第32話ぼーっとしている男

 あるところに、いつもぼーっとしている男がいた

この男、歩いている時もぼーっと

食べている時も、ぼーっと

仕事をしている時もぼーっとしていた

そんな取り柄のなさそうな男であったが、

職場の隣の席の娘にいたく気に入られていた

その娘、男がいつもぼーっとしているのは、

なにか深いことを考えているからだと勘違いしている

「ねえ、あなたって夢見る人よね。私憧れるわ」

娘はそう言うと、男にウインクして見せた

男はそのウインクの意味が分からず、ぼーっとしている

「えっ、なに?」

男はまるで娘の好意に気づいていない

娘はというと、男が気づいていないフリをしていると勘違いし、

独りでテンションが上がっている

「あなたのその謎めいた瞳がまたいいのよ」

娘はどんどん勘違いしていく

男はというと、早く勤務時間が終わらないかなぁという感じで時計を見た

「あら、時計なんか見て、仕事終わりに私を誘おうっていうの?」

娘はますます勘違い

娘、想像だけがどんどん膨らんでいき、怖いくらいだ

男はそんな娘の気持ちなど分からずに、

今日もぼーっとなーんも考えていないのだった

こうして、二人の関係は平行線のまま、時は流れていく

果たして、二人が結ばれることはあるのか?

我々も、ぼーっと見守っていこう

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