Chapter3-BLOODY JOWS/血の刻印


 お互いギアフィールドに無事投下され、ソルジャーゲームが始まった。



 少しずつ距離を詰めるフェニックスギアに対し、ブラッディージョーズはまるで獲物を見定めるように投下後もジッとこちらを睨み続けていた。



「なんだ、一体何を狙ってる?」



「がんばれまわるーーッ! ここで優勝すれば日本一のコマンダーも夢じゃないぞーーッ!」



 あの禍々しいギアソルジャー……普通じゃない。



 敵の能力が分からない以上まずは様子見から入るのが得策か。

 


「ギアライフルで射撃しながら確実にダメージを与える! 構えろ!」



『任せろ! チェイサァーーッ!』



 俺の指示に合わせフェニックスギアはギアライフルから無数の創成因子ホビアニウムの弾丸を繰り出した。



「フェニックスギアの攻撃は全弾命中ーーッ! ブラッディージョーズは血しぶきを放出し苦しんでいるぞーーッ!」



『こちらの攻撃は有効だ! このまま押し切るぞ!』



「……あぁ」



『チェイサァーーッ!』



 再び弾丸の雨がブラッディージョーズを襲った。


 そして当然のように全弾命中である。



 何故攻撃を避けない。距離や弾速から決して避けられないようなものでもないはずだ。



 あの機体へのダメージ量からいっても防御特化のギアソルジャーでも無いようだし。



 そういえばブラッディージョーズの機体から噴出している血は奴の創成因子ホビアニウムが変異したものか。



 フェニックスギアの銃撃を受け続けた影響でギアフィールド内はブラッディーシャークの返り血で赤い血溜まりが覆っていた。



 あの血がブラッディージョーズの能力に関係するものだとしたら。



「っ!」



 俺の脳内を横切る一つの懸念。



 敵はのか?と。




「攻撃をやめろ!」



『何故だ? 圧倒的にこちらが有利ではないか』



「敵はあえて攻撃を受けているんだ!」



『な、なんだって!?』



「防御や回避のアクションをしてこないのがいい証拠だ。奴は自らの能力を最大限生かす為に反撃の準備をしていたのさ」



 BLOODYブラッディー JOWSジョーズ


 もしもその名の通り血まみれになることで能力が発動するギアソルジャーなのだとしたらこれ以上攻撃を与え続けてギアフィールド内に血溜まりを作るのは危険だ。



「やっと気付いたようだね。でももう遅い、君のギアソルジャーを血祭りにあげる準備は出来ているのだから」



『廻! いないぞ! 敵が何処にもいない!』



 フェニックスギアの言う通りブラッディージョーズが投下した地点には何もいない。



 しかしモゾモゾとギアフィールド上で音はしている。


 奴は隠れながら移動しているんだ。



 しかし何処へ……ギアフィールド内に隠れられる場所なんてないぞ。




「既にお前は血に飢えた鮫の巣食う生簀に放り込まれた小魚も同然。存分に絶望を味わえ」



『どこに隠れている……ん?』



 周囲に見渡してみると血塗れになった地面から突き出ている何かがこちらに向かって近づいているのを発見した。



 ブラッディージョーズの背ビレだ。



 奴は血溜まりの中に潜水しているのか。



「あれがブラッディージョーズの能力か」



「ヒヒヒ……ブラッディージョーズ!」



 地面からブラッディージョーズが飛び出てフェニックスギアに襲い掛かった。



 自ら生み出した血溜まりの中に潜み泳ぐことが出来る。それがブラッディージョーズの能力。


 最初奴がわざと攻撃を喰らったのはギアフィールド内を血まみれにすることで自分に有利な戦場を作り出す為だったわけか。



「やむを得ない……接近戦で勝負だ!」



 既にブラッディージョーズは眼前に迫っている。この距離じゃ銃撃戦は厳しいか。



『チェストォーーッ!』


