十六話「ログアウト不能の真実」

『現在このゲーム世界に閉じ込められているプレイヤーは十万人……いや既に八万二千人程にまで減少してしまっている。私が策を講じていなければ、被害者はもっと多く出ていたでしょう』


策……この男が?一体何を?

俺の疑問はその数秒後、彼の口から答えを聞くことになる。


「このゲームからログアウトを出来ないよう細工したのは私です」


……!衝撃。

この男の口から発せられた言葉は俺の体内でこだましている。


「理由はあります」


男はPCのモニター画面を動画に映す。


『私はゲームのプログラムを解析するのが趣味でして、今回このゲームを解析してみたら驚くべき事が分かったのです……』


神妙な面持ちで、デスクトップ画面にあるファイルをダブルクリックする。それと同時にデスクトップの画面に大量のコードが書かれたページが表示される。

俺には何が書いてあるか分からないが、このゲームのコードらしい。


『現在、このGMWのサーバーにアクセスした回数は10万5286回……つまりこのゲームにログインした人数、プレイヤー人口といえば分かりやすいでしょうか』


そのままコードがびっしりと書かれたページをどんどん進める。


『だが現在は、9万3036回……約一万二千人程のアクセスが消えている。つまりGMWのサーバー内に存在しないという事です。彼らがどこへ行ったのか?私はそれを突き止めました』


ガタッ

部屋の椅子から思わず立ち上がる。

ゲームオーバーになったプレイヤーの場所が……分かっただって?

こいつの言う事が本当なら……


「と、とりあえず続きを見よう」


思わず止めてしまった動画をまた再生する。


『このコードを読み解くとプレイヤーがログアウトを行った時、プレイヤーがゲームオーバーになった際にある独立サーバーにプレイヤーの神経、知覚情報が転送されている事が書かれていて……」


その後もその男は話を続ける。一応理解出来た部分をまとめるとログアウトをしてしまった人と、ゲームオーバーとなった人があらゆるネットワークから隔離されたサーバーに閉じ込められているらしい。

……俺達は知らない内にこの男に助けられたらしい。

あのゲームにログインした時点でログアウトのボタンを押してしまったら戻るのは現実世界ではなく独立サーバー、ということだ。だからこの男はGMWからログアウトしないよう細工をしたらしい。

独立サーバーとやらはあの男が言うにはVRゲームの世界を知覚し、自らのアバターを動かすプレイヤーの神経と脳の電子データを保管する場所らしい。

動画も後半に差し掛かり、男は新たな話題を話し始める。


『最後に幽閉されたプレイヤー達へ朗報を伝えておきます。コードの解析の途中、とあるコードを見つけました。

闇を統べ、渾沌と原始の象徴とされる黒原竜プライオスの討伐というイベントが、現在このゲームの最後のコンテンツ。現状のラスボスと捉えていいでしょう。そしてそのイベント出現させるには、現在このゲームに存在する5つのマップ。草原、密林、原生林、火山、氷河のと呼ばれるモンスターを全員討伐することが条件です。……それによって黒原竜のイベントが発生するとこのゲームコードには記されてます』


最後に話したその内容は確かに朗報と言えるべきものだった。

この情報が確かなら俺とユイが倒したロウガロクを除いた4匹のモンスターを討伐出来れば、ゲームクリアへの挑戦権が得られるという事だ。

……終わりの見えなかったこのゲームに一筋の光が差し込んだ。


『今の所、分かったのはこれだけです。細かい所の解析は分かり次第、投稿していきます……GMWにいる皆さん!安全第一で!決してゲームオーバーだけは避けて下さい!」


最後にそれを強く呼びかけ、その男の動画は終わる。


俺は動画を閉じ、チャット欄を見る。


「これ、投稿されたの1日前……だよな。他の配信者とかは見てたのか?」


気になっていたことをリスナー達に聞く。

この情報がプレイヤー達、特に前線のプレイヤー達に届いているのか……届いているのであれば、討伐隊を中心に前線プレイヤー達で統率をとって戦うべきだろう。恐らく草原以外のステージの主はロウガロクとは比べるまでもなく強力だろう。草原ステージはいわゆるチュートリアル的なステージだ。その為ロウガロクのスペックは大分抑えめだったのではと今では思う。MMOというジャンルである以上、複数人でのプレイを前提としてるはず。それを俺とユイのソロプレイヤー二人での討伐が成功したのは、操演槍そうえんそうによる攻撃力上昇による短期討伐、ロウガロクの情報を手に入れることが出来ており、対策がある程度出来たという理由が大きいだろう。

実際ロウガロクの任務はランク5の通常任務の中では最高ランクに当たるものだったが、俺が前に戦った風鼬竜フウユガルはランクが8の高難易度任務のちょうど真ん中といえる所だ。

こう見れば他のステージの主はランク8、もしくは9辺りになると考えられる。その場合は、強力なプレイヤーで構成された部隊でなければ安全を維持したまま主達と戦うのは困難だろう。


チャット欄を覗くと、リスナー達から返事が返ってくる。


『大手の配信者は既にリスナー達に指摘されて、気づいて

るみたい。個人の配信者もリスナーが多い人達は知ってるかも』


「そうか……ありがと」


となると、知ってる人間はほとんど前線プレイヤーのみか……GMWの配信者の殆どは前線プレイヤーだからな。

というのも前線プレイヤー以外は配信出来る環境があったとしても配信はしないだろう。見せる必要がないし当然の事だ。

……そうだよな、普通は配信なんてしないよな。

ふと思う。

2044年現在、日本では一般人でも当たり前の様にネットに声を出したり、顔を出す事が一般的になっていった。

2010年代の急速なSNSの発展や動画投稿サービスの大衆化なとからこの流れは生まれ、今では小学生でも配信や動画投稿サービス、SNSのアカウントが作って顔を出しているから驚きだ。

今では顔を出してる投稿者や配信者の方が圧倒的に多く、俺の様に顔を出さずに声だけをゲーム画面に出力している配信者は昔のステレオタイプの配信者であり、絶滅危惧種となっている。だが、いくら広まったといっても配信をしない人は一生やらないものだ。それに始めたはいいが数ヶ月でアカウントが無くなっているなんてのは日常茶飯事の事だ。つまり殆どの人は配信を数ヶ月で引退してしまうのだ。それが当たり前……それは動画投稿者と呼ばれる界隈でも同じだ。カジュアルなゲームプレイヤーは、その場のノリでアカウントを作り、アップロードしたりするが反応が無ければ即刻アカウントごと削除だ。活動を継続させているだけでも凄いのだ。それで結果を残してる人間はさらに凄い。


そういう背景もあり、現在GMWの8万人に当たる人で配信している者はほぼ皆無といっていいだろう。


8万人の大半はVRゲームを始めたての初心者、動きが鈍くてまともに動くのすら危うい老人、そして命の惜しい者。殆どがこの3種類に分類される。この中でわざわざ配信しようという者はいないだろう。


「こうやって惰性で配信続ける奴の方が珍しいのかもな〜」

俺はベッドに倒れ込み、体を横にする。


「この話、ユイにも言っておくか」


俺はメニューを閉じ、一瞬目を瞑った。

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