第23話 ドーナッツのように甘い

 映画を観終わって、茜の要望でミスタスドーナッツを訪れていた。

 ここは名前の通りドーナッツ中心の店で、その他サイドメニューも美味い。


 落ち着いた、まるでカフェのような雰囲気の店内で、茜は思い出したように泣いていた。


「めっっっっちゃ感動したぁ~」


「それ何回目?」


「はぢがいめ~」


「数えるほどの冷静さあったのかよ」


 とりあえずちょうど持ち合わせていたハンカチを茜に渡した。

 映画が終わった時も泣いていたし、何なら映画の途中でも泣いていた。

 感情豊かでいいことだ。


 少し時間が経って落ち着き始めた茜は、小さくドーナッツにかじりついた。

 小動物みたいだななんて思いながら、そんな茜の姿を見ていた。


「ほんといい映画だったね」


「そうだね。琴寄も、マジですごかった」


「だね」


 正直なことを言えば、映画が始まっても茜が俺の腕にしがみついてきたり恋人繋ぎしてきたり、抱き着いてきたりしたからあんまり集中して見れなかったけど。

 まぁある意味、映画と茜の二つを楽しんだと言っていいだろう。


 心底映画館に来てよかったと思った。


「やっぱり、女優さんってすごいねぇ」


「そうだけど、モデルだってすごいだろ?」


「そんなことないよ。私にあんな演技力ないなぁ……」


 一瞬落ち込んだような表情を見せた後、「えへへ」と笑ってまたドーナッツにかじりつく茜。

 その姿を見て、俺は気づいた。


「もしかして茜――芝居とかしてみたいのか?」


 俺の言葉に少し驚いて、茜は俺のことをじっと見てきた。

 

「やっぱり歩夢は私の幼馴染で、彼氏だねぇ」


「ま、まぁ俺はお前の幼馴染で、『彼氏』ですから」


「なぜ彼氏を強調?」


「……彼氏って響きが、なんかよかったんだよ」


 恥ずかしかったけど、心中を赤裸々に言った。

 正直、俺は未だに茜の彼氏になれたことが嬉しいのだ。


 同棲生活が始まって数週間経つけど、未だにその気持ちを消えない。

 そんな俺を茜は頬杖をついて、幸せに満ち溢れた顔で見ていた。


「歩夢ってやっぱり可愛いね」


「お、男に可愛いって言っても嬉しくねぇぞ?」


「でも――カッコいいよ」


「っ……!」


 茜の攻撃力が高すぎる……。

 俺は一瞬にして後方に吹き飛び、壁にめり込むくらいの大ダメージを受けた。


 俺の幼馴染……可愛すぎる!


「あぁー今すぐ歩夢を押し倒したいよぉ~」


「ちょ、お前なぁ……そういうのは女の子が言うもんじゃないぞ?」


「じゃあ歩夢が押し倒してくれるの?」


「……時間、くれる?」


「や・だ♡」


 にひひ~と小悪魔的な笑みを浮かべて笑う茜。

 相変わらず俺をからかってやがる、と軽くため息をついた。


「甘えてくるのは嬉しいけど、外では目立つから、な?」


「むぅ~私はいつでも歩夢といちゃつきたいのに~」


 俺だっていつでもどこでも茜といちゃつきたい。

 だけど世の中にはそれをウザいと思う人間もいるわけで。

 俺たちは節度あるカップルを目指したいのだ。


「歩夢のいじわる」


 そう呟いて、ホイップクリームのドーナッツをまた小さく食べる茜。

 その時にホイップクリームがほっぺ付近についてしまった。

 昔から茜は抜けてるところがある。


 昔もよくこんなことあったよなぁなんて思いながら、茜のほっぺからホイップクリームを人差し指で拭って、舐めた。


「ん?」


 そんな俺を茜がジト目でじっと見つめてきた。

 そしてボソボソと、


「歩夢がいちゃついてんじゃんカッコいいことしてんじゃん。完全に私のこと誘ってんじゃん。なのに甘えちゃダメとかドSなの? もうほんとやだ。好きすぎる……」


「ん? 聞こえないぞ?」


「要約して、甘えないなんて無理です~」


 そう言って俺の手に持っていたドーナッツをパクリと食べる茜。

 ん~美味い! と言って無邪気な笑みを向けてきた。


「(俺だって甘えてぇよ……‼)」


 そう心の中で叫んで、手に持っていたドーナッツを食べた。

 

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