メモリアルコネクト

ヒチャリ

第1話 彼女を救え

「ねぇ、お母さんはボクのこと好き?」


 いつの頃だろうか。


 何気なくオレが母に投げかけた質問。


 自我が芽生えるとともにオレは一つの能力を発現させていた。


 それは相手の「嘘を見極める能力」。


 相手が嘘をつくと、衝動的にそれは嘘だと全身に語りがけてくるのである。


 自分にそのような能力があるとも知らず、小さい頃のオレは自分への愛の有無を母に直球で尋ねてしまったのだ。


 そして母からの答えは、


「えぇ、もちろんよ」


 言葉の通りに受け取れば喜ぶべき内容だったのだが、当時のオレになんとも言い表せない違和感が身体中に駆け巡った。


 違和感の正体を突き止めるため、そして確かな答えが知りたいがためにオレは日々母の言動を探るようになる。


 その行動がかえってアダになるとは知らず。


「もうあなたといるのは疲れたわ」


 これが最後に母と交わした言葉。


 そう、彼女はオレのことなど愛していなかった。


---

 曇りけひとつない青空。


 駅のロータリーで石づくりの椅子に持たれながらも空を見上げ、漫然と時を過ごす。 


 気づけばオレも高校生。


 他人とは距離を置き、特に何かを期待することもなく淡々と学校生活を過ごしていた。


 ふと目の前を通りかかる同い年ぐらいの高校生たち。


 遊ぶとこも多いエリアだからか、別の学校の生徒も多い。


 今ぐらいの下校タイミングだと、これから遊びに行く者で賑わっている。


 一方のオレは特に誰かと待ち合わせているわけではなく、ただ休んでいるだけだ。


 手に握る缶ジュースを飲みつつも、自然と周囲の会話が耳に入ってくる。


「ねぇ、カラオケ行かない?」


「ゴメン、風邪気味で」


「じゃあ家で休まなきゃかぁ」


「うん、ゴメンね」


 女子高生同士の会話だろうか。自然と会話の中で織り交ぜられる嘘。


 風邪というのは上手く相手の誘いを断るための決り文句か何かであろう。


 他人同士の話でもオレにはすぐに嘘だと分かってしまう。


 しばらく間があったあとに女子高生の会話の様子に異変が起こる。


「どうしたの?何かあったの??」


「いや、別に」


 いや、何かあったのであろう。


 少し気になり会話する女子高生の方に目を向けると、一人の少女が目を見開きマジマジとオレを見ているではないか。


 その時、頭を思いっきり殴られたかのような衝撃がオレに襲いかかり、痛みで思わず目を閉じてしまう。


 しばらくして目を開けたときにはすでにその場から彼女はいなくなっていた。


「なんだったんだ、今の」


 オレは缶ジュースを再び口にしたが、すでに中身は空っぽであった。


---

 しばらくした後、駅近くのDVDレンタルショップで自宅鑑賞用の作品を借りていた。


 たまにこうして家に帰る前に作品を借りるのが日課である。


 この嘘で塗れた世界でも、フィクション作品に関しては他人との関係性を無視して、気兼ねなく楽しむことができるからだ。


 借りたDVDをカバンにしまい歩いていると、目の前に見覚えのあるロングヘアーの女子が一人。

 駅のロータリーで見かけた彼女だった。


 先ほどと同じ、ニーハイソックスにミニスカート姿の制服で目の前を歩いている。


 やはり風邪というのは嘘で、この辺に用事があってうろついていたのだろう。


 人通りの少ない路地へ入っていく彼女に自然と惹かれ、同じ方向になんとなくだが付いていく。


 路地に近寄ると何やら話し声が聞こえてくる。


「悪いが命令でね」


「ちょっと、はなっ……」


 黒ずくめの大男が一人、彼女の口をハンカチで塞ぎ、路地の奥に連れて行こうとしていた。


 ただ寄らぬ事態を目の当たりにするが、オレが関わってもロクなことにならないであろう。

 あえて無視して通り過ぎようとした。

 

 その瞬間、いたいけな彼女の赤い瞳がこちらを捉える。

 

 そしてオレに先ほどと同様の頭痛が襲いかかる。


「彼女を救え」


 突如、頭に鳴り響く謎の声。

 

 強い想いが込められた叫びが脳内だけでなく全身に駆け回る。


 そして全身が熱くなるとともに、咄嗟に体が動き出す。


 気付けば全力で黒ずくめの大男へ体当たりを仕掛けていた。


 オレの不意打ちの捨身タックルで黒ずくめの大男は近くのゴミ袋の中に吹き飛びうずくまる。


 そして、黒ずくめの男から解き放たれた彼女がオレの方へ振り向き、


「シン!」

 

 まだ一度も出会ったこともない彼女がオレの名前を口にするとともに、待ち望んでいたかのような顔をオレに向ける。


 とっさの判断でオレは彼女の手を取り、そして彼女もオレの手を自然と握り返し、共に駆け出す。


 これが彼女との運命的な出会いとは知らず。

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