 フェニックスギアとブラッディージョーズはギアフィールド上で激しくぶつかり合い、やがて取っ組み合いとなった。



 フェニックスギアとブラッドジョーズのパワーは互角。


 お互いの機体から創成因子ホビアニウムが弾けて飛ぶ程の衝撃だった。


「ヒヒヒ……」


 一条寺いちじょうじハジメは不敵に笑っている。

 まるで罠にかかった獲物を見るような愉悦に満ちた笑顔だった。


「ヒヒヒ……かかった! 固有ユニット解放!」




 ブラッディージョーズは頭部の装甲を限界まで開けた。

 ギロチンのように鋭く生え揃った歯。

 あれに噛まれたらひと溜まりもないことは確かだ。



「ハイパーデスジョーズ! いいぞォ! そのままフェニックスギアを噛み砕いてくれたまえ!」



「急いで距離を取れ! 攻撃が来るぞ!」



『ダメだまわる! 奴のパワーが強すぎて離れられない!』



 フェニックスギアの両手は既にブラッディージョーズの両手に固定されている。



 鮫由来の脅威的なパワーはしっかり持っているわけかよ。



「死ね! フェニックスギア!」



『グァァァァァァァ!』



 ブラッディージョーズはその大顎でフェニックスギアに齧りついた。


 断末魔のような慟哭を上げるフェニックスギア。その間もミシミシと装甲に歯が食い込んでいた。



『あぁっ! ぐぅっ! はぁっなせっ!』



 首元を的確に狙ったフェニックスギアのキックがヒットしブラッディージョーズの拘束が緩み、脱出に成功した。



「平気か?」



『ハァハァ……なんとか食いちぎられる前に脱出出来たが、オレの装甲アーマーをここまで傷つけるとは恐ろしいパワーだ』



「なんて脅威的なパワーなのでしょうかぁ! ブラッディージョーズの強靭な顎の力によってフェニックスギアの装甲アーマーは痛々しい傷が刻まれました!」



「ひとまず距離を取り立て直すぞ……ん?」



『噛まれた場所が光り出したぞ!』



「血の刻印さ、シャレているだろう? 有り難く受け取りたまえ」



 傷口からブラッディージョーズの血が入り込んだのか。

 血の刻印……なんて悪趣味な。



「そしてこれでもうお前は逃げられない! どこまでも追い続けてやるぞ! 必殺技発動!」



 カチッ。

FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』



「一条寺選手! ここで必殺技トリガーを押し必殺技発動を宣言した!」



「ブラッディートルビード!」



「ブラッディージョーズの頭部に備わった歯の一本一本が小型のミサイルとなり撃ち出されフェニックスギアに襲い掛かる!」



「ギアライフルで撃ち落とせ!」



『チェイサーーッ!』



 ギアライフルでミサイルを撃ち落とすも数が多い上にどこまでもフェニックスギアを追ってくる。


 どんなに上手にミサイルを避けても再びミサイルは軌道を変え向かって来た。



 そしてその度にフェニックスギアに刻まれた血の刻印は強い光を放っていた。



 血の刻印が出来上がった時一条寺は『これでもうお前は逃げられない』と言っていた。



 あの血の刻印はただのアクセサリーなんかじゃない。



「ブラッディージョーズの放ったんだわ! やっぱり変よ! 一条寺ハジメが準決勝まで使っていたギアソルジャーとは何もかもが違い過ぎる! あんなのインチキじゃないの!」



『グァァァァァァ!』




 次々にミサイルがヒットし、断末魔のような悲鳴をあげるフェニックスギア。



「ブラッディージョーズの必殺技! ブラッディートルビードがフェニックスギアに多段ヒーーーーット! これは苦しい! 序盤のフェニックスギアワンサイドゲーム展開から一転しブラッディージョーズが猛反撃に出た!」



「サメは9000リットルの水に垂らした一滴の血液をも嗅ぎ分けられる鋭い嗅覚を持つという……ブラッディージョーズにはそれと同様創成因子ホビアニウムを感知する高性能なレーダーが備わっているのさ」



