第7話 白檀の香り

「よかったわね、今がちょうど夏休みで。少しは、自分の身ぐらい自分で守れるようになりなさいよ」


 朝霧あさぎり刹那は、呪受者である俺が気に入らないようで、何かと俺に暴言を吐いてくる。

 それも決まって、春日様のいないところでだ。


 頭首家の人間は、当初の不安とは別に意外に手厚く俺を歓迎してくれて、みんな優しかったが、刹那だけは、俺をバカにしている態度を取り続けていた。

 嘲笑ったかと思うと、急に無視をしてきたり……




 そして、決まって最後にはこう言うのだ。


「呪受者のくせに……」


 ついには、不意に目が合っただけでも。


「何見てんのよ、呪受者のくせに……!」

「いや、単に目が合っただけだろう……!!刹那、お前なんでそんなに俺を目の敵にするんだ?」

「それは……————」


 刹那は何か言いたそうだったが、押し黙ってしまって……


「——……うるさい!あんたが悪いのよ!!」


 結局答えてはくれず、プイッと後ろを向いて、逃げるように刹那は俺から離れて行った。

 その長い黒髪の毛先が、振り向き様に俺の頬を掠める。


 白檀の香りがした。





 * * *





 ここへ来て、一週間が経った。


 夏休みま終了まで残り3日となったが、今だに俺は何一つできないままだ。


「おかしいな……本当に、君は呪受者なのか?その割には、まったく力があるように思えないのだが…………」


 俺の教育係となったのは、朝霧士郎しろうさんで、刹那の叔父で俺の母にとっては従兄弟いとこに当たる。

 後で知ったのだが、刹那と俺は再従兄弟はとこなんだそうだ。


 士郎さんは、この一週間つきっきりで俺に、陰陽道の基本を教えてくれてくれていたが、あまりにも俺が何もできないからと、困り果てていた。


「せめて、小物の妖怪くらいは倒せるような術くらいは使えるようになって欲しかったんだが……うーん……」



 なんども俺の右目を確認しながら、士郎さんは何か考えているようで……————


「あまりこの手は使いたくなかったけど、仕方がない。一回、出ようか」

「え?どこに?」

「この里をさ。結界の外に出てみよう」

「え!?そんなことしたら、妖怪に襲われるんじゃ……?」

「大丈夫、大丈夫! 本当に危なくなったら助けに行くよ。本当に、危なくなったら……ね」



 俺は、一人で結界の外に放り出された。



(本当に、大丈夫なのか?)











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