闘魂機兵*ギアソルジャーズ

鳳菊之介

SOLDIER GAME STANDBY?

第1廻-WGC地区大会決勝!歯車廻VS一条寺ハジメ!

Chapter1-SOLDER GAME/戦いの幕開け





「レディースエーンドジェントルメーン! 世界一のコマンダーを決めるソルジャーゲームの祭典! ワールドギアソルジャーチャンピオンシップス地区予選もいよいよ大詰め! 既にベスト4まで出揃ったぞ!」



『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』



 巨大なアリーナの観客席には溢れんばかりの人と人。



 太陽の熱気と人々の活気に当てられたギアフィールドには二人のコマンダーが相対し、ソルジャーゲーム開始のゴングを待っていた。



「セミファイナル第一試合を飾るのは、3度の飯よりギアソルジャーが大好きと豪語する少年! 今大会初出場にして破竹の勢いで強豪コマンダーをバッタバッタと薙ぎ倒してきた期待の超新星! 歯車はぐるまわるゥゥゥゥゥゥ!」



 名は体を表すという言葉がある通り、歯車はぐるまわるという少年のヘアースタイルはどこか独創的で、鋭利な歯車のようなギザギザとした頭をしていた。



 そしてその少年の肩に乗っているのは赤い不死鳥を模した小型のロボットの名はフェニックスギア。


 彼らは通称ギアソルジャーと呼ばれ、この世界では今このギアソルジャー同士を戦わせるソルジャーゲームなる対戦競技が大流行しているのだ。


 そしてギアソルジャーと共に戦う人間はコマンダーと呼ばれ、ソルジャーゲームにおいては適宜ギアソルジャーに戦略的な指示を出す司令塔としての役割を担っている。



「対するは好きな食べ物はカレーライス! 好きな飲み物はカレーライス! 好きな季節はカレーがおいしい季節! カレーに生卵をかける奴は○ね! 過激派カレー野郎! 華麗コバヤシィィィィィィ!」



 誰もが世界一のコマンダーを目指すべく、バトルアンドバトルの日々を送っている。

 この少年、歯車はぐるまわるもその中の一人だ。



「さぁ誇り高きコマンダー達よ! 信頼すべきギアソルジャーと共に戦場を駆け抜けチームを勝利に導け! ソルジャーゲームスタンバイ!」



 ガチャン。

PHOENIXフェニックス GEARギア SETセット ONオン!』



 ガチャン。

CURRYカレー MAJINマジン SETセット ONオン!』



 ギアソルジャーをギアシューターという腕に装着する専用デバイスに差し込むと同時にガイダンスボイスが鳴った。


 ギアシューターはコマンダーにとって無くてはならぬ物。

 ソルジャーゲームではギアソルジャーをギアフィールドに射出する際に用いられる他、アストラルネットと呼ばれる独自の通信ネットワークを搭載しており、それを利用して遠く離れたコマンダー同士で連絡を取り合うことも出来る多機能デバイスだ。



「おいそこのギザギザ頭! ここはお子様の来る所じゃねぇ! お子様はお子様らしく家に帰って小麦粉ギットリの甘口カレーでも啜ってやがれってんだ!」   



まわる、あのカレー野郎が君を挑発しているようだぞ』



「ああいう輩を黙らせるにはソルジャーゲームで勝つのが手っ取り早い」



『合理的だな……しかしそれが一番良いか!』



「レディー! ファイト!」



 大会進行を務めるMr.ミスターホビーランドの号令により、一斉に腕に装着されたギアシューターから射出されるギアソルジャー達。



 射出されたギアソルジャーはギアフィールドに降り立ち、戦闘体制に入った。



『チェイサー!』



 先制したのはフェニックスギアだった。

 腰に装着されたギアライフルを発砲し、カレーマジンにダメージを与えた。



「なっ、あの距離から全弾命中だと!?」



「すごい! すごいぞフェニックスギア! 遮蔽物も物ともしない超ロングレンジからの鮮やかな射撃だ! 底が知れないぞこのギアソルジャーは!」



「だからなんだというんだ! ギアライフルは所詮どのギアソルジャーにも搭載されている基本ユニット! 決定力に欠ける貧弱ユニットだ! ソルジャーゲームは固有ユニットの使い所こそが勝敗を左右するのさ! カレーマジン! 固有ユニット解放だ!」



