第18話 コントラクト

キリュウが驚いているのを見て、ブルースはこう言ってきた。


「キリュウ君は驚いているようだが、これは君自身で間違いはない。


もっとヒーローらしく胸を張っても俺は十分いいと思う」


「え、でも...」


新聞の記事を読んでいくと、全く自分自身が本当にこんな賞賛されてヒーローのようになっていることがわかった。


自分でもやったことではあったが、何もできないと思っていた自分がここまで来ていたことに驚きつつも、これは他人がしたことなのではと感じた。


「俺なんかが...ただ必死に目の前のことをしてただけなのに」


キリュウがそう呟くとブルースはこう言った。


「でも、事実だ。キリュウがどんな人生を送ってきたかは知らないが。


きっと、今まで自分は何もできないちっぽけな人だとでも思ってたんじゃないのか?」


そう言われると、

その通りだと思いキリュウは頷いた。


全ての自信を喪失して、何もできないと思ってたけど...

ただ目の前で困ってる人を助けようと行動した事を評価されたことに嬉しさもあったが、どこか戸惑いがあった。


でも、

本当にこれは誇っていいものだろうか?

ダメダメだったし、もっといい方法があったのではと思ってキリュウは言葉が出なかった。


「なぁ、キリュウ。

この勇気は賞賛すべきことだ。もっと喜んでいいと思う....


キリュウ自身は

ならもっとできたかもしれないと完璧を求めてるのかもしれないが。

君は訓練を受けたプロの消防士じゃない、それで十分だと思う。


ストイックなのは結構だが、ネガティブに考えすぎるなよ」


「え、はい...」


キリュウはブルースにそう言われて確かにと思う気はしたが....

こんなことで喜んでいいのかとふと感じた。

きっと怖い思いをさせたのではないか...


