やじるし→君に届け

まちゅ~@英雄属性

第1話→

 窓際、後ろから二番目それが今回の席替えで決まった、ぼくのクラスでの居場所。


 僕の名は歌川清水うたがわきよみず、この場所で、授業を受け、惰眠をむさぼり、時々友人と話し、スマホをいじる。


 多分、高一の長い時間をここで過ごすだろう場所。前後右に知り合い無し。


 わが友人二名、は南方の地に飛ばされてしまった様だ。前列の真ん中寄り戦線(先生)激戦区らしい、可哀想な事だ。


 僕は、そんな怠惰な事を考えている何処にでもいる様な高校一年生だ。


 勉強も全150人程の一年生の中で、50番前後を行ったり来たりしている位で、たいした事は無いし、特技だって……ウタいや特に思い付かないな。


 単なるお調子者の半端もんだからなぁと、ぐでぇとすれば誰が書いたのか机に、こんな事が書いてあった。


『お隣さん可愛い子だった?』


 何言ってんだ、ふと右隣を見れば、お隣さんが一生懸命荷物の整理をしていた。


 バッグが膨れているという事は、教科書を何時も持って帰る真面目さんタイプだろうか?


 彼女の名前は、舞阪まいさかさん、名前は……何だっけ?まぁ、名字が解っていれば大丈夫だろう。ぱっつん前髪で胸位までの耳が隠れるミディアムヘアーが良く似合う真面目そうな眼鏡美人さんだ。


 おい矢印、隣は美人さんだぞ?次はどうする?と心で問いかけても何の反応もある訳じゃ無く、机の『お隣さん、可愛い子だった?』に矢印を書いて『結構、好み』と書き加えた。


 それから二日ほどたった頃だった。少し寝坊して始業時間ギリギリに何とか教室に飛び込んだ。


「おー、歌さん、おそよー」「おそよ、歌っち」友人二人が、教室へ飛び込んだ僕に向かって、手を上げてくる。


 俺を歌さんと言った長髪の男が右働優人うどうゆうと一見、チャラ男に見えるけど、優しい良い奴だ。


そして歌っちと言ったのが、佐山神楽さやまかぐら僕の幼馴染みで、優人の彼女。ギャルの癖に、スポーツ万能、入学とほぼ同時に陸上部とバレー部、バスケット部等々、山の様に勧誘に来たのは笑った。


 その結果、結局は帰宅部って、どうなんだろう。お陰で運動部の部長達から、お前、友達だろ?説得してくれと詰め寄られて散々だった。


 優人や僕と遊べなくなるじゃんが理由らしい。


 その言葉を聞いて、うん、男らしいと感心した風に言ったら持っていたバッグでぶん殴られた。


「おはよーだよ、ギリギリ間に合ってんじゃん」


 二人に、軽く手を上げて、舞阪さんの後ろを通って席につく。


 何とか間に合って机に突っ伏していると、妙な物が目に入った。


 思わず、大きな声を出しそうになったのを我慢して、ゆっくりと辺りを見渡した。


 特に、こちらに意識している人はいないか?


 机には、『お隣さん可愛い子だった?』←『結構、好み』から『お隣さん可愛い子だった?』が消され、


『結構、好み』←『彼女、友達いなくて寂しいらしいよ、話しかけて見たら?』


 と書いてあった。


 どういう事?しばらく、考え込む。


 これ、誰が書いてるんだ?


 俺が書いたのバレてるって事だよな?


 どうしよう、これ。


 しばらく考えるけど答えなんて出ない。


 少し不気味だよな?


 そう思いつつも、答えは一択だった。


 こんな面白そうな事、試さない訳がない。


 僕は、この非日常的な出来事に少しワクワクし始めていた。


 さてと、机に書く前にやらなきゃならない事がある。


「ねぇ舞阪さん、昨日の夜中の雷って聞いた?」


 僕は、隣の席の舞阪さんに話しかける。


「えっ?あっはい?何でしょう?」次の授業の準備をしていた舞阪さんは、急に話しかけられて大慌てしている。


「うん、昨日の夜中なんだけど、急に雷ならなかった?」昨日の雷なんてどうでも良かった。話した事も無い人に話し掛けるには、時事ネタ、テレビの話、天気の話しに限る。


「すみません、全然気づきませんでした」

心の中で、いえいえ、こちらこそすみません、雷の事なんてどうでも良いです。とつぶやいてみる。


「そっかぁ、じゃあ、雷がなったのは、うちの方だけなのかな?」


「もしかしたら、私がぐっすり眠っていたのかも知れません、私一度寝ると中々起きなくて」そう言って、彼女はフフッと静かに笑った。その笑顔にしばし動きが止まる。


「……どうかしましたか?」


「ごっゴメン、ちょっとボーッとしてたかな?」舞阪さんの笑顔に、みとれましたなんて、とても言えない。


 あまり、意識して無かったけど、この子本当に可愛いな……なんて、だから何だよって話だけど。


「あぁ、そう言えば隣なのに、ちゃんと挨拶して無かったな。僕は歌川清水よろしく舞阪さん」


 あまり馴れ馴れしくならない様に気をつけて話す。


「はいっ、改めて舞阪アリスです。よろしくお願いします」舞阪さんは、ペコリとお辞儀してくれた。


 偏見で少し、取っ付きにくいタイプかと思ったけど、物腰も柔らかい感じだ。


 アリスちゃんかー、アリスちゃんねー、うん、アリスちゃん、よし呼ぶぞ!!


「よろしくね、ア、あの舞阪さん」流石に、最初からアリスちゃん呼びは、キツかった。


「はいっ、よろしくお願いします歌川君、きよみず君って読むんですか?格好良いですね!!私、しみずって読むとばかり思ってました」


 不味いな、僕は今、凄くニヤケ顔してないかな?


「舞阪さんのアリスって言うのも凄く可愛いですね」


「あっ有難うございます。でも、ちょっと名前負けしてると言うか」


 ねぇ大丈夫?今、なんか僕まずい事言ったかな?舞阪さん、顔真っ赤なんだけど。


「あの歌川君、いきなりで申し訳無いですけど」

 舞阪さんが、困り顔で話し掛けてくる。


 彼女に見えない様に自分の脇腹をツネリ、平静を装う。


「どうしたの、舞阪さん?何でも言って」


 困り顔も可愛い!!僕の思考回路は、今日は、ちょっと飛ばしすぎかも知れないなぁ。


「あの昨日、予習をしていたら、現国の教科書を忘れたみたいで……」


 フムフムそいつは大変だ。


「ん?貸せば良いの?」僕は、何の躊躇も無く教科書を差し出す。


「それじゃ、歌川さんが授業中、困るじゃないですか!!」

 慌てるアリスちゃんも可愛い……って、そろそろ気持ち悪いな、気を付けよう。


「いや、大丈夫大丈夫、俺が忘れた事にするから」平然としている僕に、更に慌てるアリスちゃん。

「駄目ですよ!!忘れたのは私なんです。もし良かったら、教科書一緒に見せて頂けたらと思っただけなんですから」


 優しい子だな。


「僕なら良いのにね、まぁ了解したよ」


 平静は装っていたけど、内心はバクバクだった。







☆☆☆


今日の矢印


結構、好み→彼女、友達いなくて寂しいらしいよ、話しかけて見たら?














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