004 唯、冒険者を目指す。

 とってもおいしい焼きとうもろこし。

 本当はもっと食べたいんだけど…お金がない。


―――なんとかしないと…。


 とりあえずゴミ箱を探そう。

 おじちゃんのところに芯だけ返すというのも…なんだか申し訳ないし。


「ゴミ箱、ゴミ箱。」


 歩き回ってはみたものの、ちっとも見つからない。


―――景観保護的なあれで、ゴミ箱おかないのかな。


 そんなことを考えてうろうろしていると、手に持っていたはずの芯が消えちゃった。


「えっ!?」


 あまりの事態にびっくりな私。

 どうやらこの世界、ゴミだと思うと消えるシステムが採用されているみたい。


―――超便利じゃん。


 さすが異世界。

 ズボラな私にとって、とっても過ごしやすい世界なのかも。


 …いや、問題は何も解決してないし。


「働かないと…。」


 ゴミ箱問題はさておいて、お金を稼がないと。

 ただでさえ食いしん坊な私。

 このままだとおなかペコペコで倒れちゃう。


「そうえいば…冒険者、って言ってたよね。」


 ふと門番さんの言葉を思い出した。


―――冒険者って…やっぱりあれだよね。


 モンスターと戦ったり、町の人から依頼を受けたり…なんでもできる何でも屋さん、異世界バージョン。

 ゲームとかアニメの「冒険者」をイメージしてるけど、周りを見てもそのイメージであってる気がする。

 防具をつけて、剣を携えるその姿…まさに私のイメージしてる冒険者。


「かっこいい…。」


 異世界なら異世界らしく、冒険者でかせぐのが一番だと思う。

 正直、作家との二択なんだけど…まぁ、ある意味現実的な選択をしてみた。


「あの…すみません。」

「はい。」


 通りすがりのお姉さんに声をかける。

 剣を持ってるし、たぶん冒険者さんだと思う。


「私、冒険者になりたいんですけど…どうすれば良いですか?」

「…冒険者に、なりたいの?」

「はい。」

「それならギルドに行かなきゃね。お姉ちゃんが連れてってあげるよ。


 かなり唐突とうとつな質問だったと思うんだけど、ご丁寧に「ギルド」まで案内してくれたお姉さん。

 …絶対子どもだと思われてる。


「ここがギルドだよ。」

「わぁ…大きい建物ですね。」


 まさに私のイメージしてる「ギルド」そのものだった。

 ちなみにギルドっていうのは、冒険者さんが依頼とかを受ける場所…だと思う。

 木造2階建てかな…年季の入った柱、戦いの傷跡のこる壁。

 ドアはひっきりなしに開いたり閉まったり…冒険者さんが行き来してる。


「なかに受付の人がいるから、そこで聞いてみて。」

「はい。ありがとうございます。」

「どういたしまして!じゃあ、がんばってね!」


 ギルドに入ると真ん中あたりに大きな掲示板があった。

 クエスト一覧、と大きく書かれてる。

 いくつか内容を見てみたけど、モンスターの討伐とうばつ依頼ばかりだった。


―――さすがに…いきなりモンスターと戦うのは無理だよね。


 22歳、乙女な私。

 ゲームではベシベシとモンスターを倒してたけど、ここは現実。

 いや、現実とは…思いたくないんだけど…。


 しばらく探してみると、「回復花を採取せよ」というクエストを見つけることができた。


―――これなら何とかなるよね。


 採取依頼。

 たぶんだけど、回復花なるものを集めれば良いと思う。

 どこに生えてるとか知らないけど、誰かに聞けば大丈夫なはず。


「えーっと…。」


 周りの冒険者さんを見ていると、どうやらこの依頼票を受付の人に渡してる。

 仕組みをなんとなく理解した私。

 列に並んで、しばらく。

 私の順番がきた。


「こんにちは。冒険者証ぼうけんしゃしょうを見せていただけますか。」

「冒険者…証?」


 受付のお姉さんから聞きなれない単語が飛んできた。





 聞きなれない単語を受けて、固まっちゃった私。

 どうしよう。


「…もしかして初めての方ですか。」

「は、はい。」

「では、登録専用の窓口へどうぞ。あちらの緑のカウンターへお願いします。」

「ありがとうございます。」


 ぺこぺこと頭を下げて、案内されたカウンターへと向かった私。

 どうやらまずは登録がいるみたい。

 そりゃそうだよね…どこの誰だかわかんない人に、依頼とか出せないもん…。


「すみませーん。」

「はーい。」


 カウンターの奥で書類を整理していた金髪お兄さん。

 くるりと振り返って、営業スマイルで対応してくれた。


「お嬢ちゃん、冒険者になりたいのかい。」

「えっと…はい。あの…。」


 明らかに子どもだと思われているので…一応、訂正しておこう。

 さすがにママかパパと一緒においで、なんて言われたら大変。


「おっと、これは失礼。えーっと…お名前は?」

「ユイといいます。」

