第13話 一緒の帰り道

 何気ない、ただの月曜日。

 それはやはり週初めとあって憂鬱で、できれば月曜日なんて来なかったらいいのに、と思ってしまう。


 だけど、今日という日は俺にとって四年待ちわびた日であって――


「お前テンション高いな。いいことでもあったか?」


「えっわかる?」


「気持ち悪いくらいに分かる」


「そうかそうか」


 気持ち悪いに対してのツッコみをしないほどに、今の俺は気分がよかった。

 ずっとこの調子で朝から過ごし、もう放課後。

 俺のテンションは最高潮に達していた。


「歩夢、今日例の幼馴染と一緒に帰るらしいよ? だからこんなに機嫌いいんだよ」


 氷見が呆れながらそう言う。

 そういえば、氷見にさっきと同じ質問されたから答えたんだった。


「えっ俺知らなかったんだけど? 氷見には教えて俺には教えないとかどゆこと? 友達格差おきてません?」


「たまたまだよたまたま。ってか友達格差ってなんだよ。造語すんじゃねーよ」


「あっ、いつもの歩夢に戻った」


「俺を判断する主な材料がツッコみとか、漫才界期待の新星か俺は」


「「き、キレキレだぁ~!」」


「お前らもな」


 氷見と正弘の息の合いようはもはや夫婦の域である。

 もうお前ら付き合えよ……。


「まっ、楽しんでくるよ」


「おう」


「ファイト」


 二人の親友にエールをもらって、俺は目的地へと向かった。




   ***




 学校から少し歩いたところにある、こじんまりとした公園。

 人気は少なく、俺たちが待ち合わせするには絶好の場所だった。


 そんな場所に一輪の花が咲くように、美少女が立っていた。

 思わず足を止めて、遠くから茜の姿を見てしまう。

  

 ブラウンの長い髪が風でなびいていて、絵画的だった。

 それに加えて真新しい制服は茜のためだけに作られたものかと思うほどに似合っていて、ようやく茜も高校生なんだと実感する。


 スカートは女子高校生らしく、でも短すぎず。そこからすらっと伸びる足は黒タイツで隠れてるものの、より美しさが際立っていた。


 思わず見とれてしまう。

 すると俺に気づいた茜が、俺の方に小走りでやってきた。


「遅い! 待ったぞ」


 茜のグーパンチが肩に飛んでくる。

 でも効果音はポコン、で相変わらず痛みは感じなかった。


「ごめんごめん。お待たせ」


「全く……手、繋いでくれたら許すよ?」


「……」


 周囲を確認する。

 人はどこにも見当たらない。


「いいぞ。でもその代わり、変装はしとけ」


「やった! 了解であります!」


 上機嫌の茜が、バックからマスクと丸眼鏡を取り出した。

 これはマネージャーさんと約束した、最低限の変装セットだ。


 まぁ正直なところ、茜がいたとしても本人がいるとは思えず、結局わからないらしいのだが……念には念を、だ。


「じゃあ行こ?」


「そうだな」


 茜の手を取る。

 ここ最近茜のかまってちゃんモードが炸裂していたので、スキンシップに慣れてしまった。

 

 前まで小指でギブアップだったのに、今ではガッツリ手と手が触れ合っている。

 

「そういえば、学校の方はどうだった? 友達出来たか?」


「結構たくさんできた。みんなフレンドリーで優しくってさ、凄い親切にしてくれたの」


「うっ……俺友達三人くらいしかいないのに……」


「少な!」


「しょ、少数精鋭なんだよ俺は!」


「ふっ」


 鼻で笑われた。

 なんだか、何もかも茜に見透かされているような気がしてきた。

 やっぱり、俺の幼馴染すげぇな。


「今度歩夢にも友達紹介してあげるよ。一人気が合う子がいてさ、歩夢に会ってもらいたいなって思ったの」


「へぇ~そうなんだ」


「ちなみに、めちゃくちゃ可愛いから惚れちゃダメだぞ?」


「茜より可愛い女子いないから安心しろ」


「ふ、ふ~ん。そ、そうなんだ~、ふ~ん……」


 最近どうやら茜は攻めに弱いということが分かったので、積極的に攻めることにした。

 と言っても、ただ照れる茜が最高に可愛いから見たい、という願望のもとだけど。


「と、とにかく、今度会わせたげる」


「おう、サンキュー」


 茜が俺に紹介したくなるほどの人とは、一体どんな人なんだろう。

 期待しつつ、ひそかにその時を楽しみにしておくのだった。

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