとはどういことだ?1日もあれば準備は可能だろう?」


俺は従者に思いっきり殺気を放ちながら話す。ところがこの金髪碧眼の使者は

笑みをたやすことなく、慇懃無礼な態度でこちらの話をのらりくらりかわすばかりだ。


夏陽国かようこくの国王様をお迎えするのです。それ相応の準備が必要です。

そもそも最初に訪問されるのは2週間後だったのでは?我々もそのタイミングに合わせてスケジュールを調整しておりました」


「そんな形式ばった準備は不要だ。なんなら非公式の訪問ということで簡素にしてもらって構わない」


「申し訳ございませんが、我が主は完璧な状態でお迎えしたい所存です。どうかあと5日お待ちくださいませ。雷覇らいは様」


相手が頭を下げる。これだけ俺が殺気をとばし、圧力をかけても嫌味を言う余裕があるのか。

大したものだ。面白い。奇襲をかけたつもりで訪問を早めたが逆手に取られたか。

戦場のようには上手くは行かないものだな。


「わかった。こちらも無理を通している…。5日待とう。だがそれ以上は待てない」


一刻も早く怜琳れいりんに会いたい。やっと会えると思っていたのに

あと5日間はきつい…。はぁ。


「お心遣い感謝いたします」


満面の笑顔で金髪碧眼の使者は答える。


はぁ…。怜琳れいりんに会いたい。


「あと今回の訪問で迷惑をかけた。お詫びの品を明日送る。それを怜琳れいりん殿に渡してほしい」


「心得ました」


そう言うと金髪碧眼の使者は部屋から出ていった。


「うは~やるね!!秋唐国しゅうとうこくの使者は!!」


嬉しそうにサイガが話しかけてくる。こっちは、怜琳れいりんに会えないとわかり

落ち込んでいるというのに。この男は本当に俺の従者か?

まぁサイガは小さい頃から兄弟のように育ったから、俺をあまり王として接することはない。


「俺の殺気にもびくともしなかったしな。大したものだ」


「ほんとそれな!!いや~。久しぶりにお前の殺気を味わったよ」


「はぁ。あと5日も長い。やっと今日会えると思っていたのに…」


「いや。それはお前が明らかに悪いから。それより詫びの品を考えなくていいのか?」


「ああ。そうだ。怜琳れいりんに相応しい最高の品を送らないとな!」


何を贈ろう。どれを送っても彼女に似合うだろう。彼女はそれだけ魅力的だ。


「まぁ。無難に装飾品とか着物とかいいじゃないの?」


「…」


「どうしたんだよ?」


「彼女は俺の贈り物を気に入ってくれるだろうか…」


「なんで急にネガティブなんだよ!!!」


どんな装飾品も着物も彼女の美しさには敵わない。きっと霞んでしまうだろう。

それに宝石の国の王女だ。装飾品なんて山程持っているだろう。

もしかしたら…。あいつから貰った簪もまだ持っているかもしれない…。


「仕方ないだろ!手紙でしかやり取りしてないんだ」


「いや。お前さぁ。それでよく結婚しようって言えたよな」


「それは別だ。彼女が他の男と一緒になるなんて想像しただけで、国ひとつ滅ぼしそうだ」


「まじでやめろ!お前ならやりかねん!」


慌てるサイガをよそに、俺は彼女の顔を思い浮かべる。

アメジスト色のきれいな瞳。絹のようになめらかで艷やかな髪。雪のようにきめ細かい白い肌。

どれを見ても愛おしさしかない。記憶の中の彼女はいつも笑っていた。

あの笑顔を自分だけのものにできるなら何を犠牲にしてもいいと思う。国王をやめろと言うならやめてもいい。


「まぁ。他の男に取られる前に俺の花嫁として迎え入れる。そうなることはない」


「そこはポジティブなのかよ!!ほんとお前ってキモいな」


彼女は草や花がとても好きだった。自分の庭園を持つほどに。花を送るのはどうだろうか?

赤や黄色といったはっきりとした色合いの花を好んでよく育てていた。

よし!!そうしよう。沢山の花を彼女に贈ろう。

俺は怜琳れいりんが花を愛でている姿を想像しながら、花を買い集めるように支持をだした。


*-------------------------------------*


「そうか。雷覇らいは殿は納得したか」


「少々ごねておりましたが、納得されました。明日に怜琳れいりん様へのお詫びの品を送られるそうです」


「わかった。受け取りだけの準備をしてくれ」


僕はラカンからの報告をきいて、次どうするか考えを巡らせていた。向こうは奇襲をかけてたつもりだがそれに付き合ってやる必要はない。

そもそも姉さんを雷覇あいつに嫁として出す気なんてさらさらないけどね!!!


