第6話 元カノ(彼女)

ある日の事。



カチャ

隣人を繋ぐ部屋のドアが開く。



「今晩は! 紫原さんいる?」

「いる…? って、また、どうしてそこから出入りするかな? そこ玄関じゃないから!」

「俺と紫原さんの部屋が繋がっている特別な玄関だよ♪」

「いやいや、玄関は向こうだから」

「顔馴染みだから許して♪」

「だーめー」




気付けば学校では全くと言って良い程話さない私達は、隣人だと知ってからプライベートでは、仲良くなっている。


特に優崎君からの出入りが頻繁で当たり前になってきている。


彼はモテ男で、美人しか興味なくて、私には一切興味ないはずなのに


どうしていつも変わらない笑顔で優しさで接してくれるんだろう?





「明日の予習?」


「違います! 明日の授業中迄に仕上げないといけない宿題です! バイトしてるから時間なくて…徹夜してしなきゃ。優崎君は、終わった?」


「終わったよー」


「そうだろうね。宿題はしていかない感じじゃないし真面目そうだし。とにかく邪魔だから部屋に…」


「これ違うよ」

「えっ!?」

「これも! これも!」

「嘘だっ!」

「嘘じゃないって! どうしたらこういう答えになるの?」


「だって…」

「紫原さんって何でも出来そうで真面目そうで頭良さそうな雰囲気なのに、数学苦手だったんだね」


「人間だから苦手なものだってあります! 私は完璧な人間なんかじゃないから! とにかく意地でも終わらせなきゃ。はい、出て行って!」




私は部屋から追い出した。






次の日 ―――――




バッ

私は目を覚ます。



「ヤバッ! 遅刻っ! しかも宿題も終わってないっ!」



私は慌てて準備をし学校へ行くのだった。




「紫原、お前は、また遅刻か?」

「すみません……」



そして、H.R.が終わる!


