第3話

◇◇


 森林公園での写生がはじまった。

 私はモエッチ、ヒナと一緒に、芝生広場の一角を陣取り、青い空と緑の森の見事なコントラストをキャンバスで表現する。

 お昼前。視界の端にアスカ先生の姿をとらえると、彼女の元へ駆け寄った。


「アスカ先生! 準備はどうですか!?」


「言われた通り、サンドイッチをたくさん作ってきたわよ」


 大きなお重にギッシリ並んだサンドイッチ。しかも3段がさね。

 量はじゅうぶん。でもちょっと気になることがある。どれもピンク色のハムと緑のレタスしか見えないのだ。


「先生。『トマト』を挟んでください、ってお願いしましたよね? これじゃあ、レタスとハムのサンドイッチじゃない!」


 アスカ先生は大きな眼鏡の向こうで眠そうなタレ目を見開いた。


「勘違いしないで、明智さん。トマトは奥に隠してあるのよ。ほら」


 のんびりした口調でそう答えた先生が、一つを開いて見せる。

 確かにハムとレタスの背後に、スライスされたトマトが顔を覗かせている。


「はじめから嫌いなトマトが見えてたら、手に取ってくれないかもしれないでしょ。だからあえて隠しておいたのよ」


 なんと……。天然、のんびり屋、ちょっぴりドジのアスカ先生とは思えないトリック。


「ふふふ。ガブリと一口食べた後の大森先生の顔が楽しみだねー」


「アスカ先生……。もしかして性格悪い?」


「明智さんに言われたくないわー。でも、本当にやるの?」


 アスカ先生が上目で覗き込んでくる。たじろぐどころか、私はぐいっと顔を突き出した。


「聞くまでもないです! 先生の秘密は私が暴いてみせます!」


 先生は、ふぅ、と小さなため息をつく。


「なら仕方ないわね。でも、これだけは言わせて。最後まで逃げちゃダメよ」


 どういうこと?

 私が逃げる?


「あははは! そんなことありえませんから! 心配しないでください! 一度走り出したら誰も止められない――『三中の暴走機関車』とは、何を隠そう、この私のことなんですから!!」


 ドンと胸を叩く。アスカ先生は小首を傾げて微笑んだ。

 同時に大森先生の大きな声が響き渡る。


「よぉーし! みんなぁ!! そろそろ昼休みにするぞー! 各自、持ってきた弁当を食べるように!」


 いよいよ大森先生の謎を暴く時がやってきた――。



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