第9話 おかえりコスプレメイド

「おかえり、旦那様♡」


「……どした?」


 学校から帰ると、そこにはメイドのコスプレをした茜が立っていた。

 いつものアクティブな茜というよりは、本物のメイドみたいに落ち着きを払っている。


 なんだこれ……イイ。

 ハチャメチャな展開を度外視して、俺はそう思った。


「どうよ茜ちゃんメイドバージョンは」


「……はっきり言って、めちゃくちゃいいです」


「す、素直に褒めたな……ありがと!」


 茜は本物のモデル。それも今若者の間で大人気のモデルだ。

 それにメイドコスプレが加わるなんて、鬼に金棒。

 圧倒的な可愛さを前に、ノックアウト寸前。


 ま、眩しい……!


「実は百合さんがメイドコスプレ一式持っててね、それで特別サービスで出迎えてあげようと思ったの」


「なんで俺の母さん持ってんだよ……」


「若い頃にそれで将司さん落としたんじゃない?」


「……めっちゃ想像できる……」


 ちなみに将司とは、俺の父さんだ。

 今は単身赴任で海外に行っているが、母さんが毎晩ビデオ通話しているので、自然と単身赴任感はない。


 俺の母さんと父さん、ほんと今でもラブラブなんだよなぁ……。

 思春期の息子としては、控えて欲しいという気持ちがあるのだが。


「まぁ歩夢の恥ずかしい動画等々で今日は一日楽しませてもらったし、お返しよお返し」


「メイドコスするくらいのお返しって……ほんと俺どんな醜態をさらしたんだ?」


「いやぁほんと、ひどかった」


「そんな満面の笑みで言うか⁈ でもそんな、茜が喜ぶような黒歴史晒してないと思うけどな……」


 強いて言うなら中二の頃に茜が帰ってきたときのカッコいいセリフを練習していたことくらいで……まぁあれはさすがにバレてないだろう。(フラグ)


 あとは俺の部屋にあるあれ……はさすがに見られてないよな。ちゃんと隠してるし。

 母さんだって知らないのだから、きっと大丈夫だろう。(特大フラグ2)


 ひとまず玄関に長居するのはあれなので、靴を脱いで自室に向かう。

 その後ろをルンルンの茜がついてきていた。


「……どこまでついてくるんだ?」


「えへへ、どこまでも」


「っ……」


 可愛いと思ったのは決して言わない。

 言ってしまったら、俺が恥ずか死ぬからだ。


 俺の部屋に入ってもなお、茜はルンルン顔で俺の後ろをついてきていた。


「まさか着替えまで覗くつもりか?」


「いやいや、何なら私がお着替えさせてあげましょうか? ご主人様?」


「そ、そんなのいいわ! は、ハレンチな!」


「むぅ~、全く歩夢はガードが堅いなぁ」


「お前がゆるゆるなだけだ」


 全くいつまで茜のかまってちゃんモードは続くのだろうか。

 正直嬉しいし可愛いけど……俺の心臓が先に天国に行ってしまいそうである。


 ふと、視界に不自然に空いたクローゼットが目に入った。

 何かが飛び出ていて、その何かの見当がついた俺は背筋がぞっとする感覚を覚える。


「ま、ま、まさかお前……」


「んふふ」


 未だに笑みを浮かべる茜。

 それはほとんどイェスと言っているようなもので、疑惑が確信へと変わった。


「見たんだな?」


「えぇ見ましたとも。んふふ」


 やたら上機嫌の茜。

 するとクローゼットを勢いよく開けて、その物(ぶつ)を拾い上げて俺に見せた。



「私の雑誌……昔から買っててくれたんだね」



 ……。


「すごい嬉しいよ、私。心がぽわーって温かくなるんだ、これ見たら」


「……そ、そうか」


「ありがと、歩夢」


「……はぁ、ほんとはお前にだけはバレたくなかったんだけどなぁ」


「えっ? なんで?」


 なんでって、そんなの決まってる。


「――カッコつけたかったんだよ」


 陰で実は茜がモデルデビューしてから、茜が載っている雑誌をすべて購入して、ひそかに応援していたのが本人にバレることほど恥ずかしいことはない。

 あくまでも陰で応援するからこそなのだ。


「何言ってんの、歩夢は普通にカッコいいよ」


 その言葉が、恥ずかしさを貫いて心の最深部に突き刺さった。

 茜は「何もおかしいこと言ってないでしょ?」と言った顔をしていて、なおさら心にジンと来るものがあった。


「そ、そうか……まっ、お前の方がカッコいいし、超可愛いけどな!」


 本心からそう言った。

 というよりは思わず言ってしまったという方が正しいだろう。


 だからこそ、ストレートに俺は「カッコいい」と「可愛い」を言ってしまった。

 それに気づいたころには、茜は顔を真っ赤にして、手で顔を抑えていた。


「す、ストレートに言いすぎだよ……ばかぁ」


 ……よく思わず口に出した俺。


 脳内で俺がスタンディングオベーションすると同時に、これから定期的に可愛いを供給してみようと決意する俺だった。


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