「おっとここで華麗コバヤシ選手が固有ユニット解放を宣言! 勝負を決めに来たぞ!」



「出でよミラクルカレークラフト!」



 カレーマジンの両手にカレーのルーが噴き出る噴射口が現れた。



「あの固有ユニットは……なるほど」



「熱きカレーを喰らえ!」



 噴射口から放たれたカレーが両手か弾丸の如きスピードで飛び出しフェニックスギアを穿った。



『ぐっ、しまった!』



「ん〜スパイシィィィィィィ! この勝負貰った! 必殺技発動!」



 カチッ。

FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』



「機体内でグツグツに煮え沸らせたカレーがフェニックスギアに直撃しバランスを崩したぞ! そして華麗コバヤシ選手! その隙を逃さずトリガーマイクの必殺技トリガーを押し、必殺技発動の体制に入ったぞ!」



「カレーに代わっておしおきだぜ! くらえ! マジン・ザ・カレーハンド!」



 噴き出されたカレーのルーが一つに集まり、巨大な二つの手の形へと変化した。



『ハァァァァァァァ!』



 カレーマジンの生み出した巨大な二つの手が迫り、殴りつける。

 しかしフェニックスギアは寸前の所でギアライフルの狙撃によって必殺技の軌道を逸らし、致命傷を避けた。



「ミラクルカレークラフトとは噴き出されたカレーを自由自在に操る固有ユニット……そしてカレーマジンのエネルギーが尽きない限りカレーは無限に湧き続けるということか……フェニックスギア」



『?』



「俺の作戦……伝わったか?」



 コマンダーの耳に取り付けられたトリガーマイクを通し、まわるはフェニックスギアへある指示を出す。一発弱点の指示を。



『あぁ伝わって来たぞまわる……君の!』



「よし! ぶちかましてこい!」



「ならばもう一度スパイシーなカレーを味わってもらう! 必殺技発動!」



 カチッ。

FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』



『同じ手は2度とは食わないぞ!』



 フェニックスギアは再びギアライフルを構え、カレーマジンを狙撃した。



「また懲りずにギアライフルか! 無駄だ! それ程度のダメージじゃカレーマジンの装甲アーマーには致命傷にはならない! マジン・ザ・カレーハンド!」



「それは……どうかな?」



「……なに?」



「カレーマジンをよく見てみなよ」



「馬鹿な!? 必殺技が発動しない!?」



 カレーマジンはトリガーマイクを通して必殺技発動の指示を受けたのにも関わらず、マジン・ザ・カレーハンドは不発。それどころが一滴も噴射口からカレーが噴き出る様子が無かった。

  


「必殺技がインパクトする瞬間……俺はフェニックスギアにある指示を出した。カレーマジンの噴射口目掛けて狙撃し、破壊しろとな」



 カレーを武器に戦うカレーマジンにとってカレーを噴射する両手の噴射口はまさに生命線そのもの。

 そこを破壊されれば固有ユニットは正常に機能しなくなり、戦力が大幅に低下する。

 フェニックスギアの射撃能力を信頼しているからこそ実現する作戦である。



「必殺技が決まるまでの一瞬の間に正確に噴射口を狙い、ピンポイントで撃ち抜いたというのか! お前は一体!?」



歯車はぐるまわる! 3度の飯よりギアソルジャーが大好きな小学生さ! とどめだフェニックスギア!」



『うぉぉぉぉぉ! チェストーーッ!』



 フェニックスギアの強烈なパンチがカレーマジンにヒットし、そのままギアフィールドの外まで叩きつけた。




「カレーマジン場外フィールドアウト! 勝者ウィナー! 歯車はぐるまわるゥゥゥゥゥゥ!」




『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』




「圧倒的! 圧倒的な実力を持って歯車はぐるまわる決勝戦進出です!」















 ***



「ダメだ……今のボクのギアソルジャーのスペックでは……歯車はぐるまわるのフェニックスギアに勝てない!!」



「い、一条寺いちじょうじさんだって決勝戦まで勝ち残ったんすから……そんな心配なんかしなくたって」



「そうっすよ! 一条寺さんなら楽勝っすよ!」



「うるさい! そんなお世辞は聴きたくない! それにお前達も見なかったのか!? フェニックスギアはまだ決勝まで固有ユニットも必殺技も使わずに勝ち上がったんだぞ! 実力が違い過ぎる! ボクにも……ボクにももっと強いギアソルジャーがあれば……ッ!」



