第四話「隠しステージ」

朝日が目に染みる。

目を覚まし、木造の天井が視界に入る。背中にベッドの感触を感じながらゆっくりと起き上がる。

昨日の騒動に巻き込まれて疲れたせいか寝つく時の意識がない。

それにネットは未だに繋がらない。

今日からはとりあえずこのゲームの基本のシステムに慣れておかなければな。

調合というシステムやアイテムの効用は知っておかなければ、安全に生きるのも難しくなる。

とりあえず生き残る事が最優先事項だ。恐らくここに監禁されたプレイヤーもそれを第一に考えているだろう。

俺は天井を見上げ、深呼吸する。

とりあえず今は安全な所でアイテムを集めて、装備を整え、武器を調達して戦えるようにしよう。

俺はベッドの隣に置いた靴を履き、部屋を出る。


〜草原 3番エリア〜


草食の小型モンスターが草原を駆け抜ける。


そんな中、地面に平伏しながら回復アイテムであるヒールリーフを集めていく。


「よし、ここら辺は全部取ったかな……っと」


立ち上がり、伸びをしながら周りを見る。170センチほどの大きな岩がマップの中央にそびえ、中央から離れるにつれ段階的に草の背が高くなっている。

草を掻き分けながらマップの奥へと進んでいく。


「お、あったあった。えーと、ジヨウソウ……で合ってるのか?」


アイテム図鑑を見ながら照らし合わせていく。


昨日の雨で濡れているが、巻いた葉に黄色の花弁、間違い無くジヨウソウだ。

根っこから引き抜くと目の前に


「ジヨウソウを手に入れた!」


とテロップのようなものが出てくる。

まだあるジヨウソウを獲ろうと地面に肘を落とした時に目の前の草の先に何か見える。

ん?これは……穴?

木の根の下、しゃがめば入れそうな小さな穴の先は小さな空間が確認出来る。手を地面につけ覗き込もうと前のめりになる。

ずるっ

俺は雨でぬかるんだ土により手を滑らせる。

上半身は穴の中に吸い込まれ、物凄い勢いで穴を滑り落ちる。


「ちょっちょ、落ち、落ちる!ていうか落ちてる!」


あまりの突然の出来事に思わず叫んでしまう。

そのまま俺は穴を通り抜け、地面を数メートル転がる。

砂埃が舞い散り、体の節々が痛い。


「痛った……し、死ぬかと思った」


とりあえず切り傷や打撲は無さそうだ。服についた砂埃を落としながら周りを眺める。

とても小さいステージ、モンスターがいる様子もない。マップには俺と……倒壊した大きめの祠があるだけだ。怪しい……怪しすぎる。それにマップの詳細を調べてみるが何も書いていない。本来ならばマップを開いて詳細という所を押すと、このゲームの背景ストーリーみたいを交えて、どんなステージなのかが書いてあるのだが、このこじんまりとしたステージには何も書いていない。

祠の紙垂しでは土と雨風でボロボロになり、殿舎でんしゃの部分は跡形もなく崩れ落ちている。

そしてその崩壊した祠に近づく。……トラップという訳じゃなさそうだ。祠の残骸を少しどかすと、何か長方形の物体が見える。新しいアイテムか?

大きさ80センチほどの長方形の棺が出てくる。


「何だこれ?少し重いけど……」


少し重さを感じるそれは、錆と風化による劣化が著しく激しい。そしてアイテムの表示も出ない。


「って事は……オブジェクト?」


いや……それはないな。

オブジェクトならVRゲームの場合、必ずオブジェクトはプレイヤーに分かるように設定されている。

このゲームはオブジェクトに触れた際はエフェクトが入るのが分かっている。木箱に座った時もそうだが、俺はオブジェクトだと分かって座れた。

VRゲームでオブジェクトは敵もプレイヤーも破壊できないのがセオリーだ。破壊できるオブジェクトは必ず耐久値や壊れるモーションなどがちゃんとプレイヤー側に表示されるようになっている。

しかし、オブジェクトもなくてアイテムでもないとなるとこれは一体……


「とりあえず……持ち帰ってみるか」


持ってて何か損があるようには思えないし、とりあえず持ち帰って保管しておこう。ゴミだと分かれば後で捨てればいい。体を動かしたせいか昨日の嫌な疲れが減った気がする。俺はさっきのステージで手に入れたツルでその棺を背中に固定して、穴を抜けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る