「姉さんの様子はどうなの?」


「城下街でつつがなく過ごしておられるようです。新しい商売を思いついたから今度相談したいとまで仰っておりました」


「ははっ。さすがは姉さんだね。こんな時でもそんな事を考えれるなんて」


姉は一度決めたら、どんな事があっても曲げない。強い人だ・・。父と兄が亡くなって俺が王になってからは

覚悟を決めたと言って俺のサポートを徹底的にしてくれた。もともとは頭もよく行動力もある。男にうまれたならきっと王にだってなれたはずだ。

まぁ。姉で良かったと思うけどね。可愛いし。

さっさとこの件を終わらせて、姉さんとゆっくり過ごしたい。はぁ…いつもの日常に戻りたい。


「よし!次の手を打とう!ラカン筆と紙を用意してくれる?」


「かしこまりました」


僕はこの騒ぎを収める切り札を手に入れるべく文章をしたためだした。


*-------------------------------------*

~2日前~


5日経過しようやく王宮へ入ることができた。

俺は胸を高鳴らせながら、今か今かと怜琳れいりんが来るのを待っていた。

すると、怜琳れいりんによく似た少年が部屋に入ってきた。


「はじめまして。雷覇らいは殿。僕は秋唐国しゅうとうこくの国王。怜秋れいしゅうです」


「お初にお目にかかる。夏陽国かようこく国王、雷覇らいはだ。突然の訪問にも関わらず対応いただき感謝する」


俺はお礼を述べながら、握手した。まだ幼い。確か怜琳れいりんとは10歳としが離れている言っていたな。だが幼い印象はあるものの、式典で着るような豪華な刺繍が入った着物を堂々と着こなしている。

12歳という若さを感じさせない、王ならではのオーラを彼はまとっていた。さすが怜琳れいりんの弟だ。

さらにラピスラズリ色の切れ長の瞳に黒髪の少年は、怜琳れいりんを少し幼くしたような顔立ちだった。

きっと彼女が幼い頃は、彼のような愛らしい顔立ちだったのだろう。


「先日は沢山の贈り物を贈っていただきありがとうございます。」


「いや。突然訪ねてきてこちらが迷惑をかけたのだ。気にしないでいただきたい」


「さっそくで申し訳ないのですが、本日、我が姉怜琳れいりんは体調不良で来れません。せっかく来ていただいたのに」


「はっ?」


思わずふざけんな!!言い出しそうなった。とっさにこらえたが、怜琳れいりんが体調不良?どういうことだ?

5日前に使者が来たときは何も言ってなかったぞ!!

いや。待てよ…。本当に怜琳れいりんの体調が悪いかもしれん。下手に出て謁見を断られてはたまらない。


「それはまことか?大丈夫なのか?怜琳れいりん殿は」


「はい。この時期特有の風邪でして…。あと2.3日安静にしていれば問題ないそうです」


「そうか…。それならば仕方あるまい。ぜひ直接彼女に会って見舞いを述べたいのだが」


「とんでもない!!国王様に感染っては大変なことになります。どうか姉の体調が戻るまでこの王宮でゆるりと過ごしてください」


眩しいくらいの笑顔で返されてしまった。また…。会えないのか…。

もうかれこれ8日だぞ…。はぁ。流石に避けられているとしか思えない。

何かこちらが不手際をしてしまったのか?いや最初からそうか…。

2週間後に来ると言って突然手紙を送り、3日に変更になったと伝えたのだから。


「ではこれで失礼します」


そう言って少年王は部屋を出ていってしまった。

俺はがっくりとうなだれるように椅子に腰掛けた。まさか本当に彼女を会えないなんて…。

だが、彼女の居所さへ掴めれば道に迷ったと言って会うことも可能だろう。

本当に病気なら見舞いに行きたい。


「サイガ、彼女の部屋がどこなのか探ってくれないか?」


「ヘイヘイ。断っても無駄何でしょう~。やりますよ国王様」


「助かる。頼んだ」




この後俺は、サイガから最悪な報告を受ける。

怜琳れいりんの部屋はあり女性が寝室にいたがどう見ても怜琳れいりんではないとのことだ。

彼女はこの王宮のどこにもいないのだ。なんてことだ!!最初から会わせる気がなかったのか?

それとも本当にどこか体が悪くて別の場所へ?

はぁ…。たった一人の女性に会うのがこれほど難しいとは…。

一体どんな方法を使えば彼女に会うことができるんだ?げんなりする状況だが、俺は絶対に狙った獲物は逃さない。必ず彼女を手に入れてみせる。


…。後はあんな嘘をさらっと顔に出さずに言える怜秋れいしゅう殿がいい性格をしていると感じたのは言うまでもない。

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