第5話「ガラスの靴は呪われている?」


ドS王子に人気のない庭園に連れ込まれたオレは、王子に無理やり犯された。


情事を終えた王子が身なりを整えている。オレをレ○プしたあとだというのに、涼しげな顔をしているのが気に入らない。


「悪くなかった、ボクの正室にしてやろう」


王子が冷笑をうかべる。


偉そうに! 何様のつもりだよ!《王子様だよ》


冗談じゃない! 誰がお前のような残忍な王子と結婚するか!


オレは返事をする変わりに、王子をギロリと睨みつける。


王子の言葉を無視し、ハンカチで精液をふき取り服を整える。


借り物のドレスに、精液をつけてしまった。


魔法使いのおばさん、精液をつけたのは王子です。呪うなら、変態ドS王子を呪ってください。


「そういえばまだ名前を聞いていなかったな、お前の名はなんという?」


誰がお前なんかに名前を教えるか!


王子の問いには答えず、そっぽを向く。


そのときお城の大きな時計が十二時をつげる。


オレはオートで動くドレスに操られ、庭園をあとにし、複雑な作りの城の廊下を抜け、ダンスホールで声をかけてくる貴族の子息を華麗かれいにかわし、馬車に乗せられた。


ドレスがオートで動いてくれて助かったぜ。


入りくんだ作りの城だったから、オレ一人だったら、まだ城の中で迷っていただろう。


オレが馬車に乗ると、カボチャの馬車が全速力で走りだす。


「港に向かってくれ!」


十二時の鐘が鳴り終わるまえに港につけば、ベレスフォード国行きの船に乗れるかもしれない!


ダメもとで御者ぎょしゃに命令する。


「この馬車はオート運転で、家にしか行けません」


行きと同じ答えが帰ってきた。


オレはあきらめて席に座り、馬車の振動に耐えた。


家に着くと、馬車はカボチャに、馬はねずみに、御者はトカゲに、ドレスはボロボロの服に戻っていた。


ガラスの靴を両方置いてきてしまった。


売ればいくらかに……いや魔法使いからの借り物だったのに。


しかしこれでシンデレラのフラグは折れた。


ガラスの靴は片方だけ置いてくることに意味がある。


王子は片方だけ残されたガラスの靴を手にとり、「この靴に足がぴったりあうものと結婚する」と宣言する。


王子の命を受け、ガラスの靴を持った使者が国中をまわる。


国中の女たちが競って、ガラスの靴をこうとするが、ガラスの靴は小さく誰の足も入らない。


シンデレラの足が小さいのは、いじわるな継母に、固い木の靴を履かされていたため、足が成長しなかった。


これについては、シンデレラは上流階級の出身で、働かなくてもいい身分なので、てん幼少期に足に布を巻いて、足が大きくならないようにすることだったとか、諸説しょせつあるが。


使者は国中の家を訪ね歩き、一番最後にシンデレラの家を訪れる。


シンデレラの二人の義理の姉が、ガラスの靴を履こうとするが、義理の姉たちの大きな足は小さなガラスの靴に入らない。


使者に「この家に他に娘はいないのか?」と訪ねられ、継母はシンデレラの存在を隠すが、使者にシンデレラの存在を知られてしまう。


国中の娘に靴を履く資格があるといわれ、継母はしぶしぶシンデレラがガラスの靴を履くことを承諾しょうだくする。


しかしずる賢い継母は、シンデレラがガラスの靴を履く前に、偶然を装いガラスの靴を割ってしまう。


ガラスの靴がなくなり使者が途方にくれていると、シンデレラがポケットからガラスの靴の片方をとりだす。


ガラスの靴はシンデレラの足にぴったりとはまり、昨夜の舞踏会に現れた姫はシンデレラだと認められる。


つまりシンデレラの手もとにガラスの靴がなければ、舞踏会のお姫様=シンデレラとバレることはない。


「よっし! これで完全にフラグが折れた!」


オレはその場でガッツポーズをした。


そのとき後ろから、カツン……カツン……という音がしゆっくりとふり返ると……。


ガラスの靴の半足はんそくが、独りで道を歩いていた。


その光景はちょっと、ホラーだった。


ガラスの靴は、オレの足もとまでくると止まった。


なんだこの靴、独りで歩いて戻ってくるとかマジで怖すぎるだろ!


なんで片方だけ戻ってくるんだよ! どうせなら両方戻ってくればいいのに……!


ガラスの靴がなければ、舞踏会に現れたお姫様さがし自体がなくなるのに!


物語のフラグは、そう簡単には折れないらしい。





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