第3話 隔世遺伝

「ばあちゃん……なんでここに……死んだはずじゃ」


 ばあちゃんが死んだ日、俺は涙が枯れるんじゃないかってくらい、一生分泣いた。

 よく笑う人で、いつも明るくて元気で。

 共働きの両親より、ずっと長く一緒にいる時間が多かった。

 俺と同じで、右目の瞳が赤い色をしている大好きなばあちゃんだった。


 俺と違って、その目は見えていたけど、でも、この瞳の色は、隔世遺伝だって、私の孫なんだって立派な証拠だって…………

 いつも俺を否定することなく、肯定して、優しく守ってくれている人だった。



 その人が今、目の前にいる。



 どこから、どこまでが夢なんだ?

 顔が落ちて着たところか?

 それとも、目が見えるようになったところ?

 ばあちゃんが死んだあの日か?


「そんなに、あの人と私は似ているかい? やっぱり、離れていても、姉様は姉様なのさね……似ていて当然か」


「姉様……?」


「颯真、私はお前の祖母ではない。妹さね。双子のね」


「妹……?」



 ばあちゃんに妹がいたなんて、聞いたことがない話だった。

 だけど、落ち着いてその人をよく見ると、顔も体型もそっくりで、もう本人にとしか思えないくらい同じだ。


 ただ、右目は黒い眼帯で隠れていて、俺と同じ赤かどうかはわからなかった。


「颯真、私はお前を助けに来たのさね。ここにいては危険だ。またいつあの者たちがお前を食おうと襲ってくるやも知れぬ…………」


「ちょ、ちょっと待ってください!どういうことですか!?あの者たちって————」


「わからないかい? お前は今日、ソレを見たのだろう? だから、今ここにいる」


「え……」


 気が付いて、扉のすぐ横にかけてあったデジタル時計を見ると、すでに12時を過ぎていた。

 11時からばあちゃんの49日法要だった。


(その前に、外に出て、それで————)


「お前は倒れたのさね。本当はあの者たちに見つかる前に、話をしたかったのだが、私たちがここに来た時にはお前はこの家の中にいなかった。姉様が張った結界の外に、お前はその目で出てしまったのさね」


「そうよ!!あんたが家にいないせいで、探すのに時間がかかったんだから!頭首様のお手を煩わすなんて、いくら呪受者だからって、生意気なのよ!!」


 頭首様と呼ばれたその人の後ろから、見知らぬ女の子が飛び出してくるなり、怒っている。

 倒れる直前に見た、制服のスカートと華奢な脚が同じだった。

 おそらく、あの時いつの間にか俺の隣にいた女の子だ。


刹那せつな、落ち着きなさい。これから一緒に暮らすのだから、そのすぐにカッとなって怒る癖は直さなければ、この先やっていけないさね」

「ご、ごめんなさい。頭首様」



(一緒に、暮らす……?)



 その人は、頭首・春日かすが様は、俺に一体何が起きたのか、話してくれた————





「お前の右目は、呪いを受けているのさね。我々の先祖代々受け継がれる、忌々しき、妖怪・玉藻たまもの呪いさね」

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