「チューリップハット、数珠、リッパー」

 チューリップハットの怪人が夜な夜な現れて人を襲う、という噂が流れるようになって数カ月が経つ。ジャック・ザ・リッパーならぬ、ジャック・ザ・チューリッパー。そう呼ばれていた。警察沙汰になったり、マスコミに報道されたりすることはなかったから、噂はあくまで噂に過ぎないのかもしれなかったが、そのようなことは玄野達樹には関係がなかった。達樹は16歳の少年で、高校生だ。好奇心に駆られ、悪友たちとともに怪人チューリッパーを探すパトロールを毎夜行っていた。

 探すこと数カ月、運が良かったのか悪かったのか、彼らは遭遇してしまった。そいつは、明らかに生きた人間ではなかった。頭はチューリップハットなどではない、遠目にはそう見えなくもないというだけで、異形の頭部をした、ロボットなのか異星人なのかも分からない奇怪な存在だった。そして、両手から伸びる幾本もの鋭い刃物。明らかに、人を殺傷する目的で存在している何者か、であることは疑いもなかった。

 達樹は、お守り代わりに持ち歩いていた数珠をそいつに突き付けたが、何の効力もなかった。悪友たちは既に逃げ出していた。チューリッパーの嵐のような暴威が、風のように達樹の前を吹き抜ける。

 達樹に分かったのはそこまでだった。意識が、ぷつんと落ちる。


 そしてまた、達樹という少年がそれ以降ふっつりと消息を絶ったこともまた、何故か警察沙汰になりもしなければマスコミに報じられることもなかったのであった。

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