「ユイさんですね…こちらに手をかざしてもらえますか?」

「はい。」


 石板みたいなのに右手をちょこんと乗せる。

 ひんやりさもあいまって、ちょっと緊張。


「えーっと…特に問題ないようですね。レベルは1と。…1っ!?」

「ど…どうしたんですか?」

「いや…これは困ったな…。」


 なんとこの世界では冒険者になるための試験があるらしく、基本的にレベル10にならないと試験が受けられないとのことだった。


「そんな…。」


 でも、諦めるわけにはいかない。

 一文無いちもんなしな私…これでは生きていけない。


「お願いします、なんとかなりませんか?」

「そう言われましても…うーん…困ったな…。」

「そこをなんとか…。」

「では…あまりおすすめはできないのですが…。一応…。」


 なんとか手段を考えてくれたお兄さん。

 他の国で冒険者をやっていた人などを対象とする「特別試験」があることを教えてくれた。

 こちらにはレベル制限はないみたい。


「特別試験、お願いします!」


 その言葉に、背後が少しざわついた気がしたけど…気のせいだよね。


「…うーん…わかりました。気をつけてくださいね。」


 しぶしぶ受け入れてもらえたみたいで、ハンコを押した書類を手渡された。

 そのまましばらく待っているとギルドの裏手、試験場に案内してもらえた。


―――特別試験って…なんだろう…。


 ワクワク感と恐怖心が入り混じってる。

 筆記試験じゃないだけ良かったのかもだけど、いきなりモンスター倒せとか言われないよね…。


「君が特別試験の受験者かい?」

「は、はい。よろしくお願いします。」


 長身、すらりとした男性がひとり。

 細身の木刀を持ってる。


―――ま、まさか…。


「レベル1で試験を受けるとは、何かよっぽどの事情があるのだろうが…規則でね。手加減はできないが、武器は木刀ぼくとうだ。悪くても骨折ぐらいだから、安心してかかってくるといい。」


 特別試験の内容、まさかの決闘だった。

 いや、木刀だから模擬戦なんだけど…いきなりすぎない、これ。


 木刀なんか持ったことないし、構え方もわかんない。


「えっと…えっと…。」


 てんやわんやの私だけど、試験は始まっちゃった。

 さっきのお兄さんが審判係。

 お兄さんが合図をすると、試験官が一気に間合いを詰めてきた。


「うわっ。」


 当たり前だけど、しっかり持ってたはずの木刀は吹き飛ばされちゃった。

 そのまま試験官さんの木刀が迫る。

 多少の手加減なのかな、私腕を狙った攻撃だった。


 バキッ


「痛…くない?」

「ぬ?」


 おそるおそる目を開けると、そこには木刀の先っぽが転がってた。

 砕けてしまったみたい…骨ではなく、木刀が。


「ぬ?」


 状況が飲み込めない私たち。

 試験官さんからは、何度も変な声がれてる。


「ぼ、防御魔法ぼうぎょまほうを使えるのか…なかなかやるようだ。」

「いや、そんなことは…。」


 変な感心のされかたをしちゃった。

 そんな魔法は使ってないし…てか、魔法が使えるんだ。

 そんなことを考えていると、試験官さんは杖らしき棒を取り出した。


「くらえ!ファイア・バーストッ!」

「わっ!?」


 私の包み込むには十分すぎる炎の塊。

 すごい勢いで飛んできてる。


―――ぜ、絶対試験で使う魔法じゃないしっ!


 避けることはできなそうだし、跳ね返すにも武器持ってない。

 諦めてそのまま受け入れる私。


―――あぁ…異世界、あっけなかったな…。


 炎が直撃した。


「…ん?熱く…ない?」


 痛くもないし、なんなら痒くもない。


―――もしかして…バグのおかげ?


 ここでやっと思い出した私の防御力、そう9999。

 どうやら伊達じゃないみたい。


「い…いったい…ほう…はってひるんだ…?」


 試験官さん、あご外れちゃったみたい。

 ものすごく大きなお口を開けて、驚きの表情。

 ちなみに私、けろっとしてる。

 そしてバグを思い出して、ちょっと余裕を取り戻した。


―――バグに頼れば…いける!

 

 まだ勝負はついていない。

 剣術の勝ち目はないし、組手するような度胸もない私。

 せっかくなので、今聞いた魔法を使ってみよう。


「ファイア・ばーしゅとっ!」


 …ちょっとんだけど、魔法は成功した。

 特に問題なし、視界良好…試験場が半壊したこと以外は…。


 試験官さんはというと…間一髪でかわしたようで、木の影に隠れてた。


「ま、参った。降参だ。」


 試験官さん、ガクガクと足を震わせながら、そう告げてくれた。


「やったー!」


 無事に試験は終了、私は晴れて冒険者となったのだった。

 えへへ。

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