第3話 面白い男とつまらない男

ドゴンッ


 鈍い音が頭の中に響きわたる。

(あれっ)


 朦朧する中、目の前のあった人影がいなくなり、周りがうるさくなって頭が割れそうになる。なんとか重い瞼を開けようとするといつもと同じ、四角リングがあるような気がするがいつもより狭く感じるのは気のせいだろうか。

(目の前の敵がいないってことはラウンド終了か?トレーナー・・・)

 

―――21連敗したって気にすんじゃねぇよ。止まない雨はねえんだから


 ぶっきらぼうで、それでいて面倒見のあるいつものトレーナーの悲しい顔を思い出す。


(あぁ、そうだ。俺は・・・総合格闘技を辞めたんだ・・・あれっ、じゃあ・・・)


「来るわよ!!」

 その声の方を見ると、この前の九条凛がいた。ポニーテール姿がかわいい。

「あっ、思い出した」


 ドゴォォオオン


 急に後ろから首のあたりに強い衝撃が走り、頭からマットに叩きつけられる。



―――3日前

「へっ?プロレス?それも、明々後日?」

「そっ!明々後日。ちなみにあなたが勝たないと、私はあいつの奥さんになって、このジムは潰れちゃうから。頑張ってね♡」

 凛がポスターを指差す。金髪に鋭い目つき。笑顔から顔を出す頑丈そうな歯。分厚い胸板、引き締まった足腰、陸上選手の太もものような腕。

 

 プロレスをほとんど知らない人でも知っている有名人———

 フェニックス・カイザーを指差す。

 

「えっ、無理無理。俺総合格闘家だし、それも21連敗して引退決めたばかりだし」

「引退決めたんでしょ?じゃあ、バイバイ総合格闘技、よろしくねプロレスさん、ってことで」

 無茶苦茶なことを言っているが、不覚にも凛のまっすぐな笑顔はとてもすてきだと思ってしまった。



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