「麻巳、バイト頑張り過ぎな感じ?」

「ううん…宿題。あっ! 祐美数学の宿題やって来た?」

「うん、だってあの先生厳しいじゃん」

「そうだよね。私も徹夜でしようと頑張ってみたものの、いつの間にか寝てて宿題終わらないまま遅刻した…」


「えっ?」

「ノート写すから貸して!」

「それは良いけど、結構時間は厳しいよ」

「あっ! 本当だ!」



時計を見ると、時間は 5分をー切っていた。

正直、厳しすぎる。



「量、半端なかったよ」

「だよね…私も…写すのに無理そう……写し終える自信ないかも……」



授業は、一時間目。

しかも、チャイムの鳴り始めの “キーン” と同時に来る時間厳守の先生。

正直、難しいと思い、今回は怒られる覚悟した。



そして、一時間目。



キーン……



ガラッ

前方の戸が開く。



コーン…カーン…コーン…



今日も一秒の狂いもない。


始まりの挨拶をし、先生はノートを机に出すように促す。

一人一人の席を回っていき、先生のチェックが始まる。

私も終わっていないノートを机に出した。




≪何処までしてたっけ?≫

≪全然覚えてない≫



そして、私の番が来て、先生のノートチェックが始まり。



「先生、宿題終わっていません!」


と、言う中、先生はチェックしていく。


「勘違いじゃないか? 全部やっているようだが?」


「えっ!?」


そして、私の席を去った。


私は見返した。



≪あれ? 嘘!? だって…≫



確かに全て終わっていた。



「………………」



そして、今日の日にちの出席番号の人は前で、問題を解くように言われ、私は運悪く当たる。


しかも、解答が違う問題だった。


優崎君に間違いを指摘された所だ。

書き直ししていない。


しかし、何の問題もなく答が合っていた。


しかも驚く事に他の問題も間違いなく答えは全問正解していたのだ。



「………………」



≪何で?≫



私は昨夜の、優崎君の事が脳裏に過る。



≪まさか……優崎君?≫






その日の夜、隣人と繋がるドアを開けようと手を掛けた瞬間、ドアが開いた。




ビクッ

驚く私。



「おかえり~♪ 紫原さん」



いつもと変わらない笑顔で言い迎える優崎君。




ドキン

胸が高鳴る私。



「あっ、あの……」

「ん? 何?」




その時。



「玲二ーー、いるーー?」



優崎君の部屋の玄関が開く。



「ごめん……ちょっと」

「えっ?」



私の部屋に押し入れるとドアを閉める優崎君。




「玲二ーー、いるんでしょう? 電気つけたまま出掛けたりしないから、シャワーかな?」




隣の部屋のドアを開閉されていく音が聞こえる。



「もうっ! 居留守使わないで話あおうよ」



―・―・―・―・



「優崎君、良いの?」

「俺の元カノ」




ズキンと小さく私の胸がノックした。



「えっ!?」




そうなった自分の胸に戸惑いを隠せなかった。

だけど、何と平然ぶりを装う。




「より戻そうととか、そんな所でしょう?」

「だ、だったらきちんと……」




すると ―――



「あれ? こんな所にドアあったっけ?」



ギクッ


ドアを押さえる優崎君。



「あれ? 開かない……」




ドンドンドン……


ドアが叩かれる。


ビクッ




「ちょっと!! 誰かいるの? 電気ついつるし! ねえっ! ちょっと! ここ開けなさいよっ! もしかして、そっちに玲二いるんじゃ? 玲二っ! いるんでしょ!? 玲二っ!」



ドアを叩きながら言う女の人。



「口説い女……」



優崎君もイライラしはじめていたのか低い声でポツリと私に聞こえる位の声で言った。




「ごめん……紫原さん協力してね~♪」



いつもと変わらない笑顔で言われた。

そんな顔で頼まれたら引き受けざるを得ない。



「えっ? あっ……」



ドアから手を離すと姿を消しドアが開く。




「きゃあっ!」



女の人がバランスを崩し、目が合う私達。



≪うわ……美人な人……≫




「誰!? あんた!」

「えっ!? 誰って……隣人ですけど……余りに騒々しくて……あの……何か?」

「ちょっと! 玲二、何処!?」

「玲二? 誰の事ですか? えっ!? もしかして隣の住人さん男の人なんですか? じゃあ、あなたは、彼女さん?」


「あんたには関係ないでしょう!? 第一、どうしてここのドアが開くわけっ!?」

「さあ?」

「あっ! あなた小細工したんじゃ?」


「小細工!? そんな事しませんよ! 私、昨日、引っ越して来たばかりで全然知らなくて、私も、ここのドアが開くなんて今初めて知りました!」


「あんたじゃ話にならないっ! 退いてっ! 玲二出してっ!」


「退きませんよ! 私の部屋ですからっ!それからさっきから玲二、玲二って、その人がどうかしたんですか? そんな人いませんよ! 私、一人暮らしだし、男の人苦手なのに。もし、その玲二って人が来たら私不法侵入って警察呼んでますよ!」



「絶対いるはず!」


「じゃあ、その証拠は? さっきも言ったように、私、昨日引っ越して来たばかりなんですっ! だから隣人の住人なんて知りませんっ! 帰って下さい! さようならっ!」



私は追い出すように押し出した。



パタン

ドアを閉めた。



「あっ! ちょっとっ!ねえっ!頭に来るっ!また絶対来てやるからねっ!」



女の人は諦めて帰って行った様子。




カチャ

確認の為、ドアを開け優崎君の部屋に入る。



「もう来なくていいしっ!」



「紫原さんっ!ありがとうっ!」



私を抱きしめた。



「きゃあっ!」



押し退ける私。

顔が真っ赤になっているのが分かった。



「お顔真っ赤だよ。純なんだねー、紫原さんって」

「そんな事より、きちんと話し合って! また来るとか言ってたし」

「そうする。これ以上、紫原さんに迷惑掛けれないし」


「絶対だからねっ!」

「はーい」

「本当に分かってる?」

「うん」


「………………」


「2回目はないから!」

「えーーっ!」

「えーーっ! じゃないの! 今回は宿題のお礼をしただけだから!」

「宿題の……お礼?」


「私、いつの間にか眠ってたし、気付いたら朝で遅刻したし。間違っているはずの問題は答が正解してたし……とにかく、そういう事だから! 宿題……ありがとう……」



私は自分の部屋に戻り始める。



「紫原さん」

「何?」



グイッと抱き寄せたかと思ったらおでこにキスされた。



ドキン


「………………」




私の両頬を両手で優しく包み込むようにすると見つめる。



「ゆ、優崎君…?」


「紫原さんって……変わらないね」

「えっ?」

「はい、部屋に戻って。でないと襲っちゃうよ~」

「だ、駄目! 恋人同士じゃないんだから」



私は顔が真っ赤になりながら言う。


クスクス笑う優崎君。


私は足早に自分の部屋に戻った。



「……本当…変わらない…近いうちに君に真実話してあげるね……その時は……俺の特別な人になってくれるかな? きっと君は覚えていないだろうから……」

















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