3.こくはく


俺は多分、人を恋愛的な意味で好きになったのは初めてだ。

正直どうすればいいのか分からない。

と、言うわけで翌日の昼休みの屋上で浩二に好きな子が出来たのだがどうすればいいか相談してみたところ



「え?普通に告ればいいじゃん」



という、ありがたいお言葉を頂いた。



風が通り過ぎた。


五月も中旬に入り、梅雨入り前の春の暖かさを残す風は心地良く、他にも屋上で昼食を取っている名前も知らない女子が風で靡く長い髪を押さえながら目を細めて空を見上げているのが何とも風情を感じさせる。


さて、思考を戻そう。



「いや、いきなりか?」



俺のこの疑問は最もだと思う。



「白百合ちゃんだったら間違いなく成功すると思うにゃー」


「いや、違う。白百合じゃない」


「んむ?違うの?」


「相沢なんだよ」


「えっ!?相沢!?ホントに!?」


「マジだよ、あと声でけーよ」


「だって相沢と言えば‥」


「その続き言ったら殴るからな?」


「いやー、意外だわー。でもでも、彼氏でもいなきゃ響を振るやつなんていないさー、頑張って!」


「相沢‥彼氏いないのか?」


「え?いないっしょ?」


「あんなに可愛いのに‥」


「え?」


「え?」


「いや、まあ、うん。とりあえず告白してきんさいな。きっと大丈夫だから」


「そもそも俺を振るやつなんていないって意味分からん」


「これだから響は」



はぁ‥と浩二が溜め息を吐き出す。



「何だよ?」


「普段無気力で無愛想なのに、嫌われてる子だろうが関係なく困っていたらそっと手を差し伸べる。そのギャップに何人落ちた事か」


「いや、誰が嫌われてるとか知らんし。俺のクラスメイトの知識ですら9割は浩二の情報だしな」


「響さ‥‥ちょっと変わったよね」


「良い方に?悪い方に?」


「個人的には良い方だと思うよ。好きな人ができた何て言った時の照れ顔とか、初めて見たけどキュンときた」


「おぇ」


「ひどっ!?とにかく、さっさと告って付き合って、俺に新しい響をもっと見せてくれ」


そう言って、浩二はいい笑顔で握った拳の親指を立てた。


こういうのは段々と距離を詰めていくものなのでは?と素人考えをしていたが、やっぱり告白なのか‥


「‥分かった、告白するわ」





昼飯から戻ると相沢は席に着いて本を読んでいた。

そういえば相沢はいつも昼になるとすぐに席を外していた気がする。

どこで食べてるのだろうか?

なんてことを考えて気を紛らわせつつ、


『話があります。放課後にこの間掃除していた校舎裏に来てください』


と書いたメモを席を通り過ぎるフリをしながら相沢に渡した。


今からすでにドキドキする‥

鎮まれ!俺の心臓!勝負の前に止まったらどうする!




結局俺の心臓の動悸は放課後まで続いた。

一足先に教室を出て校舎裏に向かう。

ちなみに校舎裏の掃除は2日に1回なので今日は誰もいない。やばい、緊張で倒れそう。


今まで告白された事はあったが


『ごめん、気持ちは嬉しいけど好きじゃないと付き合おうと思えない』


という定型句を返すだけだった。

申し訳ない事をしていたのかもしれない‥‥こんなにも緊張しながら、想いを伝えていてくれてたんだな‥‥



そうドギマギしていると足音が聞こえた。そっちに目を向けると

ッ!来た!



「‥話とは何でしょうか?」



相沢の姿を正面から見て、‥‥あぁ、やっぱり俺は相沢が好きだと再認識する。


ぐっ、心臓吐きそう

頑張れ俺!

負けるな俺!

深呼吸を2回挟んで俺は口を開いた。




「相沢の事が好きです!俺と恋人になってください!」




思わず目を瞑ってしまった俺の耳に届いたのは




「‥何の罰ゲームですか?からかうのはやめて下さい」




と言う冷めた声だった。


目を開いたのに、目の前が真っ暗に見えて声が出ない。



ようやく絞り出した違うという言葉は去っていく相沢の背中には届かなかった。



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