第20話 いびつなオニギシと、マルグリーデの革命

大テーブルの上に、ところ狭しと並べられた朝ごはん。

いつもと変わらぬ光景ではありますが、みたらしと雪之丞にしてみたら、月と鼈で御座います。

なにせ、昨日までとは目線の高さが違うのですから・・・。

下から見上げていた思い出にバイバイ。

上から見下ろす、これからの自分にグッドモーニング。

合計6枚の花柄模様のランチョンマットには、銀鮭の切り身とアサリのお味噌汁、柴漬けに目玉焼きが載せられております。

そしてテーブル中央の大皿には、ででん!と、山積みのおにぎり。

その隣の、これまた巨大なバスケットには、どどん!と、てんこ盛りのミニクレープ。

なんでも、ブルヌイというそば粉で作った生地だそうで、サワークリームやサーモンや、ツナやキャビアが入っているという、ロシアの大衆食なんだとか。

こちらも、綾乃姫実篤家の定番メニューで御座います。

みたらしと雪之丞は、隣同士にちょこんと座って伏し目がち。

真正面では翔也とりりが、いきなり現れた若者2人を眺めながら、照れくさそうにモジモジしております。


ーまるで合コンー


全ての食事を運び終えたマルグリーデが席に座ると、庄五郎の掛け声で朝ごはんが始まります。

外では、蝉たちが賑やかに鳴いています。

夏休みの朝の陽差しと、風に揺れる新緑。

テレビ代わりに置いてあるジュークボックス。

流れる音楽は、ジュディー・ガーランドのベストアルバムで、レコード独特のひび割れた音が心地よい。


「さて、それではいただこうか」


庄五郎が箸を付けた後で、他のみんなの食事も始まります。

作法は関係ありません。

だから、三角食べも問題御座いません。

出来るだけ会話を楽しむこと。

それだけであります。

ジュディー・ガーランドの声は、レコードでなければ味が出ないとか、ジャニス・ジョプリンは、何気にCD向きの声だとか。

庄五郎は、仕事の話を家庭には持ち込まない代わりに、大昔のシンガーの話を饒舌に語っておりました。

マルグリーデは、にこにこしているだけでしたが、子供達にはご飯をもりもりと勧めます。


「オニギシはいいの?まだあるのよ」


とか。


「チキンとキムチのブルヌイもおいしいわよ」


とか。

そんなやり取りを聞きながら、人間の言葉を理解出来るようになったみたらしと雪之丞は、ほんわか温かい気持ちになりました。

そうして手に取ったサーモンのブルヌイを頬張ると、あまりの美味しさにびっくり仰天有頂天。

猫時代とは全く異なる味覚に、食欲だけが大暴走。

2人の野性的な食べっぷりに、翔也とりりもこれまた笑顔で言いました。


「朝ごはんは逃げないから、慌てなくても大丈夫だよ。みたらし!」


「そうよ、ちゃんと噛まなきゃだめよ、丸呑みは身体に悪いんだからね。雪之丞!」


それでもふたりの喰いっぷりは豪快で、そんな光景を眺めながら、庄五郎とマルグリーデは顔を見合わせて微笑みました。

きっと、もっと、うまくいく。

夫婦の正直な気持ちで御座います。





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