第20話 攻められる大人気モデル

「いやぁこれが茜の彼氏さんかぁ……ふむふむ、なんかお似合いな雰囲気出てるねぇ」


「そ、それはどうも」


 茜の部屋にて。 

 ちゃぶ台を挟んで対面に琴寄がいて、俺と茜は隣り合って座っていた。

 茜に視線を向けると、きょとんとした顔で「どした?」と言われたので、俺はため息をつかざる負えなかった。


 とんでもサプライズすぎる。


「改めて、紹介するね。こちらは琴寄つばめちゃん。高校の同じクラスで、大親友!」


「どうも大親友です! よろしく~!」


「お、おう……」


 そういえば、すっかり忘れていたが茜の通っている高校は芸能人が多く通う学校だった。

 だから芸能人である茜が芸能人の友達を作るのは自然なことで。


 でも明日公開の大注目作のヒロインを務めた大人気女優が来るとは、完全に予想外だった。

 フラグは恐ろしいほど丁寧に立っていたけど。


「なんか歩夢反応薄くない? もしかして……み、見惚れてる⁈」


「やーん、さすがに茜の彼氏には手出せないよ~」


「……絶対出さないで」


「う、うん……」


 真顔で茜がそう言うもんだから、ちょっと引き気味に琴寄は頷いた。

 茜は幼い頃から人一倍独占欲が強い奴なので、もう見慣れた光景になってしまったけど。


 茜がくぎを刺すように、俺にも視線を向けてくる。


「任してくれ。俺のモットーは『茜イズナンバーワン』だ」


「何その恥ずかしいモットー。嬉しいけど……他の人には言わないでね?」


「言えるわけねーだろ」


 だけどそういえば真正面にはもう一人いて。

 琴寄は俺たち二人の姿をニヤニヤしながら見ていた。


「アツアツだねぇ。もうこれはやることやったんですかねぇ?」


「ちょ、つばめ⁈ そ、そういうのは男の子の前で言っちゃダメだよぅ」


「あっごめんごめん。いつものノリで、ね?」


「もぉ~」


 仲睦まじい二人の姿を見ながら、俺は思う。

 琴寄は現実でもテレビの中でも同じようだ。テレビからそのまま出てきたような感じがある。

  

 茜はテレビだと少し大人っぽくなるのだが、やはり本当に天然なようだ。

 そんな琴寄が映画のヒロインに抜擢されるほどの演技力を持っているとは……やはりすごい。


「まぁ、私たちはまだ手繋いだことしかないもんね」


 ちらっと俺の方を見てくる茜。

 間違いなく、その先を要求する顔だった。


「そういうのは人がいる前で話すもんじゃない」


 すかさずチョップをかます。


「いたっ。んもぉ~歩夢は意気地なしだなぁ」


「お前は欲望に忠実すぎだ。俺がブレーキにならなきゃいけんだろ?」


「歩夢もブレーキなんてしなくていいんだよ? 二人で欲望の赴くままに……」


「……んふふ。ここにバカップルがいる」


「「っ……‼」」


 気づけばこんな会話をしてしまっていた。

 そろそろ地雷を踏みかねないので、自重することにする。


 世のため人のため、自分のため。


「ま、まぁなんだ。茜にこんなにいい友達ができて俺は嬉しいよ」


「全力で話変えてきてるな?」


「っ……そ、そこはついて欲しくない。マジで」


「ほんとはもっといじって茜の可愛い照れ姿を見たかったんだけど、ここら辺にしとく」


「て、照れてないし!」


「……鏡見た方がいいんじゃない?」


「……あ、歩夢! 顔赤い?」


 顔をぐっと近づけてそう言う茜。

 そんなに顔を近づけなくても分かる。茜の顔は、真っ赤だ。


「赤い」


「え、えぇ~やだなぁ~」


 茜は顔を手で隠した。

 その姿を琴寄は微笑まし気に見ていて、どうやら茜が攻められる側なのだと察する。


 できれば俺もそっち側に行きたいなと、琴寄に憧憬の眼差しを向けた。


「八朔君、こんな可愛い彼女がいて幸せ者だねぇ」


「ま、まぁな」


「……大事にしてあげてよ?」


「もちろんだ」


 その流れで、琴寄と握手を交わした。

 俺はもちろん、「これからも茜のことをよろしく」という念を送った。


「あ、歩夢のばかぁ……」


 そう小さく呟いていたけど、俺はあえてスルーした。

 だって、こうやって攻められている茜は貴重で、それで最高に可愛いから。


 ……この姿を見たくなったら、琴寄に来てもらおう。


 そう思う俺だった。

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