 この少年、一条寺いちじょうじハジメも歯車はぐるまわる同様、決勝戦に駒を進めたが彼の持つフェニックスギアの圧倒的な強さを目の当たりにし、焦りを感じていた。



 トーナメント戦がゆえに一度でも負ければそこで終わりだ。その油断ならぬ状態が一条寺ハジメのメンタルを激しく追い立てていた。




「一条寺さん……」



「ボクは絶対負けない! どんな手を使ってでも勝ってやる! どんな手を使ってでもな!」



「そのドス黒くて澱んだ感情……いいもの持ってるじゃないボウヤ」



 カツンカツンとハイヒールで床をつつく音が近づいて来る。


 3人が後ろを振り向くと赤いロングコートと季節外れの白いマフラーを身につけた妖艶な美女が近づいて来た。


 サングラスをしているためその瞳が何を写しているのかも分からないが、美女は見た目に似つかわないほどのプレッシャーを放っている。

 

  

「だ、誰だアンタは……」



「誰だっていいじゃない。ただそうね……貴方に力を与えるものとだけ言っておこうかしら」



 生物的な危機本能を刺激されるような強いプレッシャーは『これ以上の質問は許さない』という意志の表れとも取れた。



「なんだこれ……ギアソルジャーか?」



 女の手にあったのはギアソルジャーの白い素体フレームだった。

 素体フレームとは人間でいう所の骨格にあたるパーツである。


 ギアソルジャーは素体フレームの上に装甲アーマーを装着することで初めてまともに戦えるようになるのだ。



「そうよ、決勝戦ではこれを使って戦いなさい。そうすれば必ず貴方は優勝出来るわ」



「一条寺さんまずいですよ! 大会中にギアソルジャーを別のものに変えるのは禁止されてますよ!」



「ふ、ふん……馬鹿にしやがって! それによく見たらこのギアソルジャー素体フレームだけで装甲アーマーをしていないじゃないか! こんなムキ出しで無防備なギアソルジャーで勝てるものか!」



「これはレギオニクスといってね、貴方の魂を写し取るヒトガタよ。どんなギアソルジャーになるかは……貴方のその感情次第よ」



「ボクの感情次第……」



 一条寺ハジメはごくりと生唾を飲み込んだ。この女は何一つ嘘を言っていない。

 そう確信できるほどの凄みがあった。



「嘘だと思うなら試してみるといいわ」



「これを使えば勝てる……フェニックスギアに勝てる……」



 気づいた時には一条寺ハジメの手にはソウルフレームが握られていた。

 まるで魂が見えない引力に引っ張られるように。



「さぁ……強く感情おもいなさい! 求めなさい!」



「ボクは勝ちたい……歯車廻に! 手に入れたい……フェニックスギアより強いギアソルジャーが! ぐっ、グァァァァァァ!」



「フフフ……良い子ね」



 ソウルフレームが澄んだ白から深く澱んだ漆黒に染まり、その後装甲アーマーが精製されていった。

 まるで一条寺ハジメの魂の慟哭に応えるように。


 そして装甲が完成した。

 オーシャンブルーの美しい装甲アーマーを汚すように部分的に返り血を浴びたような赤をあしらったその姿はまさに血に飢えた人喰いサメ。



「お前の名前は……ブラッディージョーズだ! アハ! アハハハハハ!」



一乗寺いちじょうじさんすげぇ……」



「こんなギアソルジャーがあったなんて……」



「おめでとう、そしてこれは私からのプレゼントよ」



 刹那夢か幻か女の指が蛇の姿に変わり、一条寺ハジメとその取り巻き2名の首元に深々と噛み付いた。

 

 蛇の牙から何やら毒のようなものが注入されていき、3人は大きな悲鳴を上げている。



「ぐ、グァァァァァァ!」



「体が熱い! 熱い熱い熱い!」



「一条寺さん! 一条寺さぁぁん!」



 噛みつかれた患部が黒く腫れ上がり、焼け爛れるような痛みに3人はのたうち回る。



 やがて黒く腫れ上がった患部は元の形に戻りながら赤黒い刺青を形成していった。



「フフフ……ギアデウスの祝福あれ……」



 女は意味深なセリフを呟きながらその場を後にした。








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