君と過ごす365日間

萩野

第1話 出会い

 1日目

 

 いつものように学校から自電車で家に帰る。帰り道の公園で、僕は彼女と出会った。

「どうした、こんなとこで一人でうずくまって」

ベンチにうずくまる不思議な女性に、俺は好奇心で声をかける。

「帰る場所がないから」

「なんで帰る場所がないんだよ」

 下を向いた彼女は顔を上げ、頬に流れる涙を手でそっと拭く。

「どうせ言ったって信じてくれない」

「行ってみなきゃわかんないだろ」

 三人ほど座れるベンチに一人分間隔をあけゆっくりと座る。

「私、未来からきたの」

 彼女の言葉に驚く。確かに普通の人ならからかってると思い信じることはないだろう。

「まじか」

 彼女は小さく首を縦に振る。

「俺は信じるよ、だって未来人とか面白そうだもん」

 彼女は驚いた顔で俺を見る。

「ほんとに信じるの」

「もちろん」

 彼女は少し笑顔になり、オレンジ色の夕日を見上げる。

「いつ未来に帰れるの」

「ほんとは1日のはずだったんだけど、博士の設定ミスで365日」

「それは大変だな」

 僕はへらへらと笑いながら彼女の顔を眺める。

「笑い事じゃないから!」

「すまんすまん」

「これからどうしよう」

 彼女はまた下を見てうずくまる。

「だったらさ、俺の家に来いよ」

「いいの!」

 さっきまでの行動が演技だったかのように彼女はすぐに元気を取り戻す。

「その代わり、交換条件な」

「こ、交換条件?」

「未来人なんだろ、じゃあタイムマシンで来たってことだよな」

「そうだけど」

「ならさ、作り方教えてくれよ、タイムマシンの」

「だ、だめに決まってんじゃん!」

 彼女は驚いた顔をして手を横に振る。

「タイムマシンは危険なものなの、少しで未来を変えたらバタフライエフェクトで未来がガラッと変わっちゃうんだから」

「じゃあ、ここで365日過ごすんだな」

「そ、それは」

 彼女は悩んだ顔をして、あごに手を当てている

「教えてくんないなら俺帰る」

「わかったから、教える、教えるから置いてかないで」

 せかされた彼女はすぐに決断をし、未来の安全ではなく、自分の安全を選んだ。

「よし、契約成立」

「博士になんて言い訳しよう」

「設定を間違えた博士を恨むんだな」

 公園の端に置いておいた自電車に乗り彼女を呼ぶ。

「後ろ乗れよ」

 彼女はゆっくりと自転車の後ろに乗り、俺の肩を掴む。

「よし、しっかり掴んでおけよ」

 思いっきりペダルを踏み込み、俺は家へと向かった。

 

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