第7話 美少女と雨宿り
日曜日――俺はこの日が一週間の一番の楽しみだ。何故なら、全力で一人の時間を思う存分に満喫することが出来るからだ。
普段は学校に行って伊織に絡まれるや田代に何故か罵声を浴びさせられる。最近はあの矢吹琴葉も毎日の様に絡んでくる。おかげで俺のぼっちライフはまともに送ることが出来ていない。土曜日は毎回丸一日本屋でバイトだ。
そして日曜日にようやく一人の時間を有意義に過ごせるわけだ。
「よし、今日は思う存分一人の時間を満喫するか」
日曜日の俺の一日は昼頃に起きてから始まる。土曜日は毎回夜更かしをするため日曜日は午前中寝たきりだ。そして午後から活動する。一人暮らしは自由だから良い。最高だ。
「いつものカフェでまだ未読のライトノベルでも読むか」
俺はまず行きつけのカフェ『四つ葉の子ローバー』に行った。最初はそこで昼飯を済ませて、その後はゆっくりとライトノベルを読む予定だ。
俺は予定通りここのハンバーガーを食べた後、ホットミルクコーヒーをとティラミスを頼んでライトノベルを読み始めた。評判を見る限り皆面白いと言っていただけあって内容は面白い。まだ読んでいる途中だが、あっという間にこの世界観の虜になっているのが分かった。
一時間半程度かけて読み終えた後、俺は映画館に向かった。これもまた評判が良かった作品だ。
約二時間の映画が終わると、俺は余韻に浸っていた。かなり好みだった。未だにヒロインが死んでしまったシーンが頭から離れず思い出しただけで目に涙が溜まってしまいそうだ。
ライトノベルを読んで映画を見ていたら時刻は夕方五時を回っていた。
「天気も曇って来たな……そろそろ帰るか」
コンビニで飲み物を購入して足早で家に向かった。この日は快晴だったため歩いて街の中心の方まで歩いて行った。しかし、五時を回った後天気が一変し雲行きが怪しくなってきている。
「雨なんか降ってきたら最悪だ」
フラグかよ。
――ザー。
最悪なことが起きてしまった。これが俗にいう『フラグ回収』というやつだ。ここまで完璧なフラグ回収はあまり見ないぞ。運がいいのか悪いのか分からなくなる。
「まじか。どんどん強くなってるな。天気予報当てにできないぞこ」
雨の威力は次第に増していき傘を持っていない俺はどこかで雨宿りせざるを得なかいな。
何とかダッシュで近くの空き家に駆け込んだが最悪だ。服も靴も髪も全部がびしょ濡れだ。特に靴の中が濡れるのは一番嫌いだ。あの靴の中で感じる変な感触、たまったもんじゃない。
「一体いつになったら止むんだろうな」
「そうですね」
「ですよね……って、え!?」
「……あら」
俺の反対側から最近聞き慣れた声が聞こえてくると、そこには同じく全身をびしょ濡れにした矢吹が立っていた。
「どうしてここに!?」
「どうしてって雨が降ってきたので」
確かにそれ以外理由がないな。でもこんな所で
「阿良田さんこそ、どうしてここに?」
「雨が降ってきたからだ」
俺も同じ答えを言ってるじゃないか。
それにしてもびしょ濡れのままじゃ気持ちが悪いな。矢吹は大丈夫なのか?
俺は矢吹に目を向ける。
そこに映った矢吹は雨で服が濡れているせいでシャツ下の下着が透けていた。
(紫……!?意外と大人っぽい……)
いかんいかん!何を考えているんだ。俺は下心を振り払うように頭を振る。
「どうしたんですか?」
矢吹は俺の顔を下から覗くようにして問い掛けてくる。
ダメだ。こんな至近距離でこんな格好を見せられたら。俺も男なんだぞ。
「な、なんでもない。頭が濡れてるから水を払ったんだ」
「タオル無いんですか?」
「無いよ。まさかいきなり雨が降ってくるような天気じゃなかったからな」
「お手洗いの時とかどうしているんですか……。ちょっと待っててくださいね」
矢吹はリュックを漁って何かを取りだした。
「これ使ってどうぞ。風邪引きますよ?」
「大丈夫だよ。寒くないから風邪なんて――ヘックション!」
「ダメです!くしゃみしているじゃないですか!もう私が拭きます!」
矢吹は俺に構わず頭をわしゃわしゃとタオルで拭き始めた。母親かよとツッコミたくなる。
目の前には矢吹の柔らかい二つの弾力性のあるボールがある。
これは目のやり場に困るぞ。この距離でこのセクシーな姿はダメだろ!俺より先に自分の体をどうにかしてくれ!
俺は目を瞑って何も見ないよう必死に制御した。
矢吹は俺の頭を拭き終わった直後、自分の頭を拭き始めて服を絞っていた。
「ふぅ。あ!雨、止みましたよ」
「本当だ。良かった」
六時を回った頃、雨が止み始めた。
道路に出来た水溜まりの数と大きさが雨の量を知らせてくれる。それを見た限りやはり相当な雨量だった様だ。
「少し体が冷えちゃいましたね。明日の学校休まないように早く帰って温かくしましょう――ヘクチュ!」
おいおい何だその可愛すぎるくしゃみは。さっき俺がしたくしゃみブサイクすぎるだろ。ルックスが可愛いとくしゃみまで可愛くなるのか?
「私も阿良田さんのこと言えませんね」
ニコッと微笑む矢吹に俺は冷えていたからだが少し熱するのを感じた。
「あっ、これ。少しでも体が温まるんなら」
俺はさっきコンビニで買ったホットミルクティーを矢吹に渡した。矢吹は大丈夫だと首を振るが、さっきタオルを貸してくれたことへのお返しと風邪を引かれたら困ることの二つの意味を込めて俺は無理矢理ホットミルクティーを手に渡した。
「……風邪引くなよ」
そして俺はその一言だけ残して走って家へと向かって行った。
「何よ……。私が落とすって言ったのに、これじゃ私が落とされちゃいますよ……」
矢吹は翔の何気ない優しさに体よりも先に心が温められていた。
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