セカンドライフー僕らの夢

バンの後ろのドアをあけて、秋野 昭と妻の美優は先ほど譲り受けた猫たちのキャリーケースを降ろしていく。


「美優、いよいよ俺たちの夢かなうな」


「うん、昔からの夢だもんね」幼馴染で夫の昭は、動物が大好きだった。将来は動物関係の仕事につきたいと一時もぶれずにいた。そして、いつも一緒にいて感化された私の夢にもなっていた。

いろんなバイトをかけもちして、軍資金を貯めてこのネコカフェ『キャット部屋』が、ついに完成した。

合計6部屋からなるアパートの角部屋の1室の小さな部屋だが、俺たちの夢のお城だ。1階はリサイクルショップの2階に位置する。

疲れた心を猫たちの愛らしい姿をみて、癒しの場所になってほしい。


「でも、問題なのはまだ人間にあまりなれていないってことだよな」2階への狭い階段を上がり全部のキャリーケースを部屋に運びこんだ。


「うん、このまま客をとっても、威嚇されたり客にケガさせたりしたら大変だしね。どうしようか?」考えた末に、10日間は俺たちがこの部屋に寝泊まりしてとりあえずは、人に慣れてもらうということにした。資金に余り余裕がない俺たちのギリギリの選択だ。猫達のエサ代や、この部屋の月々の家賃代を最低でも確保しないといけない。もちろん、なるべく猫たちと過ごしたいが店が軌道にのるまでは交代ずつでバイトを入れる。


1日目

輪のようにキャリーケースを部屋にならべて中心に俺らがいる。ケースの扉は開けっ放しにしてある。猫たちに囲まれながら(ケースに囲まれながら)になる。険しい猫たちの顔に囲まれるのは、こちら側もかなり緊張する。


それでも一粒では餌と排泄の世話を定期的にしてくれたので、猫たちは警戒しながらもそれらのことは受け入れている。


3日目

猫たちに、名前をつけることにした。まず、俺たちの動きに一番敏感で臆病な性格の 

敏感からくるカンビちゃん、白猫のメス。


目の片方の周りと体にも模様のように黒の毛がはえているーブッチ。オス


皆より明らかに痩せているーやせ子。メス


手から食べるようになった一番人懐こいーアイドル。オス                     


声が皆よりすごく低い、警戒心が強いーテノール。オス


黒猫ーまくろ。オス


シッボが切れていて警戒心が強いーオキレ。オス


まあ、セクハラっぽい名前もあるが、自分たちが猫を識別しやすい名前なのでよしとする。首輪に名前を書いていく。




5日目

俺のバイトが終わって家に帰りシャワーを浴び、飯を食べてから、美優と猫たちに合流する。2階への階段を上がり(キャット部屋)と書かれた新品の名札が目に飛び込むと静かにドアを開ける。中に入ると小さな受付があってそこの奥に更にドアがある。引き戸を開けると、俺に気づいた美優はシッーと一指し指をたてて猫たちを指さす。

「おおっー、ゲージから出てきてるじゃないか」警戒心の強い、テノールとオキレ以外は、部屋に出てきている。


「おつかれ様ー昭。そうなの、最初はアイドルがゲージから出てその様子を見ていた他の子たちが、徐々にね」


「俺たちに見慣れて、危害を加えないと安心したんだな」入ってきた俺にいささか緊張はしていたが、あっいつもの奴だなといった感じで壁の上の登り木からじっと見下ろしている。


「よし、よし」美優の膝に気持ちよさそうに寝ているアイドルを撫でる。周りの猫の目線を感じながら。


















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