第14話 美少女と密室空間
塩素特有の香りが充満し、鼻に変な香りを残す密室で俺は美少女と二人きり。
一体何故このような状況になった?
そうだ。俺はトイレから出た後、矢吹と鉢合わせて色々話し合った結果、一緒にこのプールの時間をさぼろうという結論に至ったのだ。そしてプール用具等をしまう倉庫にとりあえず身を隠そうとなって今の状況に至る。
「お、おい。もう少しそっち行けないのか。狭い。それに……」
「仕方ないじゃないですか。下に座ると砂で汚れてしまいます」
俺たちは、たまたま倉庫内に置いてあったベンチに腰を掛けている。
ベンチはあまり大きくないため、矢吹との距離はかなり近い。それに、お互い水着姿だ。俺の左腕には柔らかいなにかがむにゅっと押し付けられている。当然、男であるため、顔は自分でもすぐに気づくくらい赤くなっている。この胸の鼓動も聞こえていないか心配だ。
ふと矢吹に目を向けると、矢吹も同様顔を真っ赤に染めて、足元の方を若干涙目で見つめている。
そんなに恥ずかしいなら離れてくれ。こっちも色々とやばいんだ!
「……んじゃ、俺が下に座るから矢吹はそのベンチを有意義に使ってくれ」
流石に距離が近く、心拍数が爆上がりした俺はそう言って地面に座ろうとする。
「……よいしょ」
「や、矢吹?」
何故だ。何故か矢吹も俺の横に腰を下ろした。折角スペースを広げてあげたというのに、どうしてだ。
「やっぱり阿良田さんにだけ下に座らせるのは良くないなと思ったので……」
矢吹は小さく呟くように口をもごもごさせながら言う。
これも彼女なりの優しさか?
特にこれといった話題もなく、無言の時間が少し続くと矢吹が口を開く。
「私、嫌なんです」
「どうしたんだ、いきなり」
いきなりの宣言に俺は首を傾げることしか出来ない。
だが、その時の矢吹の表情はなにかハッとするようなものではなかった。
「毎年この時期になると男子たちが私の水着姿を見れるって騒いで、変な目で見られるんです」
まさかの告白に俺は目を丸くするしかなかった。
というか気づいていたのか。まぁ、あれだけ分かりやすく興奮しているんだ。本人が気付いていてもおかしくはないだろう。
「あ、あぁ……そうか。確かに毎年言われてるな。俺もそれは聞いている」
俺はどう返答するか困り、言葉を絞り出して言う。
「私、多分成長が早い方なんですよね。だから、その……胸も……。胸も少し大きい方だと思うんですよ」
矢吹は顔を赤めながら言う。おそらく男である俺に話しているため、羞恥心を感じているのだろう。
俺自身も、胸が大きいということを聞いて顔がポッと赤くなる。
「矢吹は、その……スタイルが良いからな」
そう返すことしか出来ない。下手に言ったら地雷を踏みかねないぞこれは。
「あ、ありがとうございます。だから、自分の体を変な目で見られるのが……嫌なんです。なのでプールの時間は毎回何度かサボりがちなんです」
確かに、自分の体を異性にジロジロ見られるのは居心地が悪くなるし、不快な気分にもなるだろうな。
「阿良田さん。……阿良田さんは、その……私の体、どう思いますか?」
まさかの質問!?それに「私の体どう思いますか?」って。俺はまた顔を赤くするしかなかった。
「ど、どどど、どうって……。ま、まぁ、俺はいつも女子の水着姿が見たいだとかは全然思ってなかった。興味もなかったよ。流石に裸を見たら俺も男だから興奮はするだろう……。でも、水着は見られて嫌なところは隠れてるだろ?それに、プールや海に入る時に水着を着ることは常識だろ?」
矢吹はポカンとした様子で俺の話を聞いている。
「それに、俺の性格知ってるだろ?俺はぼっちを好む根暗少年だ。そんなぼっちを好む程の根暗少年が水着なんかに興奮すると思うか?そこまでちょろくない。少なくとも俺はしない。水着は水の中で着る洋服なものだ」
そう、俺は毎回女子の水着に興奮しなかった。
何故って?当然だろ。別に裸じゃないんだぞ?水着は水に入る時には必要不可欠の道具だぞ?水の中で着る洋服だぞ?そんな当たり前の光景のどこに興奮する要素があるというのだ。
待てよ……。もしかして、俺のその考えがおかしいのか?少しも興奮しない俺がおかしいのか?
「そ、そうなんですか。ふぅーん」
……ん?なんで少し不機嫌そうなんだ?俺なにか変なこと言ったか?
「阿良田さんは女の子の
矢吹は口を尖らせながら呟くが、俺には何故そのような態度をとっているのか理解できなかった。
「な、なぁ矢吹?俺、なにか変なこと言ったか?」
すると矢吹はこっちを振り向き問い掛ける。
「……阿良田さんは、その……。今こうして私と密室で二人きり、しかも水着で……。それでも、その、何とも思わないんですか?」
しない。と言ったらこれは嘘になる。
そう、今までは全く気にしていなかったが、今回は矢吹の水着姿に何かが高まる俺がいたのだ。
一体何故?どうして今回ばかりに胸が高まっているんだ?
「い、いや……それは、その。さ、流石にこの密室で二人きりってシチュエーションはな、流石に、その……。うん、結構緊張してる」
正真正銘の言葉だ。めちゃめちゃ緊張してる。
二人きりの空間に妙な静けさが漂う。微かに聞こえてくる生徒たちのはしゃぐ声。
すると突然、矢吹が肩と肩が触れる距離まで縮めてくる。
「……緊張、してくれてるんですね」
耳元で囁かれた俺は全身で鳥肌が立つのを感じた。
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