34.手を差しのべる、

「ミミック。

部屋に戻りましょう」


剣を鞘にしまう。

草を踏み越えると、思っていたより大きな音が出た。

近づけばミミックは警戒こそしたものの、気が抜けてしまったのは向こうも同じだったらしい。

それ以上の行動はなかった。


「外に出たいなら、私が上司に掛け合ってみます。

了承されるかは分からないけど……

テンタクルのことも、耐毒体質の私が付き添えば制限も緩和されるかもしれません。

たぶん」

「不確定要素が多すぎない?」

「うるさいですよ」


冷静な指摘に苛立ったのは、自分でも確かにそう思ったからだ。

しかし脅し代わりの現実を突きつける作戦もうまく行かなかった現状、もう考えられる策はなくなってしまった。

立場も意地も剥がれ落ちた心で、マッピーは己の感情を素直に吐露する。


「私は貴方と仲よくしたい、ミミック。

戦いたくないから戻りましょう」


ぱちくりと浮き上がった両目が瞬いて、右往左往と視線をさ迷わせる。

目蓋周りの体操かと錯覚するそれは、どうやら動揺した表情であったようだ。

ややあって、白い壁から黒が撤退していく。


「ぼくは」


手を差しのべるマッピーに、ミミックが身体ごと向き直って口を開いた。

その時。

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