第40話 深夜二時のおはよう

「ん……」


 意識がぼんやりと深い海から引き上げられていく。

 真っ先に来たのは、腰の痛み。それと見慣れない景色。


 ――そうか。俺は茜の家に来ていたんだった。


 そのことに気が付いたとき、俺の意識は覚醒した。


「寝すぎた……かも」


 久しぶりの運動で相当疲れていて、加えてここ最近睡眠不足だったから寝すぎてしまうのも納得がいく。

 だけど病人の介護のために来たのに、俺が寝てどうすんだ。


 そう思って起きようとしたとき、頭を撫でられた。


「茜?」


「……んにゃあ」


 どうやらまだ寝ているらしい。

 無意識か。


「歩夢ぅ……好きぃ」


 呟かれたその言葉。

 それに加えて頭を撫でられているもんだから、余計にドキッとしてしまった。

 

「ったく……寝言ひでーぞ」


「……んふふ~」


 気持ちよさそうな表情を浮かべる茜。

 見た感じ、初めに来た時に比べれば体調は回復しているようだ。


「今何時だ……?」


 ポケットの中に入っていたスマホで確認する。

 

「午前二時……」


 中途半端な時間に起きてしまったようだ。

 ひとまず茜の手をちゃんと布団の中に入れて、むくりと起き上がる。


「なんかやるか」


 完全に目が冴えてしまったので、とりあえず何か活動することにする。

 と言っても、特にこれといってやることはないんだが。


 今茜を起こすのはかわいそうなので、とりあえず部屋に出る。

 そしてスマホを起動し、ある人物に電話を掛けた。

 すると、すぐにその人物は電話に出た。


「おはよう」


『……お前今何時だと思ってんだよ……』


「午前二時だな」


『アホか』


 さすがの正弘とは言え、この時刻は眠いらしい。

 でも、正弘なら起きてるか、寝ていても出ると思っていた。


「今日のカラオケ、行けなくてすまんな」


『ほんとだぞ? 氷見がやけくそで君〇代歌うくらいには怒ってた』


「じゃあ今から氷見に謝罪の電話を……」


『バカ野郎。あの健康優良児がこんな時間に起きてるわけねぇだろ』


 氷見は高校生の模範的な生活を送っている。

 何せ十時に寝て、五時半に起きる生活をしているからな。

 夜更かしは美容の敵らしい。


 さすがは恋する乙女だ。


「冗談だよ冗談。俺だってこんな時間に電話を掛けるほど非常識な奴じゃないよ」


『じゃあ今話してる奴はなんだよ』


「例外? つまりはスペシャルだ」


『うぜぇ……』


 午前二時なのにも関わらず、ギアが上がってくる。

 まぁ俺は普段最高潮にいる時間だからか。


「明日、俺学校休むから。今茜の家にいるんだ」


『東京か?』


「そうだ」


『了解。俺と氷見の分のおみあげ買って来いよ』


「おう」


 そこで電話は切れた。

 全く、正弘は相変わらず実はいい親友キャラを貫いている。

 

「あいつほんと、いい奴だなぁ」


 こんな時間に電話をかけて、ブチギレないのはたぶん正弘くらいだろう。

 ほんとに俺は、いい親友を持った。


 そんなこと思いながら、俺はスマホをポケットの中に閉まった。


「ひとまず、部屋の掃除でもするか」


 辺りを見渡せば、散乱した荷物たちがあった。

 茜は整理整頓は苦手だ。やればできるタイプなのだが、なかなかやるのに時間がかかるのだ。


 俺は今暇だし、特にやることもないからちょうどいい。


「しゃっ、気合入れてやるぞ」


 腕をまくって、深夜テンションの俺は本格的に活動を始めた。

 

 

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