「対戦相手に種明かしなんて随分と余裕だな、次はこっちから行くぞ!」



『おう! チェイサー!』



 ギアライフルを構えカーテンにも見えるほど無数の弾丸の幕を発生させ、ブラッディージョーズを攻撃する。



「次はない。だから明かしたのさ。ボクは優しいからね」



 カチッ。

FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』



「なっ!」



「ブラッディートルビード!」



 既にブラッディージョーズの歯は新しいものへと生え変わっており、間髪入れずに必殺技が繰り出された。


 ギアライフルの弾丸達を軽々しく弾き飛ばし、尚もフェニックスギアを目指し襲い掛かる。



『馬鹿な!? ブラッディージョーズの歯が再び生え変わっている!』



「鮫なんだ、歯は何度でも生え変わるさ。そして生え変わる度に威力も跳ね上がる!」



『ぐっ! ダメだ! とても全て撃ち落とすことは出来ない!』



 ミサイルの雨は第一打に比べパワーもスピードも追尾性能も上昇していた。



 そして再びフェニックスギアにブラッディージョーズのミサイルがヒットする。



「フェニックスギア!」



「ブラッディージョーズの必殺技が再びフェニックスギアにヒーーット! 畳みかけるもう攻撃を前にフェニックスギアついにダウーーン! これよりカウントに入ります! 1ワン! 2ツー!」



「ソルジャーゲームではたとえ場外になっていなくても5秒以内ファイブカウントで起き上がらないと負けになる。しっかりしなさいよもう……っ」



「ヒヒヒ……これで優勝はボクのものだ! ハハハハハハハハ!」



 一体どんだけ能力持ってるんだ。

 攻守共に隙が全く無い。

 とんでもないバケモンがいたもんだぜ。


 創成因子ホビアニウムが尽きる様子も無い。



 創成因子ホビアニウムの根源はコマンダーの感情エネルギーだ。

 これだけハイペースで必殺技を連続で使用していればコマンダー側にも相当な負担がいっているはずなのに。



3スリー! 4フォー!」



『グッ……まだ! まだ終わっちゃいない!』



「フェニックスギア起き上がりました! カウント中止! ゲームを続行します! ブラッディージョーズの連続攻撃を受けてもなお不屈の闘志を見せ立ち上がったァーーーーッ!」



『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』



「平気か?」



『オレは不死身のフェニックスギア! 君の心に太陽がある限り何度でも立ち上がる!』



「ハッ! ハハハハハハ! それでこそ俺の相棒だ!」



「ヘラヘラ笑っていられるのも今の内だ歯車はぐるまわる! こちらは既に第三打の装填が完了している! 第二打よりさらに強力となったブラッディートルビードだ! 耐え切ることも避け切ることも出来まい!」



「今日はいい天気だなぁ」



「は?」



 空を見上げれば鮮やかな青空と灼熱の太陽が広がっている。

 先程まで追い詰められた状態にあったことも忘れ俺は眼前の青空に目を奪われた。



「雲一つ無い日曜日の昼下がり……自然と力が湧いてくる最高のロケーションだ。お前もそう思わないか?」



「真剣勝負の最中にどこまでもふざけた奴だ! 今度こそ完全に噛み潰してやる!」



 カチッ。

FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』



「ブラッディートルビード!」



 かつてないほどにパワーアップしたミサイルに観客の誰もが勝敗の決着を予想した。

 今度こそフェニックスギアは粉々に破壊されるという未来を。



「行くぞフェニックスギア! 固有ユニット解放!」



『チェーーリィーーッシュ!』



 俺の固有ユニット解放の合図と共にフェニックスギアは胸部のソウルギア目掛けて指を突き立てた。


 まるで心にサムズアップをするように。



「いまさら悪あがきをしても無駄だ! 存分に絶望を味わい! 噛み潰れろ!」



 ミサイルの雨がフェニックスギアに直撃する。

 次々とミサイルが飛び回り、突き刺さり、爆発した。


 やがて爆風によって舞い上がった砂埃が吹き止むと真紅の創成因子ホビアニウムを纏った光り輝く不死鳥の機兵が姿を現した。



「なんだこの光は!? この創成因子ホビアニウムは!?」



太陽光吸収機関ソルブレイザー機動!』



「さぁ……ここからがフェニックスギアの無敵時間ゴールデンタイムだぜ」




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