10 ENDmarker 2.

 走り終わって。


 いつもの場所に。


 彼女がいた。


「あの」


 彼女。


 たしかに姿形は、彼女だった。


 でも、別人だというのが、分かる。彼女の心は、寿命を迎えて。しんだ。いま目の前にいるのは、彼女の外側だけが同じ、別の人間。


 なぜ、ここに来たのか。


 充たされない想いがあふれそうになるのを、こらえた。顔が同じだけ。姿が同じ、だけ。


 別人なのだから。


 自分とふれあうべき人間ではない。


 無視して。


 もういちど。走ろうとする。駆け抜けきれない心を。身体を動かして、充たすために。


「あのっ」


 声。


 彼女は。


 そんな大きな声を出したりはしなかった。


「好きですっ」


 振り返って。


「やめろっ」


 自分も、生まれてはじめて。大きな声を出した。


「あ、すまない。しまった」


 睨みつけてしまった。彼女だった、別の何か。泣き出しはじめる。


「ごめんなさい。ごめんなさい」


 無視して、走るか。


 これぐらいで、いいのかも、しれない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る