Dear K ~covered binding~

 色々あったあの日から数週間後。

 コスタス達三人は、再び一緒にセンサー退治に挑んでいました。


 今回は前回のように物語の中の登場人物に誤解されて襲われるなんてこともなく、比較的早く、スムーズに退治が終わりました。

 無事に済んだことを喜びつつ、自分の物語に帰っていったコスタス。その様子を見送り、さあ自分も帰ろう…… としていたところで、カンダタはエレーニに呼び止められました。


「さて、それじゃあ左袖に隠してるものを出してもらおうか」

「は?」

 どきっとしました。自分の顔のすぐ真横から睨みつけてくる小さな二つの目に怪しまれないようにしなければと思いましたが、自然に話題をそらす方法を考える間も与えられず、次の言葉を投げつけられました。

「また盗んだんだな?」

「! 違う! それは違う! 二度とそんなことはしない、それだけは信じてくれ!」

「じゃあなんで見せられねえんだよ!?」

 カンダタの顔の正面に回り、怒鳴りつけるエレーニ。

「お前、途中でセンサーに左腕噛まれそうになった時、大げさなぐらい飛び退いてたじゃねえか! その後もことあるごとに左腕ばっかチラチラ気にしやがってさ! またこの前みたく、盗んだもんがあるんだろ!? あれだけコスタスに言われたのに!

 お前がどこの誰を裏切ろうと勝手だ、だがコスタスを裏切るのだけは許さねえ! ほら、よこせ!」

「い、嫌だ!」

 右手で左腕を押さえるカンダタ。けれどカンダタの意識に反して、右手は勝手に左袖に入り込み、中にあったものを掴んで出てきました。

「や、やめろ…… 見るなっ…… おれのものだっ……!」

「さーて、時間が戻ってなかったことになる前に見せてもらうぞー…… 何だこれ? 紙か? 紙幣…… じゃねーな、宝の地図か何かか…… あ?」

 てっきり宝石か何かが出てくると思っていたエレーニは、予想が外れたことに首を傾げました。

 けれどやがて、二つに折りたたまれたその羊皮紙に見覚えがあることに気が付きました。


「……」

 取り上げて開いてみました。

 見覚えのある筆跡で、何やら文章が書かれています。一行目はこう始まっていました。

『Dear K』

(……ウチ宛のは『Dear E』って始まってたな。当たり前だけど)

 もう確信していましたが、読み進めます。

『「蜘蛛の糸」のカンダタさんへ

 初めまして、ぼくは「オオカミ少年」のコスタスといいます……』

 続く文章はやはり、一緒にセンサーと戦ってほしいという内容でした。以前エレーニがもらった手紙と同じ、あのとても嬉しい内容でした。


 最後まで目を通してから、カンダタを見やりました。顔を両手で覆って、その場にうずくまっていました。

「あー…… なんか、悪かったな、疑って」

「……」

「持ってきてたのか、この手紙」

「……持ってきてたどころか…… 実はもらった日からずっと袖のところに入れてたんだ……」

「お前な、気持ちは分かるけど、こういう大事なもんは持ち歩いてると傷付けちまうぞ? ウチも洞窟の安全なところに保管してある」

「……そうだな。ちょっと置き場所考えてみる。地獄じゃ難しいかもしれんが……」

「つーか、恥ずかしがることじゃねーと思うぜ? むしろあいつなら喜んでくれるかもよ?」

「……だが…… その…… 何というか…… うー……」

「……しゃあねえ。黙っといてやる」

「……恩に着る」

 カンダタはやっと指の隙間から片目を覗かせました。血を捧げて少し青くなっていた顔色が、普段通りに戻っているように見えました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る