ブルースはそんな色々と考えて暗い表情をするキリュウを見てこう言った。


「ま、それはそれで置いておこう。

ビジネスの話をしよう。


ミレーヌから君は車の運転が得意だって聞いた。


そこでだ、俺の専属ドライバー契約を結んでくれないか?」


ブルースはそういうと、一枚の紙をキリュウの前に差し出してきた。

紙には業務委託契約書と書かれており色々と何かが書かれているのが目に入った。


突然のことでキリュウは驚いたが、ブルースはこうも言った。


「キリュウの腕を借りたいだけだ。稼ぎは生活するのに必要だろ。

このマンションの一室を貸す、このマンションには俺のメイドとコックがいるから、家事や食事は全部賄いということになる。どうだろうか?」


「え、たしかに…でも」


「後は....ミレーヌの知り合いだからな」


ブルースはそう言うと、もう一つキリュウの前に差し出してきた。それは一つのファイルで色々な資料が挟まれていた。

キリュウはそれを手にとて中身を見て見ることにした。


そこにはあの怪人バーニンに関する情報やその他にも人相の悪そうな人たちの情報が色々と書かれていた。


「あの……これは?」


ブルースはそれを聞くと、席を立ち上がって書斎の前に立ってこういった。


「今から話すことは、ミレーヌとアン以外には話すなよ。

リュウが能力者だということで頼み事だ。

ドライバーは生きていくための仕事で、この仕事はあくまでお願いだ。強要はしない。


俺の手伝いをして欲しい」


ブルースはそう言うと、ある本を動かしたら本棚が自動に動き始めて秘密の部屋へ続くような暗い廊下が見えた。


「来てくれ。見せたい物がある」


ブルースがそう言ってきたので、キリュウは立ち上がり彼のあとに続いた。

暗い廊下に入るとぱっと明かりがついて、地下に向かうリフトのようなものが見えた。


キリュウは席から立ち、ブルースに導かれてそのリフトの乗った。

ブルースはリフトを操作し始めた。


ガタンと金属の鈍い音が聞こえた後、古いせいなのかリフトはガタガタと言いながら下へと降りていった。


「キリュウの能力がまだ何かはわからない。でもその能力はこの世界にとって有益なことだから、人助けのために使ってほしいと思う。


でも、それは表立っては使えない。

政府や人々はそれを怖がっている面もあるからだ...」


ブルースのその言葉を聞いて、

ふと今まで2回あった世界の音が消えて周りが急にゆっくりになるあれが自分の何かしらの特殊能力であることを自覚することができた。


「でも、どうして。俺にそんな力があるのを?」


「さぁーな、俺はミレーヌから聞いた。

二度使ったらしいな、急に動きが早くなったりパワーが上がったとかって聞いた。


あとは、

あの火事でほぼ無傷だったのも能力なのかもしれないな」


「はぁ...」


キリュウはどこかなんとなくしか理解できずそう相槌を打つとブルースはこう言った。


「怪人バーニンと火の中で戦っただろ。普通ならあの高温の中で戦えるようなものじゃない。


キリュウは常人ではあり得ないことをしてきてるそれは事実だ。

だから、ヒーローになってみないか?この街で」


ブルースはそう言ったのと同時にリフトは止まり、薄暗く広い地下廊下の先に大きな鉄の扉が見えた。


「突然すぎる提案なのかもしれないが、チャンスだと思ってくれたら幸いだ」


ブルースはそういうと扉へと足をすすめていった。

キリュウもそれに続いて歩いて行った。


「俺でいいんですか?ただの落ちぶれた高校生なのに」


ふと、自分自身のことを思い出す。

何もできなくて、塞ぎ込んでいた自分が出てきた。


この世界に来て色々なことがった、

でもそれはどれもたまたまできたからなのかもしれないと思うことがある。


必死になって目の前の人を助けようとしただけだったのに....


それがいま、認められて評価されていることにキリュウ自身は驚いているのと同時にそれを受け止められないでいた。


どうせ、まぐれだ...

俺になんてできるはずない....

俺はダメなんだーーーー


心で大きなため息をつくと、

ブルースがこう言った。


「素直じゃないな。ま、無理もないか。

少しづつでいい、キリュウ自身はできることを解ればいいさ」


するとその時だった、鉄の扉が開いて放送機を通じたような男性に声が聞こえてきた。


「ブルース。シグナルが出たみたいだ。今日も...

あれ、もしかしてキリュウ・タチバナ君起きたんだ。


ドライバーと秘密のコントラクトは済んだんだよね。早速だけど今日ボクは出れないから頼んだよ」


「い、いや。ロビン...まだなんだが...」


ブルースはそうどこか戸惑ったような素振りを見せながらそういうと、また放送機から声が聞こえてきた。


「え、でもキリュウ君のコスチュームもう作ったんだよ!」


鉄の扉が開くとそこには、黒いイカにも改造されてスピードでかつ頑丈そうなセダンタイプの車と壁面には何かたくさんの道具....


そして、見覚えのあるスーパーヒーローのようなスーツが置いてあった。


「ダークナイト...」


そうそのスーツはあの船で見かけたスーツだったのだ、ということは....


「すまない、紹介が遅れた。

みんなはダークナイトって呼んでるのは俺のことだ」


ブルースはそうニコッとはにかんで言った後にスーツを見に纏い始めた。

意外とすぐに身につけたあと彼は壁に掛けてある色々な道具を手に取った。


その中には、あの火事現場でアンから受け取ったあの手榴弾を手に持っていた。


「これは……」


すると放送機を通じてロビンが説明をしてくれた。


「あ、これキリュウくん知ってるんだ。これね、異世界人の魔女と一緒に作ったんだけど…氷結魔法を詰め込んだ


ヒエヒエ氷結グレネードくんって言うんだよ。かわいいだろ?」


そうどこか誇らしげな声を聞いて、

ブルースはため息をしてキリュウしか聞こえないような小さな声でこういった。


「相変わらず、その名前を聞くと相変わらずクールじゃないんだよな……」


それの声すら、拾っていたのだろう、放送機を通じでロビン同じくため息を着いてこう言った。


「う〜ん、と言ってもアデルがこの名前じゃないと……威力が発揮しないって言ってたんだよ。勘弁してよ、ブルース……


とにかく、市長からのメッセージもうけとったよ。

相手はシュナイダー博士のサイボーグみたいだよ。気をつけてね」


「ああ、わかった。

キリュウ。服はこれでだ、マスクを付けておけよ」


ブルースはそう言うと、どこからから持ってきのか服を渡してきた。

その服は詰め襟の学生服のような臙脂色の服と同じ臙脂色の目元を隠すマスクだった。


「とりあえず、試行錯誤は必要だろが、まずは試用期間と言うことでよろしく頼む……あのキリュウが探している彼女が危ない。来てくれ」


キリュウはそれを聞いて、ふと頭の中にあの青髪の少女の顔が浮かんだ。

そうだ、ダークナイトが彼女を守っているという話だった。

彼がそういうということは、あの彼女の身に何かが起ころうとしているのだろうとふと感じた。


そして、シュナイダー博士という言葉と、サイボーグという言葉からあの研究所で出会った襲いかかってきたゴツいサイボーグを思い出した。


「行きます」


キリュウはそう答えてコスチュームを身に纏ったーーー







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